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極東
PHASE-402【EYE HAVE YOU 】
しおりを挟むやおら瞼を開けば、アールを描いた壁にある、窓よりさす月明かりが原因で、一瞬だが目が眩む。
視界が鮮明になったところで、部屋を見渡す。
月明かりは、部屋全体を十分に照らし出してくれている。
幻想的な輝きは正に夢の中だ。
さてさて――――。居住まいを正す感じで気を引き締めつつも、下腹部近くから伝わってくる重みによるドキドキ感も受け入れないとな。
俺は上半身を起こして、下半身の方へと目を向けるて見る。
そう、――――見る!
――………………。
「いやっほぉぉぉぉぉぉっ! 最高だぜぇ!!!!」
はたして正にだ。俺の下半身付近では、長い白髪が動いている。
下を向いているから表情は分からないが、間違いなくベルだ。
室内に木霊する俺の大音声。
次に移す行動は、勢いよく飛び起きて、ベル目がけて抱きつくように跳ぶ!
抵抗するなと言われたから、受け身で待つつもりだったが、受け身なんかじゃいられないボディだからね。仕方ないね!
「は?」
俺の動きに疑問符を浮かべるベルが、ようやく顔を上げる。
うむ! 間違いなくベル!
「ありがとうございます!」
夢の続きに感謝して、
「この! けしからん胸をしおってからに! 一日お預けを食らったからな。今回は最後までお願いします!」
「お、お前は何を抱きついている! また寝惚けているのか!」
ほほう、今回の夢は、普段のベルでお相手か。
エロエロだったのもいいけども、普段のキリッとしたバージョンもいいよね。
むしろ、そっちの方がいいかもしれない。
いや、いい! それが――いい!!
今回の夢は、今までのものと比べてダンチだ! 柔らかくて、跳ね返してくる弾力。
完璧を両立させたおっぱい様だ。
みぞおちに一撃を見舞われた時を思い出す神乳だ!
「すりすりすり――――」
あまりの気持ちよさに擬音を口に出してしまうあたり、俺は有頂天である。
さあ、気骨ある声から、甘い声に変わっておくれ~。
「破廉恥な!」
「でぃぃば!?」
なぜ俺が殴られる。
先日、みぞおちにも良いのをくらったが、今回も良いのを頭に受けてしまう。
――……あれ……。この痛みは……、俺が知る痛みだな。
これはアレか……。現実……?
「寝惚けるとお前は私の体を弄ったり、抱きつかないといけない癖でもあるのか!」
弄るって、なんかすっごくエッチは響きですね。
などと考えている頭だが、ジンジンと痛みが走り、俺の両目は決壊し、涙が溢れ出てくる。
これは、間違いなく現実だな……。
「すっごく痛い!」
目が冴え始めると同時に、いままで以上の痛みが、頭から全体に伝播していく感じだ。
「いまになって痛みを訴えるなんてな……。お前の神経伝達速度は、大型恐竜並みか?」
――……えっと、なんでゲッコーさんまでいるの。
「そんな趣味はありません。お帰りください」
痛みに襲われる頭に当てていた左手が、自然と臀部へと移動する。
「は?」
間の抜けた渋い声が返ってくる。
おっと、現実だったな。
夢の中でダンディズムなおじさんはまじ勘弁だが、現実でここにゲッコーさんがいるとなると、何かしらの問題が発生していると考えるべきなんだろう。と、冴えてきた頭で理解しはじめる。
「いつまでも寝惚けるな! 後、手もどかせ! いつまで触るつもりだ」
「いぎぃぃぃぃぃぃぃ!?」
痛い、痛い! 俺の残された右の手の甲に激痛。
頭の痛みに耐えつつも、右手はしっかりとおっぱいに触れていたわけだ。
掌では柔らか弾力に触れているけど。手の甲はつねられているってレベルじゃない。皮膚が持って行かれる……。
「目は覚めたか」
左手で未だに臀部を守り、右手は激痛に襲われる現状。
痛みのおかげでバッチリと目覚めた。
「はい、ごめんなさい」
素直に謝れば、
「ならいい」
寛容な発言が返ってくる。
時代が時代なら、セクハラで訴えられる案件だったような気もするが、ベルはちゃんと謝れば、そこに悪意が無いのなら許してくれる。
「で、なんでこんな夜更けに俺の寝室に来てるの?」
叢雲にもかからない満月のおかげで、灯りを付ける必要がない室内で、俺はベッド付近から動こうとしないベルに質問。
継いで、
「夜這いなの?」
ゲッコーさんがいる時点でそうでないとは分かっているけど。
一応、期待を込めて聞いてみる。
「だ、だれが夜這いなど……」
中佐の頬が赤くなっておられます。
うん、美人が照れると、可愛さが出て来るっていうのはいいですな。
美人に加えて可愛いのはやっぱり最高。
「ゲッコーさん」
照れてるベルを余所に、俺の横で佇んでいる頼れるおっさんの名を出せば、
「ここにいるのはその子が原因だ」
食指が俺の下半身方向。つまりはベルの方に向けられる。
俺の視線がそちらに向かえば、タイミングよくフラッシュライトにてその部分がしっかりと照らされる。
白髪のベルの下では――――、紫色の……髪?
紫で光沢のある髪となれば、
「ランシェルちゃん!?」
俺の声を聞けばビクリと体を震わせる。
震わせるだけで体を動かすことはない。
なぜならランシェルちゃんは、ベルに腕を掴まれて、ねじり上げられているからだ。
もう片方の腕は、膝による下敷きで拘束。
ベルが俺に対する抵抗に時間がかかったのは、ランシェルちゃんを拘束していたからか…………じゃないよ!
「何してんだよ。放してやれよ」
「それは出来ない相談だ」
「何でだよ」
「見れば分かるだろ」
見ても分からないから聞いているんだよ。苦しそうなランシェルちゃんが可愛そう。って思いしか抱けないぞ。
でも、訳もなくベルがこんな事をするのは考えられない。
ランシェルちゃんが何かしらを企んでいるから、こういう結果になっているわけだ。
可哀想とも思うけど、
「どういうことです?」
側に立つゲッコーさんに問えば、
「この子がお前の寝室に潜り込んだからな。それまではお前の部屋の前で夜中に待機していたんだが、今回は直接なにかをしようとしていたから、現行犯で拘束した」
――…………待ってくれ。今回はって、もしかして俺とランシェルちゃんは、ずっと見られていたの?
どうやって?
いつもの事だが、俺の表情を読み取ったゲッコーさんは、天井の隅っこの方を指さす。
見れば、そこには半球状の物が逆さで天井にくっついていた。
この世界において、まったくもって不釣り合いなデザイン。
不釣り合いなのに、気付かないとはな。
気付かれないように、上手い具合に設置されている。
もちろんこれを設置したのは――――、
「仕掛けておいた」
俺がチラリとゲッコーさんを見えれば、その動作で理解したと判断したらしく、得意げにそう言ってくる。
「…………監視カメラ!?」
と、ゲッコーさんが言いそうな台詞を俺が言わせていただく。
「内部バッテリーに加え、ソーラーパネル搭載。長時間可動も問題なしの赤外線カメラ。Class1のBluetooth内蔵 。ラップトップにスマートフォンでお手軽監視。隣の部屋からEYE HAVE YOU 」
「最後のは言ってみたい台詞ですが、俺がその対象となると、すげー嫌なんですけど」
あとドヤ顔を俺に向けてくるのもやめてくれる。
言ってやったぞ! みたいなそのドヤ顔。
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