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チートがほぼ無い冒険
PHASE-283【良い余裕は拡充に繋がる】
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「なんじゃいそりゃ?」
手にした木皿をテーブルに置くクラックリック。その木皿に乗っている食べ物が気になったのか、ギムロンが樽のような体を乗り出して凝視。
中々に食い意地があるな。流石はドワーフだ。
「なにってサンドイッチだろ」
「いやいや、普通はハムやチーズとかだろ。今となっちゃどっちも高級品だけんども。それはともかくとして、何が挟んであるんだ? 見たことねえな」
現在の畜産は、加工じゃなくて増やすことがメインだからな。
牛乳だって飲みたいしチーズだって食べたいが、今は子牛の為にまわさないといけない。
で、ギムロンが言うように挟んであるのはハムやチーズではない。
俺は見て直ぐに具材は分かったけど。
「これはツナサンドと言ってな。魚をフレーク状にしてオイルに浸けた保存食だそうだ。レゾンからの新商品だな」
「ワシは聞いとらんぞ。食い物でドワーフより先に新しい物を食すとは!」
ムキになるなよ……。まあ、俺も知らなかったけど。
まさかツナフレークまで出来上がってるとは。
「蔵元がレゾンに派遣したメンバーに作り方を教えて、向こうで作らせているらしい」
「ほう、そうかい」
なんなの? ゲッコーさんの蔵元ってのはすでに定着しているポジションなの?
――二人の話に割って入れば、クラックリックが教えてくれた。
ゲッコーさん、自分だけ呼称がないからといって、ギルドでの立場を確立するために、考えた結果、酒造りをやっているから自分の事は蔵元と呼んで欲しいと言い回っているそうだ。
――……ゲッコーさん。貴男は蔵元ではなく、ゲーム内では最前線で頑張る指導者ですやん。
なんで蔵元にこだわるんだよ。どんだけギルド内で役職が欲しかったんだよ……。
本当に、今の貴男を部下達が見たら嘆き悲しむだろうね。
ベルの風紀委員長に触発されすぎなんですよ。位階の名付けもだし、やはり俺やコクリコの上を行く中二病を煩ってるな。
「しかし忙しそうだ。ゲッコーさんとまともに会ったのは昨日の応接室だけだったな~」
以前はベルに訓練参加者を取られて寂しがってたってのに、今は随分と忙しそうだ。
「酒造りにご熱心だからの~。ワシや他のドワーフも、鍛冶がすんだら夜に蔵元の手伝いをしとるぞ」
流石はドワーフ、何とも楽しそうに言う。
種族そろって酒好きらしく、率先して手伝っているようだ。
ま、いい事だけどね。
王都の復興以外にも力を注げる事が出来るようになっているということは、それだけ王都全体に余裕が生まれてきている証拠だ。
恐怖から追われる忙しさを乗り越えて、ゆとりが出てきたという事は、人々の心が豊かになってきているって事だからな。
「さあ、物流が円滑に進んで行って、人々に蓄えの余裕も出来ればいよいよ貨幣の投入になるな」
昨日、俺に甘い時間を与えてくれたダイヒレンをデザインにした記念硬貨だって作ってやるぞ!
「そうとなりゃ、溜め込んでおいた金属、素材を貨幣に換えてもらわんとな」
にんまりと笑むギムロン。
鍛冶でギルドの為に大活躍してるからな。貴金属や素材をかなり有しているようだ。
「俺はここでクエストをこなして得られる報酬で生活が出来ればいい。何より会頭と共に魔王軍を討伐できることが幸福だからな」
持ちすぎることを良しとしないクラックリック。ギルド加入が目的だったとはいえ、山賊と行動していた後ろめたさから、考え方が俗世から離れた坊さんみたいになっている。
というより、また俺と一緒に戦えることを幸福と言う……。
坊さんと言うより、やはり変な信仰心が芽生えているような……。
そんなクラックリックだが、命をかける弓には妥協がない。
相当の資財を投じているのは、見ただけで誰もが分かるからな。
「では、俺はこれからパーティーと採取クエストに出てきます」
サンドイッチを平らげれば、つと立つ。
「なんの採取?」
「王都では薬品が不足しているので、ポーションに使用する薬草集めを」
おっと新語だなポーション。
存在自体はド定番の回復アイテム。
冒険者は回復の有無で生死を分けるからな。
ベル達といるときは基本、怪我の心配はない。
今回のトロール戦では、タチアナがいたから大事には至らなかった。
今までポーションがいらない冒険ばかりだったが、不測に事態に備えるためにも、今後は個人でも回復が手軽に出来るようにならないとな。
その為にも――、
「頑張ってたくさんの薬草を採取してくれ」
「任せてください。ハンターはなにも狩だけが得意というわけではないですからね」
得意げに胸を張るクラックリック。
森での活動なら、エルフを除けば他者には劣らないと自負を述べて、一礼するとパーティーとの採取クエストに赴いてくれる。
今回のトロール戦での活躍を俺が大々的に伝えたことで、クラックリックとそのメンバーも冷ややかな視線を送られる事が軽減したようで、表情は明るい。
俺に対する考え方が狂信的でもあるが、周囲と馴染んでくれるのはいい事だ。
酒造りだけでなく、採取クエストにも行ける余裕。
復興以外にも力を注げる余裕だ。
王都における余裕の表れは本当にいい。皆の表情が強張ったものから、笑みを湛える方に変わってきたからな。
余裕で足をすくわれる心配もあるが、復興、クエストの指示は先生がやってくれているから問題はないだろう。
俺も異世界に来た以上は、いつかは採取クエストの経験をしてみたいな。
手にした木皿をテーブルに置くクラックリック。その木皿に乗っている食べ物が気になったのか、ギムロンが樽のような体を乗り出して凝視。
中々に食い意地があるな。流石はドワーフだ。
「なにってサンドイッチだろ」
「いやいや、普通はハムやチーズとかだろ。今となっちゃどっちも高級品だけんども。それはともかくとして、何が挟んであるんだ? 見たことねえな」
現在の畜産は、加工じゃなくて増やすことがメインだからな。
牛乳だって飲みたいしチーズだって食べたいが、今は子牛の為にまわさないといけない。
で、ギムロンが言うように挟んであるのはハムやチーズではない。
俺は見て直ぐに具材は分かったけど。
「これはツナサンドと言ってな。魚をフレーク状にしてオイルに浸けた保存食だそうだ。レゾンからの新商品だな」
「ワシは聞いとらんぞ。食い物でドワーフより先に新しい物を食すとは!」
ムキになるなよ……。まあ、俺も知らなかったけど。
まさかツナフレークまで出来上がってるとは。
「蔵元がレゾンに派遣したメンバーに作り方を教えて、向こうで作らせているらしい」
「ほう、そうかい」
なんなの? ゲッコーさんの蔵元ってのはすでに定着しているポジションなの?
