異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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チートがほぼ無い冒険

PHASE-252【衛生状態は最悪】

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 年老いたコボルトの傍らにはもう一体のコボルトがおり、同じく体を支えている。
 
 ――――杖をつく老いたコボルト。黒色毛並みのコボルトよりも毛並みが悪い茶色の毛。
 このコボルトもボロボロの服装だ。その隣も一緒。

 三体そろって困窮ってのが分かる。
 特に老コボルトは二足歩行もままならない状態。
 老コボルトの風貌は、ヨークシャーテリアのようで、口元の毛が長く、杖と弱々しい足取りから、相当にお歳を召されているようだ。

 現状で、俺を狙撃したコボルトも含めて四体。いや――、カリナさんを見習って、四人を確認。

「私はこの周辺のコボルト達の族長を務めておりますサランと申します」
 なんとも力ない語気。族長と言っているが、威厳をまったくもって感じる事が出来ない。
 
 介護する二人も生気がないし、とにかく弱々しい。
 RPGだとスライム、ゴブリンと並ぶザコキャラだけど、この世界ではその二種属よりも弱そうだ。
 だが――――、

「ささ、こちらへ」
 普通に人語が話せるのは凄い。この世界のゴブリンやサハギンは上位種じゃないと人語を話せないイメージだったから驚きだ。

 人語が出来るから、人と生活を共にしていたんだろうけども。
 よぼよぼと今にも転びそうな足取りで俺たちを横道へと手招く。
 
 俺を含めた後発組は若干の警戒を見せるが、先発の三人が躊躇なくサラン族長の招きに応じているので、俺たちも後に続いた。

 ――……うぬ……、気を遣ってしまう……。

 先頭を歩く族長と介護をするコボルト達。
 正直、目の前で弱々しく歩かれると、使いを出してくれればこっちから赴いたのに。と、発言したいくらいだ。
 
 族長が自ら俺たちを案内することも申し訳ないのに、それに加えて弱っている姿を目にすれば、心苦しいのを通り越して、心痛に襲われるよ……。
 あと、獣臭も凄い……。



 ――…………。

「コイツはなんとも……」
 通路を歩いて程なくすれば、開かれた空間に変わる。
 空間内に入り込もうとするが、ちょっと前から気になっていた獣臭が更に強いものとなって、俺の鼻を刺激してくる。

 香ばしいような、それでいてアンモニアが混ざったような刺激臭。なんとも形容しがたい臭いにたじろいでしまう。
 
 皆、一様に鼻に手を当てて我慢している。
 団子っ鼻のギムロンは、おくびにも出さないという言葉を知らないのか? と、問いたいくらいに、「臭い」を連呼していた。
 その度に族長が「申し訳ない」と謝罪。それに対して俺は申し訳ないと思ってしまう。
 
 歯に衣着せぬのがドワーフ然なので仕方ないのだろうが、ドワーフという種族は、少しでもいいから忖度という考えを覚えないといけないな。

 濃密な獣臭の原因は直ぐに理解できた。
 空間内の眼前には、かなりの数のコボルト達がいる。

 身長が高いのでも一メートルくらいしかないとはいえ、バスケットコートくらいの広さの空間内にこの数…………。

「――――ざっと百くらいでしょうね」

「ありがとう」
 数えようとしていたら、そこは目の利くハンターであるクラックリック。大体の人数を言ってくれる。
 バスケットコートくらいの広さに百人。ゆっくりとしたスペースは無い……。

 狭いスペースに干し草を敷いて簡単な寝床を作って、周囲に迷惑をかけないように丸まって寝ているコボルトもいる。
 
 身長がゴロ太と同じくらいなのが子供だろう。
 ゴロ太と違って毛並みは最悪の状況。栄養が行き届いていない……。
 大きな瞳は俺たちを見て怯えている。
 子供たちからしたら、俺たちは闖入者のように見えるんだろう。

「ですが、合いませんよね――――数」
 倒置法のタチアナ。
 発言は正しい。
 
 リオスのカリナ代表の話だと、コボルトは四十くらいの数だったはず。だが、ここには倍以上がいる。

「繁殖力が旺盛なのか?」
 年長者であるギムロン――――ではなく、クラックリックに耳打ち。
 ギムロンはデカい声で無遠慮に返答しそうだから回避だ。

「いえ、人間と変わりません。なので急に倍以上に増えるということはあり得ないです」
 てことは、カリナ代表の発言に誤りがあるのか、それとも――――、

「どうぞ」
 思案中だったが、族長から干し草に座るように勧められる。
 
 目にしただけで他の干し草とは違う、真新しい物だった。
 この困窮した空間において、最高のもてなしを受ける俺たち。
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