異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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チートがほぼ無い冒険

PHASE-255【こだわりを感じるスリングショット】

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「え~」
 言葉尻を伸ばしつつ、狙撃コボルト君に手を向ける。
 動作で理解したのか、

「コルレオンといいます」
 典雅な一礼で名乗ってくれる。

「いい名前だね。でさ――、ちょっと気になるんだよね。ソレ」
 ベルトに挟んでいる物を凝視。

「コレですか?」

「そう」
 可能ならば手にとって見せて欲しいと頼めば、抵抗もなく手渡してくれる。
 
 ――……う、ぬ……。
 
 この世界には火薬がないというのはギムロンのリアクションで理解できたけども……。

「これは……」
 Y字の上両端に結ばれ、だらりとした紐状の物を摘まんで伸ばせば――、グイーンと伸びる。
 この手触りに伸縮性と独特のにおい。伸ばしたのを放せば、ブンッと音を立てて元の長さに戻ろうとする弾性。

 うむ――――、紛う方なきゴムだ。

「変わった材質ですね」

「まったくじゃ」
 弓の装飾具合から、一つ一つの素材に妥協を許さないであろうクラックリックが、遠距離武器に興味があるのか、ぬっと上から覗き込んでくれば、未知の材質だからか、興味津々なギムロンが下から覗き込んでくる。
 
 むさいおっさん二人による上下からの挟撃。戦闘後ってこともあって、むあっとするぜ……。

「これはコルレオンさんが作ったんですか?」
 素早く後方に逃げて、むさい空間から脱出しつつ質問。

「いえ、俺じゃありません。以前、南の方に住んでいたんですが、その時、流れてきた人物から貰ったんです。狩が楽になるよって。たまたま発見した素材を使って作ったと言っていました」
 たまたま作ったわりには凝ってるんだよね……。
 
 ゴムの中心には石なんかを包みやすくする為に革が付けられているし、Y字の中心であるグリップ下部分には、手首に沿うように、薄い鉄板が取り付けられてる。
 スリングショットの狙いがぶれないようにする為の加工だろう。
 
 そのグリップも手にフィットするように細くて丸みがある作り。
 滑らないように鞣した革が巻かれている一手間。

 この妥協を許さない作り込み。作り手は相当にこだわる人物だろう。
 間違いなく職人だな。
 ただのY字の棒じゃないこの作り込みよう。
 この世界に存在しないはずのスリングショットでありながら、デザインはハンティング用に使用されるスリングショットその物だ。

「会頭はえらく興味をもっとるの。まあ当然といえば当然じゃが」
 見たことのない物だから仕方ないとギムロンは思っているようだ。

「これがスリングショットって呼ばれる代物だ。パチンコっても呼ばれるけどね」

「洞窟に入ったばかりの時にも聞いたわい。たしかその紐部分をゴムって言っておったの」

「そう。で、コレはゴムの木がないと作れないんだよ。作り方は俺も分からないけど。木の樹液と何かを混ぜて作るんだとは思うんだけど」

「ほう、詳しいの」

「多分だけど、ゲッコーさんに聞けば製造方法なんかも分かると思う」
 火薬は無くても、ゴムは有る……か。
 たまたま発見されたならいいんだけど、まさかゴムを持っていた流れ者って、俺同様に異世界から来とかじゃないよな。
 もしそうだとしたら、俺以外にも転生者がいるって事になるけども。
 だとしたら、俺より前に来た人がチートパワーで魔王を倒している可能性があってもいいんだけどな。
 この世界にそんな気配は微塵も無い。
 ベタベタな展開で、転生者がチート持ちの魔王になってますってのは無しだぞ。

「どんな風体だったの」
 コルレオンさんにスリングショットを返しつつ問うてみれば、無口だったけど優しい笑顔の人物だったそうだ。
 ただ目深に被ったチューリップハットが原因で、見上げるコボルトでも目元はよく見えなかったとのこと。
 他に特徴は? と聞くと、高い長身の旅装束の人物だったそうだ……。 
 なんだろう……、気になるな……。
 転生者どうこうじゃなくて、なんか気になる人物だ。
 
 テッテレー♪

「おっふ!?」
 久しぶりの音に驚きの声を上げてしまった。
 
 俺が驚くんだから、聞いたこともない音を耳にすれば、この空洞内の皆さんは俺以上に驚く。
 どよめかせて申し訳ない。
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