異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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極東

PHASE-357【眼識と味覚】

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「本当に、別の世界に来たかのような街並みだな」
 殺伐とした雰囲気がない。優雅だ。
 よそ者が久しぶりに街を歩く。しかもベルとゲッコーさんは、この世界の恰好とはかけ離れている。
 更にはハイエルフを伴っている。なのに歩く人々の余裕さ。
 
 少数だが、シャルナの存在に驚いたり、ベルとシャルナ、吐瀉ったコクリコと、美が頭につく女と少女の存在に傾注する者たちもいるが、騒ぐこともなく、商売をしたり、買い物をしたり、日がな一日を楽しんだりと、ゆったりとした時間が流れていた――――。



「たまげた」
 宿泊することもなく。ただ通過しただけの短い時間だったが、その短い時間でマガレット街の豊かさに驚きを隠せなかった。
 街から離れた位置で再びハンヴィーを召喚し、移動を開始。
 車内の中で呟く俺に、

「全くです」
 モグモグと口を動かしつつ、俺の発言を拾うのはコクリコ。
 マガレットの大通りで売っていた干し肉を堪能している。
 というか、コイツは……、

「また吐くぞ」

「それはありませんよ。大丈夫です」

「本当だろうな? あんま食い過ぎるなよ」

「分かってませんね。トールは」

「あん?」
 なんで俺は小馬鹿にされた笑みを向けられないといけないのだろう。
 片方の口端が上がり、見下した瞳による笑みに対して、久しぶりに折檻をしてやらないといけないかな?
  カルロ・ベローチェを召喚してやろうか?
 
「いいですか。この干し肉はグレートボアです」

「おお」

「王都の街商で売っていたものと同じです」
 お前が馬鹿みたいに無駄遣いしてたやつだな。

「また雫型金貨や銀貨を使ったのか?」

「ええ」
 まったく、やっぱりここでも無駄遣いか。

「お前、本当に金がなくなっても知らないぞ」

「フッ」

「よし、ゲッコーさん止めてください。コイツは未だにどちらが上かってのが分かっていません」
 馬鹿にしたように鼻で笑いやがって!

「まあ落ち着いて」
 熱くなる俺と違って、何とも落ち着いているな。コクリコの分際で。
 ここでコイツが冷静なのに、俺が熱くなると格好が悪い。
 だから、我慢する。ぐっと我慢する。

「いいですか、私は物価の確認をしていたのです」
 これは何とも分かりやすい嘘を発したな。なんでお前なんかが物価を調べるんだよ。絶対に無駄遣いの言い訳じゃねえか。
 まあ、言い訳としてはリアリティがあるが。
 
 ――――などと、思ってもいたが、中々どうして、コクリコのくせしてちゃんと調べていた……。
 
 王都では、干し肉はダーナ銀貨一枚と高価だが、マガレットでは銅貨三枚で買えたそうだ。
 約三分の一の値段で購入できる。
 しかも食してみて分かったのは、干し肉の質が高いということだそうだ。
 保存食の質が高いという事は、普段、食する食料の質も必然的に高いと説く。
 保存食に質の高いものを回せるのがその証拠。つまり侯爵領は自分たちが思っている以上に豊かだという事。
 ――……反論できないくらいに説得力があった。

「分かりましたか?」

「……ああ……、はい」
 反論できない俺という男。それをいい事に、コクリコは得意げになって、こっちをドヤ顔で見ながら咀嚼の回数を増やす。
 即ち食い過ぎ。胃もたれ起こすなよ。
 
 ――――街道は整地されていて揺れは少なく快適な移動。魔王軍の侵攻なんてやはりないとばかりに、穏やかな光景。
 道も荒れていないし、建物にも被害がない。山脈一つ越えれば正に別世界。
 新しい異世界に転生したのかとすら錯覚してしまう。

 ――――長距離移動という事もあり、本日も野営。
 王都からここまで間、野営生活が続く。
 といっても――、

「はい、召喚っと」

「何度みても凄いよね。コレ」
 ギャルゲー主人公の家を見て、シャルナがポカンと口を開いたまま見上げるのはここ最近のお約束。
 この世界では見られない建築デザインのせいか、玄関へと足を運ぶエルフが毎度、緊張気味なのもお約束。

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