異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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チートがほぼ無い冒険

PHASE-261【払い戻しの時間だ】

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「せい!」

「ぬ!?」
 腕をクロスさせてのガードで防ぐ俺。
 お尻ペンペンを止めるとは……。

「なんて奴だ……」
 完全に取ったと思っていたのに。今度は右ストレートの勢いを利用し、伸びきった拳を戻すのではなく、更に前へと突きだし、体ごと前へと倒れれば、両手を地面に置いて両足によるバックキック。

 ガードはしたが蹴りの威力に勢いを削がれてしまった。
 俺が足を止めれば、コクリコはその隙に飛び込み前転みないな動きにて俺から距離をとり、体勢を整えて俺と相対する。
 
 ――……なんなんだコイツは……。本当にウィザードなのかよ!

 俺はインクリーズとラピッドによって、常人を凌駕する力と機動性を有しているってのに、コクリコはかろうじてではあるが、俺の動きについてきてやがる。

 流石はコクリコと、ここは素直に称賛しよう。

 使い慣れてきたとはいえ、ラピッドによる足運びにはまだまだ改善の余地有りだ。無駄に大きな動きが多い。
 相反してコクリコは最小限の動き。
 素早くも動きが大味な俺と、繊細で無駄がないコクリコ。
 これによって双方の機動性はさして差がないものになっているわけだ。

 に誠おそるべき十三歳よ。
 動きは後衛のウィザードとはかけ離れた俊敏さ。まじで魔闘ってオリジナルの職種を作ればいいだろう。
 魔闘の始祖となればいい。

 初手までは俺の動きに面食らっていたが、反撃が出来るとなれば自信がついてきたのか、生意気にも俺に勝ち気な笑みを見せてくる。

「だがな――――」
 所詮は小手先なのだよ。
 現状、能力向上した俺と戦うには、コクリコの地力では足りない。

「いくぞ!」

「またも背後ですか」
 分かっているとばかりに俺の移動に合わせてのドンピシャな蹴撃。

「無駄だ」
 インクリーズとタフネス。
 肉体強化と耐性強化の重複は如何に鋭い蹴撃であろうとも、今の俺なら片手で受け止めることが出来る。

「届かんよ。それではな」

「何という強者のような語り口」

「ようなのではない。強者なのだよ」
 コクリコの履くブーツをしっかりと掴む。放さないという思いがコクリコの足に伝わっているはずだ。

「ええい!」
 歯を軋らせて咄嗟にバク転にて俺から逃れようとするが、

「無駄だと言っている」
 強化された俺の握力からは、華奢な体では逃げ出すことは不可能。

 掴んだ足をぐっと引っ張る。

「チッ! 放してください!」

「お断りだ!」
 残ったもう片方の手で、黄色と黒の二色からなるローブも掴む。
 無理矢理に引っ張れば、コクリコはバランスを崩し、俺に掴まれ宙ぶらりん。
 そのまま俺の方に引けば、容易くコクリコを拘束することに成功。

 こうなってしまうと、膂力で勝る俺の独擅場どくせんじょう
 いくら抵抗しようとしても、ここから形勢は覆らない。

「さあ、折檻の時間だ」

「いやいや、実際にあの訓練でトールは使えるようになったじゃないですか!」
 追い詰められているな。声が焦燥に支配されている。

「確かにだ。本来なら、やったぜ! って言って喜んで終わっていただろうよ」

「う……」
 掴んだコクリコを見下ろす俺の目は冷たいものだったのだろう。
 眼力に当てられたのか、言葉を詰まらせて反論が出来なくなっている。

 容易くお手軽に習得できることを伏せて、俺をボコボコにした罪は大きい。
 しかも、習得時の驚きようからして、俺が習得するなんて毛ほども思っていたかったってことだろうからな。
 コイツは……、単純に俺を殴ることを楽しんでいただけだ。

 暴力を楽しむなんて、十三歳の女の子の発想ではない。

「度し難いのだよ」
 歪んだ性格を修正してやらねばなるまい。
 年上として――――。
 ――……などという事を思っているわけがない!

 矯正などに興味はない。俺は単純に復讐を実行するだけだ。
 許せるか亨? まな板の所行を? 
 自分自身に問うてみても、脳内では断じて否が支配するだけ。
 我が心を支配する言葉は――――Payback Time――――だ。

「お前に対する慈悲などない! 甘んじて我が憤怨をその未発達な体と心に刻むがいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!!!!」
 俺の大咆哮が空洞に木霊する――――。
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