――二人の話に割って入れば、クラックリックが教えてくれた。
ゲッコーさん、自分だけ呼称がないからといって、ギルドでの立場を確立するために、考えた結果、酒造りをやっているから自分の事は蔵元と呼んで欲しいと言い回っているそうだ。
――……ゲッコーさん。貴男は蔵元ではなく、ゲーム内では最前線で頑張る指導者ですやん。
なんで蔵元にこだわるんだよ。どんだけギルド内で役職が欲しかったんだよ……。
本当に、今の貴男を部下達が見たら嘆き悲しむだろうね。
ベルの風紀委員長に触発されすぎなんですよ。位階の名付けもだし、やはり俺やコクリコの上を行く中二病を煩ってるな。
「しかし忙しそうだ。ゲッコーさんとまともに会ったのは昨日の応接室だけだったな~」
以前はベルに訓練参加者を取られて寂しがってたってのに、今は随分と忙しそうだ。
「酒造りにご熱心だからの~。ワシや他のドワーフも、鍛冶がすんだら夜に蔵元の手伝いをしとるぞ」
流石はドワーフ、何とも楽しそうに言う。
種族そろって酒好きらしく、率先して手伝っているようだ。
ま、いい事だけどね。
王都の復興以外にも力を注げる事が出来るようになっているということは、それだけ王都全体に余裕が生まれてきている証拠だ。
恐怖から追われる忙しさを乗り越えて、ゆとりが出てきたという事は、人々の心が豊かになってきているって事だからな。
「さあ、物流が円滑に進んで行って、人々に蓄えの余裕も出来ればいよいよ貨幣の投入になるな」
昨日、俺に甘い時間を与えてくれたダイヒレンをデザインにした記念硬貨だって作ってやるぞ!
「そうとなりゃ、溜め込んでおいた金属、素材を貨幣に換えてもらわんとな」
にんまりと笑むギムロン。
鍛冶でギルドの為に大活躍してるからな。貴金属や素材をかなり有しているようだ。
「俺はここでクエストをこなして得られる報酬で生活が出来ればいい。何より会頭と共に魔王軍を討伐できることが幸福だからな」
持ちすぎることを良しとしないクラックリック。ギルド加入が目的だったとはいえ、山賊と行動していた後ろめたさから、考え方が俗世から離れた坊さんみたいになっている。
というより、また俺と一緒に戦えることを幸福と言う……。
坊さんと言うより、やはり変な信仰心が芽生えているような……。
そんなクラックリックだが、命をかける弓には妥協がない。
相当の資財を投じているのは、見ただけで誰もが分かるからな。
「では、俺はこれからパーティーと採取クエストに出てきます」
サンドイッチを平らげれば、つと立つ。
「なんの採取?」
「王都では薬品が不足しているので、ポーションに使用する薬草集めを」
おっと新語だなポーション。
存在自体はド定番の回復アイテム。
冒険者は回復の有無で生死を分けるからな。
ベル達といるときは基本、怪我の心配はない。
今回のトロール戦では、タチアナがいたから大事には至らなかった。
今までポーションがいらない冒険ばかりだったが、不測に事態に備えるためにも、今後は個人でも回復が手軽に出来るようにならないとな。
その為にも――、
「頑張ってたくさんの薬草を採取してくれ」
「任せてください。ハンターはなにも狩だけが得意というわけではないですからね」
得意げに胸を張るクラックリック。
森での活動なら、エルフを除けば他者には劣らないと自負を述べて、一礼するとパーティーとの採取クエストに赴いてくれる。
今回のトロール戦での活躍を俺が大々的に伝えたことで、クラックリックとそのメンバーも冷ややかな視線を送られる事が軽減したようで、表情は明るい。
俺に対する考え方が狂信的でもあるが、周囲と馴染んでくれるのはいい事だ。
酒造りだけでなく、採取クエストにも行ける余裕。
復興以外にも力を注げる余裕だ。
王都における余裕の表れは本当にいい。皆の表情が強張ったものから、笑みを湛える方に変わってきたからな。
余裕で足をすくわれる心配もあるが、復興、クエストの指示は先生がやってくれているから問題はないだろう。
俺も異世界に来た以上は、いつかは採取クエストの経験をしてみたいな。
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