異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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増やそう経験

PHASE-317【社会科見学】

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「活気があるね~」
 その活気に負けないくらいに立ち上る濛々とした白煙が目立つ、煙突の建物。

「おい! そこ! 入るんじゃねえ!」

「ごめんなひゃい!?」
 建物の一つに入ろうとしたら、ものすっごく怒られた……。
 ベルから受ける注意なんかと違って、しっかりと大人に怒られるのは、この世界にきて初めてだったから、情けない謝罪を口に出してしまった。

「て、勇者様!? これはとんだ失礼を!」

「いえいえ……」
 頭に巻いた白い手ぬぐいを取って、地に伏せて謝ろうとしたので制止する。
 ここで働く王都住人の方だそうだ。
 魔王軍に侵攻される以前は酒造りをしていたらしく、ここでそのノウハウを活かして働いているとの事。

 実績もある事から、主任のポジションを与えられたこの方の名前はミカルドさん。
 主任って……。中世レベルの世界で耳にすると、すっごい違和感を感じてしまうのは俺だけだろうか?
 
 勇者に対して不遜だったと焦るミカルドさんを落ち着かせて指示を仰ぐ。

「靴を履き替えて、白衣を着てください」
 本格的だな。
 妥協を許さないのは、エールやビールだのを飲みたいという思いから来ているんだろうな。
 ゲッコーさんの酒に対する情熱を感じ取れる。
 
 ――――言われるままに二人して白衣を着用してから、この区画で一番大きな木造建築に入る。
  
 俺たちが背負っていた籠に入った薬草類は、専用の蓋付きの木箱に移された。
 出来るだけ外の菌を入れたくないとのことだ。
 で、ここに入る前に別の人がやって来て、木箱を別の場所に持っていった。

「徹底してますね」

「ここまで繊細にやるのは自分も初めてですよ」
 ミカルドさんも最初は困惑していたけど、理にかなった言動のゲッコーさんに感嘆して、今では妥協を許さない人物の一人になったわけだ。
 スニーキングミッションで活躍する繊細な思考が、こういう場でも活かされているわけだな。

「あの、外で見たんですがコボルト達は――――」
 懸命に働いてくれる事は嬉しいが、白衣を着ているとはいえ、全身が体毛に覆われている以上、酒造りの場で影響が無いかを心配してしまう。
 変な軋轢とかあったらコボルト達が可哀想だからな。
 いくらベルの威光があるとはいえ、衛生面の事を考えると、妥協を許さないであろう職人さん達は――――な。
 声には出さないが、やはり俺もその辺は考えてしまう。
 ガヤガヤと騒がしいギルドハウス一階とは違うだろうから。
 
 でも俺の心配は杞憂に終わる。
 コボルト達もそこら辺は理解しているそうで、自分たちから率先して外での作業をと言ってきたそうだ。
 彼らは主に、洗い物などで活躍してくれているとミカルドさんは言う。
 コボルト達は洗い物の作業に満足しているとのことで、軋轢もなく、各々が任されたところを必死になってこなす素敵な職場環境のようだ。

「――――うは!」
 蒸し暑い……。
 建物に入って、一つ大きな扉を通れば、蒸気が凄いことになっている。
 大きな金属容器の下では火がくべられている。
 濛々と上がる白煙の原因はこれだな。
 正確には煙じゃなくて蒸気だったんだな。

 この建物では、麦芽を投入した液を濾過して、温度を百度まで上げてからホップを入れる作業をしているそうだ。

「出て行きたい……」
 こんな暑いところは直ぐさま出て、外の風に当たりたい。

「そんなことを言うな。これから別のタンクで、ここから先の工程を見る事が出来るぞ」
 と、タンクの奥から白衣を纏い、手ぬぐいで口元を隠した伝説の兵士という名の蔵元が現れた。

「そうですか」

「見学か? いいぞ」
 そう言われると、白衣姿で工場を見学した小学校の社会科見学を思い出したよ。
 しかし、誘ってくるな。

「ポーションを作ってほしいだけです」

「ああ、ならここじゃなくて蒸溜所だな」

「素材を回収してもらったから、いま作ってるんじゃないでしょうか」

「当分は出来ないぞ。暇だろうし、ここを見て回ればいい」
 口元は手ぬぐいで隠されているが上機嫌だ。

 ――――折角なので本格的に社会科見学をしようと思う。
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