異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
288 / 1,861
増やそう経験

PHASE-288【凄く尊き理想胸】

しおりを挟む
「では、次」
 これがただ強いだけの存在なら、痛い目に遭うだけだと、誰も挑もうとはしないが、新人だけでなくベテランも嬉々として挑む。
 白く輝く美しい髪の美人様と戦うってのが、楽しめる場所が少ない現状の王都では、野郎達にとって娯楽となっている。

 次々と挑んでいっては皆、地に伏していくが、痛みを浮かべながらも楽しげな表情だ。

「今の踏み込みからの振り下ろしは良かったぞ。昇華させ技にしろ」
 てな感じで笑みを向けて言われれば、それだけで新人冒険者は有頂天だ。
 すぐさま立木の方へと駆けだす。痛みなんて有頂天によって忘れてしまっているご様子。
 ――そして始める打ち込み。
 彼を目にして、自分たちも褒められたいと考えるのか、皆して声を張り上げて、立木への打ち込みを全力で行い自己アピール。

 本当に……、ゲッコーさんには見せられないな。
 俺の時にはこんなにもやる気のある奴らはいなかったのに……。とか言って、影を纏うことになるからな。

「次は? これでは体が温まらんぞ」

「温まられたら俺が困るだよな~」

「暢気な登場だな」
 俺がここに来ていた事はすでに知っていただろうに。
 
 ――――俺とベルの間に障害物は無い。
 俺の側にいた野郎達も、息を合わせたかのように俺から距離を取る。

 互いの目と目があう。
 なんとも余裕のエメラルドグリーンだが、俺の黒目も負けてはいないだろう。
 
 緊張はそこまでしていない。さんざっぱら暗示をかけながらここに来たからな。
 今までベルとの打ち込みを娯楽としていた面々が、一気にざわつき始める。
 いよいよか! と、各修練場で己の技量を高めていた者たちが手を止めて、雑草はえる下生えの青空修練場の一点に目を向けている。
 
 点になるのは無論、俺とベルだ。

「皆、ベルを相手によく励んだな。大したもんだ」
 ご苦労様と伝えれば、周囲から会釈が返ってくる。

「立派な者たちだ。お前も会頭として、勇者として恥ずべき事のないように、立ち振る舞わなければな」

「そのつもりさ。だからここに来たんだしな」

「ほう、暢気に登場ではなく、余裕を持っているな」

「まあな。余裕はあっても過信はしてないぞ」
 内心では、お前相手に余裕なんて持つわけない! と、吠えているけどな。

 戦う前にベルの圧に呑み込まれるわけにはいかない。呑み込まれれば、勝負にならないのが更にならなくなる。

 俺一人で挑むとなれば、精神状態が徐々に不安に呑み込まれて、体がガチガチになってしまう。
 折角の暗示が台無しになるのは困る。
 
 なので――――、

「アーバカン、アーバカン――――」
 俺は大音声で連呼する。

 突如、俺がアバカンコールをしはじめたもんだから、ベルだけでなく周囲も何事かと目を丸くした。
 だが、それを気にせず俺は続ける。

「アーバカン! アーバカン――――!」
 声音を強いものへと更に上げ、周囲の野郎一人一人に目を向けて、鷹揚に頷く。
 思いが通じたようで、一人が俺に合わせてアバカンと発せば、伝播するように広がりを見せていく。
 
 コール&レスポンスが成功したところで、声だけでなく動作も加える。
 アバカンと発するたびに、拳を高らかに突き上げる動作を繰り返した。
 
 先ほど倒されたカイルに目を向けて発せば、カイルは俺に後を託すとばかりに首肯し、

「アーバカン! アーバカン!」
 と、座った状態で俺の動作を真似て、声を張り上げる。
 こうなると、俺とベルを直接見る位置にいない者たちも、流れに乗らなければと、「「「「アーバカン、アーバカン――――」」」」と発し、俺が始めた独唱は瞬く間に輪唱へと変わった。
 
 アバカンコールが修練場に轟く。
 
 俺はすでに発してはいないが、更に加熱させるかのように、両手を大の字に広げて、そのまま広げた手を頭上にて叩き、柏手を繰り返す。
 もっともっと滾るんだ! とばかりに周囲を煽っていく。
 
 全方位からの大音声を体に浴びつつベルへと向かい、指呼の距離にて足を止める。
 
 修練場は現在、俺のホームとなった。中二臭く格好つけるなら、野郎達と創造した固有結界。
 熱きアバカンコールは、俺の心象風景の具現化とでも言うべきか――――。

「なんだ? 随分と大仰だな。アバカンと周囲に言わせて戦意高揚か」
 お前にはアバカンは、頑張る的な意味だと誤魔化したからな。

 実際はベルのおっぱいのサイズである、94センチの隠語なんだけどな。
 アバカン。ロシアはイズマッシュ社のアサルトライフル・AN-94。二点バーストがスゲーヤツ。
 俺とゲッコーさんだけが知っている本当の意味。
 
 その耳でしかと傾聴するがいい!
 我が思いに応え、同じ志を抱く豪傑達の猛々しい咆哮を!
 この思いの丈を放出する事で、我らが心象世界が造り出される!

 野郎達の雄叫びと、我が思念により造られたこの固有結界ホームにて、俺は戦わせてもらう!

 これぞ我がEX宝具! おっぱいを思う心象世界からなる固有結界! 凄く尊き理想胸アバカンだ!
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...