異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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火龍

PHASE-146【白】

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「すぅ……すぅ……」
 普段の凛とした姿からは想像も出来ない、可愛い寝息で眠るベルだが、残された俺たち三人は顔を見合わせる。
 三人が共通しているのは、目を丸くしていた事だ……。

「と、とりあえず運ぼう」

「俺がやります」
 ゲッコーさんが横抱きをしようと動き出したが、即座に阻止。
 
 決して、邪な考えがあるわけでは無い。
 俺が召喚した人物だ。俺がやらないといけないと発言。

「分かった」
 了承してくれた。

「よっと」
 ベルを横抱きで持ち上げて驚くのは、身長からは考えられない軽さ。
 170㎝を超えてると、普通は50キロ後半はあると思うんだが――。
 しかも軍人として鍛えているはずだから、体重はあって当然のはず。
 スタイルだって、相当に良いからな。
 
 だが、ベルを持ち上げた感じだと、40キロ半ばくらいだろう。
 
 考えられない。
 
 いや――、これもゲーム設定だからこそか。
 ゲームのキャラだからこそ、現実とは違うわけだ。
 
 なので――、これもゲーム設定ということでいいんだよ――――な?
 ベルの異変に俺の頭はやや混乱中だ。




「んん……。どのくらい経過した?」

「あ! 起きましたよ!」
 ドア向こうからの会話はちゃんと聞こえている。
 
 正直、体力が無くなっている状態のベルの横で、大声を出すもんじゃないと、コクリコに対して拳骨を見舞ってやりたいが、それ以上に安堵する。

「大丈夫か」

「失礼だぞ! 女人の寝室に入るとは!」
 ええ……。心配してたのに、そりゃねえよ……。

 ミズーリを召喚して、ベルを運んだ先は艦長室。
 
 流石は艦長室なだけあって、広いし、ソファだってここにいる面子なら余裕で座れるし、横になれるレベルである。

 だが、俺にはミズーリを操舵というか、操作しないといけない責任もあるし、女性の部屋に居座るのも問題なので、ゲッコーさんと二人で露天艦橋に移動して周辺警戒。
 休息を取る時は、艦長室前の通路って感じ。
 
 ベルが倒れて一日が経過。
 俺の体は通路で寝てたせいもあって、ガチガチに固まっている。

「――――それはすまなかったな」
 説明したら、素直に謝罪を受けた。
 気弱になってるのか? とも思ったが、そもそもベルは礼儀正しい女性だったな。

「でさ、皆が気になってるだろうから代表して聞くが、なぜ――――」

「髪が真っ白になってるんです?」
 本当にさ、このまな板はさ、俺の台詞をとるなよ!
 俺が聞きたかったんだよ!
 
 まあいい。とにかく、眼界のベルの髪は白い。
 倒れて眠った時に、赤い髪から徐々に真っ白になってしまったからな。

 それに、髪だけじゃなく、眉なんかも白色に変色している。
 
 白と言っても、老人のような活力のない白じゃない。
 
 赤髪の時と同様に、艶やかな美しい髪だ。
 
 銀世界の美しさが、髪にそのまま顕現したかのように、幻想的でもある。
 正直、これはこれでいい。とすら思ってしまう俺。

「力を使い果たしたからな」
 俺たちに目を向けず、反対側を向きながら言う。

 哀愁がある。まるで、病床でふさぎ込んでいるみたいじゃないか。

「使い果たしたなら、もう使えなくなるのか?」
 ここでゲッコーさんが切り込む。

「もし、そうだと言ったら、どうします?」
 という返答には、

「うんん」
 と、困ったのか、伝説の兵士は、小さく唸って明後日の方向を見ている。

「トールはどう思う?」
 えっと、ここで俺へと振ってきますか。ベルさん。

「別にどうとも」

「ほう、炎が使えなくなるぞ」

「使えなくてもあれだろ、別にそれだけの事なんだろ」

「それだけの事と言い切るとは……」
 あれ!? 地雷を踏んだ?
 利用価値なしとして、ポイ捨てされると思っているのか?
 俺はそんな男じゃないぞ。

「違うぞ。別に炎が使えなくても、ベル自体は強いから、問題ないと言いたかっただけだぞ」

「そうか。初めて言われたぞ。そんな事は」
 あ、柔和な表情に変わった。
 地雷を踏むのは回避できた。
 代わりに、好感度ポイントが上がったみたいだ。

 ゲーム内でも、ストーリーが進んで行けば、こんな状況があるのかもしれない。

 で、周囲からは、無敵の力を失ったとか言われて、辛い目に遭うのかもしれない。
 
 うん、想像しただけで、そいつらを俺がボコボコにしたい。

「実際どうなんだ? 体術や剣術は?」
 ちゃんと聞けてないから、ここははっきりと聞いておく。

「問題ない。炎が使えない以外は変わらない。髪の色は無くなってしまったが」

「いや、凄く綺麗だと思うぞ」

「そ、そうか……」
 あら、俺ってば、サラッと恥ずかしい事を恥ずかしげもなく言ってしまったよ。
 でもって、ベルが頬を赤くしてるよ。
 
 あれ? チュー出来る?
 
 ――……チュー出来るって発想にすぐに至るところが、童の貞なんだろうよ……。
 
 自分の発想を粉々にしてやりたいよ!
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