異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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チートがほぼ無い冒険

PHASE-254【俺が怒っていた理由は、なんとしょぼいことか……】

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 リオスのコボルト達は、奴隷として連れてこられていたコボルト達と共に、トロールの恫喝が響く中で、洞窟を掘削する作業に従事させられていた。
 
 トロール達は来たるべき再侵攻をもくろみ、この洞窟に魔王軍の拠点を造ろうと画策していたそうだ。

「トロールのくせに」
 中々に知恵の回ることをしやがる。
 掘削に使用する道具はトロールが保管し、作業の時のみコボルトに貸し与えた。
 それを手に反抗する者もいたそうだが、無残な最後を迎え、あえてそれを見せつけるように殺害したという。

 また反抗できないように、人質として、この空洞から子コボルト達だけを自分たちの塒に閉じ込めていたそうだ。
 戦闘が始まってから子コボルト達は自力で塒から逃げ出し、ここに合流したそうで、ここにいるコボルト達はコクリコたち先発組に感謝していた。

 コボルト達の窮状と、人質を救うには迅速さが必要と考慮したから、コクリコ達は町に救援に戻る事をしなかったようだ。
 それを知れば、町に戻らなかったことを強くは言えなくなる。

 しかし――だ。本当に……。胸くそ悪い知恵は働くんだな……。
 トロールの命を奪った時の罪悪感が悪感情に変わってしまうのは、コボルト達の窮状を知れば当然と言える。

 この洞窟を拠点とすると決め、トロール達は入り口にも見張りを立てていたそうで、俺たちが現着した時の見張り役だったのが、俺を狙撃したコボルトだったわけだ。
 
 でも、戦いの経験がなかったようで、対処のスキルもないコボルトは、俺たちを追い払えればそれで御の字と考えて狙撃。
 でも俺がロマンを阻害されて激怒したもんだから、恐怖に支配されて大慌てで逃げ出したそうだ。
 族長がそれを聞けば、

「なんということを……大恩ある方々を襲うとは……」

「いや、それをしないと、ここにいる方々に累が及ぶからでしょう。仕方ないですよ」
 体毛に覆われているが、骨と皮だけと言っても大げさじゃないほどに痩せ細った族長が、俺たちにどう陳謝すればいいのかと、骨張った手で頭を掻きむしる。
 掻けば掻くだけ毛が周囲に飛び散る。
 気にしなくていいと述べても、落ちくぼんだ目は力のないものから、申し訳ないと悲憤のものに変わる。

「俺が悪いんです」
 と、ここで割って入るのは俺を狙撃してきたコボルト――だと思う。
 正直、外見だけで即判断しろとなると難しい。
 そもそも一瞬で俺たちから逃げ出したからな。はっきりとは覚えていない。
 というか、よく単身でダイヒレンがいた洞窟の中を走ったここまで来た――とは考えられないので、別ルートがあると考えるべきか。掘削をしていたわけだし。

「すみませんでした。俺の事は好きにしていいので、ここの皆は助けてください」
 五体投地と見紛うばかりの土下座を見せてくるコボルト。
 
 ――――で、なんで皆して俺を見るの?
 コボルト達に至っては、段ボールの中で雨に濡れた子犬みたいに弱々しい視線だし……。
 ヤンキーが今にも抱き上げそうな勢いだよ。

「あのね、気にしてないから。こんな事をいちいち気にするなら勇者どころか、ギルドの会頭なんて勤まらないよ。あの程度で怒ってたら、皆が俺から離れるから」
 メチャクチャにキレてたくせによく言うぜ! って感じですよ。我ながら。
 
 大仰な謝罪のせいで、周囲のコボルト達の不安を駆り立てるのはやめてもらいたい。
 ゴロ太クラスの背格好の子らなんて、終末が訪れたとばかりの怯え方だよ。お願いだから泣かないで……。
 俺、全くもって怒ってないよ。

「流石は会頭。俺なんかをギルドに加入させてくださるだけあって、大いなる器を心に持つ御方」
 感極まったのか、矢庭に立ち上がり、クラックリックが両手を広げてのオーバーリアクションと大音声で俺を称賛する。
 忠誠こそが我が矜持とか危ない発言をするだけはある。
 まあ加入させたのは先生だけど。
 
 更にクラックリックは継ぐ――、

「聞いてくれ。俺は元々は魔王軍に荷担していた奴らと行動していた。だが、そんな俺と俺の仲間たちを快く受け入れたのがここにおられる会頭であり、人々の希望である勇者トール様だ。俺なんかを許してくれるのだ、お前達の不遇から起こした行いは、理由さえ分かれば、抱いた怒りも忘却の彼方へと吹き飛ばしてくださる。いや、抱いた怒りは魔王軍にぶつけるだろう! それが我らが会頭だ!!」
 ――……やめてくれ…………。喋々と……。

「どうしました会頭? 顔を手で覆って?」
 お前が原因だよ……。
 そういう風に称賛されるとさ、間接チューが出来なかった事でガチギレしてた俺がすげーしょぼいじゃない……。

「こんな俺を許してくださるのですか」

「もちろんだとも!」
 不安な狙撃手君に対して、打てば響くかのように即答で返してあげた。
 俺のしょぼさをむしろ払拭させてください。

 許すと知れば、途端に皆さん安堵の表情。
 ギルドメンバーもほっこり笑顔だ。
 この劣悪な空洞内で笑顔になれるのはいい事だ。
 
 ――――さて、緊張がほぐれたところで、気になる事に触れてみよう。

「何でしょう……」
 いちいち怯えなくてもいいよ。
 許した狙撃手君に接近しようとすれば、ビクリと体を震わせる。
 
 まるで住人以外の人間が家に入ってきた時のような挙動。
 人見知りの犬か! と、つっこんであげたい。
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