異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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チートがほぼ無い冒険

PHASE-282【全力で頑張るだけです】

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「では明日、修練場で」
 一日の猶予を与えるのは、調整しろって事かな。強者としての余裕だね。
 その甘さが敗北に繋がる……などと思えるほど俺はキッズでも理想論者でもない。
 現実はちゃんと理解するつもりだ。
 
 だが、好感度アップのためにも、俺は一生懸命やらせてもらう。
 
 いずれは【明日、修練場で】を【明日、公園前で】みたいな発言で聞ける関係になりたいからな。

「やってやるぜ!」

「よい意気込みだ。楽しみにしているぞ」
 凛とした所作で、ベルは去っていく。
 揺れる白髪と背中を眺めながら、残ったクランベリージュースをぐっと飲み干し、大きく呼気を一度吐く。

「で、勝算はあんのかい? 前回は見たことないが、手ひどくやられたってのは聞いたぞ」

「有るわけ無いだろう」
 むわっと鼻孔に入ってくる酒気。
 椅子を元々の位置から移動させ、ドカリと音を立てて俺の横に座るのはギムロン。
 片手で椅子を運んで設置し、残った片手に木皿、脇には酒瓶と、夜でもないのに剛気である。
 ワンプレートな木皿には、稗粥と小魚の塩漬けを炙ったやつが数匹。
 ちょっと前から乾物を中心とした魚介が、王都全体に出回り始めたのは本当にありがたい。
 食べられないよりはましだが、以前は穀物と野菜が占めていた食事ばかりだったから、皆、精神的に辛いものがあったはずだ。
 安定して人々がタンパク質を摂取できるのは喜ばしい。
 
 俺もアジの開きみたいなのを食べさせてもらった事があるが、脂がのった塩味はとても美味しかった。
 これで味噌汁と醤油があれば言うこと無しなんだけどな~。
 味噌と醤油を求めてしまう俺は日本人。

「勇者だってのに、清々しいほどに情けないことを言い切ったの」
 小魚を頭から丸ごと食べ、酒で流し込んで口を開く。
 さっきよりも強い酒気が鼻に届く……。

「ベルの実力を理解していれば誰でも分かることだよ。賭が出来るとか周囲は言ってたけど、俺に張るのは大穴狙いか、頭がお花畑の陽気なヤツだけだ」

「気持ちのいいくらいの発言じゃの。負ける事を口にしているとは思えんくらいに……」
 若干、呆れ気味のギムロンは、ホブを倒した王都防衛戦以降に合流したから分からないかもしれんが、武勇伝は聞いてるだろうし、俺と一緒にクエストをこなしたわけだから、俺の実力だって分かっているはず。
 
 そこから考慮すれば、俺がベルに太刀打ち出来ないのは、赤色級ジェラグなら簡単に想像が出来るだろう。

「あのべっぴんさんが強いのはよう分かる。佇まいだけでも別次元の存在と理解できるわい。声を荒げれば、皆が静まりかえるのも得心がいくというもの。ワシだって背筋が冷たくなったからな」

「ガチで強いからな。現状でも十分強いけど。髪が紅色の時なら絶対に魔王より強いはずだから、ベルは」
 俺は自分のように誇って口にする。
 気持ちがいいほどにベルは強いからな。
 語り部となるだけでも誇らしくなれる。真の強者とはそんなもんだよな。妬みなんかを含まないで、素直に称賛だけで語る事が出来る。
 そういう存在を英雄と言うんだろう。
 俺もそんな風になりたい。その為には、コツコツと地道に強くなっていかないとな。
 
 だからこそ、この戦い負けると分かっていても、挑まないといけない。好感度アップイベントでもあるだろうし。
 好感度を上げるために、選択肢を間違えないようにしないと!

「じゃあ、べっぴんさんの強さを刮目させてもらうかの」

「――――本当に強いぞ。あの美しいご尊顔を拝するだけで、未だに側頭部に痛みが走る」
 ご尊顔て……。どんだけ恭しいんだよ。

「おうハンターの」
 側頭部を擦りつつ、俺に綺麗な一礼をするのはクラックリック。
 俺の斜め前に立てば、またも綺麗な一礼をしてから腰を下ろす。
 斜向かいに座る理由は、俺と対面する位置は不遜だからだそうだ。
 ――……真面目か! 
 とても山賊たちと行動していたとは思えない思考である。
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