異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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極東

PHASE-401【場の空気を乱すのは、時として良い】

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「生活に不満は?」
 過剰な仕置きのある場での営みに、彼女たちは満ち足りているのかと質問すれば、皆して満足と、揃って頷きを返してくる。
 
 コトネさんが言うように、侯爵は両極端なだけで普段は優しい人物。
 仕事で失態を演じなければ、衣食住が十分に整った生活を送ることが出来るそうだ。
 その発言内容に対しても、皆して揃って首肯で応えるのならば……、俺がここで更に言及してしまえば、無粋で無教養と思われるだろう。
 でも――――だ。
 どうしてもあの時の侯爵の目が気に入らない。
 しつけをする者の目じゃない。無感情に痛めつける目だった。
 納得がいかないのが顔に出続けていたのだろう。
 コトネさんはこれ以上は意味の無いやりとりと判断したようで、ソファに横たわるランシェルちゃんへと向かい、しゃがんで同じ目線の高さになれば、

「今日は休んでいなさい」
 優しく頭を撫でれば、

「私がやるから」
 と、継ぐ。

「いえ、私がやります」

「ランシェル……。またお叱りを受けるわよ」

「大丈夫です。やります。主のために……」
 寝ていた体を起こして、強い目にてコトネさんに返していた。
 またお叱りという発言を耳にすれば、体の内側に刺さるものがある。
 お家の事情は分からないけど、それに深く関与してはいけないという気持ちと、役に立つ事も出来ないのか。という不甲斐なさが原因だ。
 
 ランシェルちゃんは失敗を挽回したいという思いがあるんだろう。
 青あざを作らされても、それでも主のためと言えるランシェルちゃんは、使用人として一流なのだろうな。
 強い目はコトネさんだけでなく、コトネさん越しに俺も見ていた。

「無理はしないでね」
 視線を受ける俺は、気づかうだけの言葉しか出せなかった。
 何か大きな仕事を任せられているようだから、これ以上よそ者の俺が否定しても意味はない。
 せめて応援だけはさせてもらおうと、作り笑顔を顔に貼り付けるだけだ。

「はい……」
 コトネさんに返した時の強い意志は感じられず、俺に対しては弱々しく返してきた。
 合わせていた目も、顔を伏せてしまって、見えなくなってしまった。
 無理しないでは、余計は発言だったのだろうか……。

「折角ですから」
 俺への返答後、休憩室は沈黙の帳が降りたように静まりかえってしまい、その雰囲気を打開するように、コトネさんが快活良く声を張り上げる。

 俺たちの歓迎ということで、お茶の準備をするといい、普段はあまり口にしない、大事な時に飲む紅茶を準備してくれるそうだ。
 ドヌクトスの老舗で買える高級紅茶葉・エデンルージュと名付けられた物を振る舞ってくれるそうだ。
 ここの皆さんは、休日は街に出て買い物をするのが、最高の楽しみ方らしい。

 ここ最近はハーブティーが主流。
 出来れば謁見の間でのハーブティーを出してもらえれば、嬉しかったりする。
 独特な渋味もあるけど、癖になる味を渇望する俺がいる。
 
 プリシュカ姫のところで飲んだのは、豊かな香りと爽快感が堪能できるハーブティーで、これも美味しかったな。
 
 紅茶となれば、ベルが喜んでいただろうな。しかも高級茶葉だし。
 紅茶のことを知れば、ここに来なかったことを残念がるだろう。

「お菓子はないんですか? 甘いクッキーがいいです」

「お前ね……」
 無遠慮を辞書で調べれば、コクリコが最初に出てこないといけないレベルだな。
 でも、その無遠慮のおかげで、張り詰めていた場が和んだけどさ。

 コイツは狙ってやっているのか。それとも天然なのか。
 前者なら俺が思っている以上に忖度の出来るヤツなのかもしれない――――と、思ったことが数秒前にあった。
 
 言われて直ぐに用意されたクッキーが目の前に置かれれば、俺が手を伸ばすことも許さないとばかりに、皿ごとかっさらい独占。
 天然の悪食ですわ……。
 
 豪快に食べる様は、メイドさん達に感嘆と笑いを巻き起こす。
 この行為によって、更に場が和んでいく。
 やっぱり、狙ってやっているのだろうか……?
 
 ランシェルちゃんも笑顔だ。皆の顔に笑いが生まれているから良しとしよう。
 高級な紅茶の色は、ルージュというだけあって赤い色。
 芳醇なバラの香りは、一口飲むだけで、口腔も鼻腔もバラ園に佇むような気分にさせてくれるものだった。
 
 非常に美味しい紅茶だったが、真っ先に浮かんだ感想は、間違いなくべらぼうに高い紅茶。
 という庶民の感想だった。



「んん――――」
 ベッドに寝転んで体を伸ばす。
 本日は嫌なことを目にしてしまったが、それでもランシェルちゃんやコトネさん達の笑顔が見られたからな。
 侯爵のお家事情だからあまり首は突っ込めないが、それでも苦言を呈するくらいはさせてもらおう。
 目が凄く怖かったから、とりあえずゲッコーさんに随伴してもらおうかな。と考える俺はヘタレだ。
 火龍の装備が泣いてるぜ。
 いつもの如くフローラルなベッドの香りを堪能しつつ、

「本日もおピンクな夢をお願いしますよ――――」
 なんてな。そんな気分ではないよな。
 侯爵と相対する為にもしっかりと英気を養おう。
 
 香りで体がリラックスしていけば、一気に睡魔が訪れる。
 俺は寝付きがいい方だな。と思っている矢先に、記憶が遠のいていく――――。

 ――………………。

 ――…………。

 ――……。

「そこまでだ。抵抗はするな」
 お、ゴソゴソと俺のベッドに何かが触れていますよ。
 声はベルのものだ。
 位置的に、俺の大事な股間の近くを触っているような――――。
 キタコレ! ついに夢の中ですが本番ですよ。
 夢の中だけでも童貞を卒業する時が来たんですね。

 まったく、こんな気分の時に、こんな夢に発展するなんて。
 へへ、夢ってのは、罪なもんだぜ。

 抵抗はするなって事だから、俺は受け身でいればいいのかな?
 いかんせん初めてなんで、お任せコースでお願いします。

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