407 / 1,861
極東
PHASE-407【涕涙】
しおりを挟む
「ランシェル」
俺には小馬鹿な笑みを見せたが、ランシェルちゃんには突き刺すような声を放つ侯爵。
そして壁に掛けられたショートソードが収まる鞘を手にすれば、おもむろに投げる。
――――ランシェルちゃんの手へとソレは収まった。
「やれ」
短く一言。
先ほどまでは動かないことで抵抗を示していたようだったけど、この一言は先ほどまでと違って、殺意が籠もっていた。
文字にして二文字だったが、ランシェルちゃんを恐怖で動かすには十分なようだった。
震える手で柄を掴み、シャリンと冷ややかな音と共に、ショートソードが抜かれる。
冷ややかな音に連動するように、俺の背筋にも冷たい物が走る。
小さく誰にも分からないような深呼吸を一度おこない気持ちを落ち着かせる。
「ランシェルちゃん」
しっかりとした声で名を呼べば、
「……申し訳ありません」
涙を浮かべて俺へと剣先を向ける。
横に立つコトネさんも、俺たちに対して申し訳ないと思っているのか、顔を反らしてこちらを見ようとはしない。
女の子を泣かせて従わせる。
「クズだってのがはっきりと分かるな」
怒りの視線を侯爵に向けたところで、意にも介さないとばかりに笑みを湛えて、
「さあ、さっさとやれ!」
強制するようにランシェルちゃんに指示を出せば、
「!?」
一瞬にしてランシェルちゃんが俺の間合いに入り込む。
俊足により、涙は置き去りとばかりに後方へと流れる。涙は玉を象り、さながら真珠のようだった。
ランシェルちゃんの構えは、五行の構えで例えるなら、脇構え。
その位置から斜め上段に向けてショートソードを振り上げてくる。
咄嗟にバックステップ。と、同時に火龍の籠手で体を庇うように、前面で腕をクロスさせれば、チュインと籠手を掠める金属音が響く。
「ひゅうぅぅぅぅ」
いい移動速度と剣技を持っている。
バトルメイドとか、ポイント高いよね。
なんて思えるあたり、俺はまだ余裕。
ランシェルちゃんはやり手だが、現状だと脅威は感じない。
鋭い一撃を持っているが、なんだろうか、間合いの取り方が剣より近かったような気がする。
嫌々戦わされているってのもあるからか、間合いを見誤って詰めすぎたのかもな。
一太刀から伝わってきたのは、俺の命を奪おうとする殺意が感じられなかったということ。
鋭くはあっても殺意が無い時点で、脅威となり得ない。
「続けてくるぞ」
分かってますよゲッコーさん。
そして、いつもの如く観戦モードのスパルタスタイルですね。
振り上げたショートソードを掴む手を返しての、上段からの斬り下ろしは、しっかりと俺の視野でも捉えている。
「悪いけど」
一応の断りを入れてから、
「イグニース」
発せば、籠手にはめ込まれたオレンジ色のタリスマンが輝き、瞬時にして亀甲デザインからなる、スクトゥムサイズの炎の盾が顕現。
ボフッと熱風を周囲に放てば、上段からの一撃を打ち込んでくるランシェルちゃんのメイド服を靡かせる。
ジュンと音を立てた瞬間に、ランシェルちゃんの顔が熱さで苦痛に歪み、バックステップで距離を取る。
熱さからの汗と、熱によるダメージを恐れた冷や汗を流し、手にするショートソードの剣身部分は熱を受けて、わずかの間だったが赤色に変化した。
「流石は勇者というべきか。強力な装備を有している」
「本当はお前の顔面を殴るために使いたいけどな」
籠手を侯爵へと向けてやれば、生意気とばかりに、笑みとは違った意味合いで口角をつり上げてくる。
だがまだまだ余裕のようだ。
「余裕ぶっているのはいいけど、正直ランシェルちゃんでは俺には届かないぞ。コトネさんが参加したとしても、数的有利はこっちが上。しかもこっちにはとんでもないのが二人ひかえているし」
言い終えてから一拍おいて――、
「毎度の事だが、もちろんお前の事じゃない!」
と、後ろを振り返ることなく言ってやる。
当然のように舌打ちが聞こえる。発信源は先ほどの侯爵と違って、後方のコクリコからだ。
とんでもない二人の内の一人が、自分の事だろうと認識すると思っていたから、コクリコが出しゃばってくる前に否定してやった。
隙あらば直ぐに前に出たがる後衛だからな。
俺には小馬鹿な笑みを見せたが、ランシェルちゃんには突き刺すような声を放つ侯爵。
そして壁に掛けられたショートソードが収まる鞘を手にすれば、おもむろに投げる。
――――ランシェルちゃんの手へとソレは収まった。
「やれ」
短く一言。
先ほどまでは動かないことで抵抗を示していたようだったけど、この一言は先ほどまでと違って、殺意が籠もっていた。
文字にして二文字だったが、ランシェルちゃんを恐怖で動かすには十分なようだった。
震える手で柄を掴み、シャリンと冷ややかな音と共に、ショートソードが抜かれる。
冷ややかな音に連動するように、俺の背筋にも冷たい物が走る。
小さく誰にも分からないような深呼吸を一度おこない気持ちを落ち着かせる。
「ランシェルちゃん」
しっかりとした声で名を呼べば、
「……申し訳ありません」
涙を浮かべて俺へと剣先を向ける。
横に立つコトネさんも、俺たちに対して申し訳ないと思っているのか、顔を反らしてこちらを見ようとはしない。
女の子を泣かせて従わせる。
「クズだってのがはっきりと分かるな」
怒りの視線を侯爵に向けたところで、意にも介さないとばかりに笑みを湛えて、
「さあ、さっさとやれ!」
強制するようにランシェルちゃんに指示を出せば、
「!?」
一瞬にしてランシェルちゃんが俺の間合いに入り込む。
俊足により、涙は置き去りとばかりに後方へと流れる。涙は玉を象り、さながら真珠のようだった。
ランシェルちゃんの構えは、五行の構えで例えるなら、脇構え。
その位置から斜め上段に向けてショートソードを振り上げてくる。
咄嗟にバックステップ。と、同時に火龍の籠手で体を庇うように、前面で腕をクロスさせれば、チュインと籠手を掠める金属音が響く。
「ひゅうぅぅぅぅ」
いい移動速度と剣技を持っている。
バトルメイドとか、ポイント高いよね。
なんて思えるあたり、俺はまだ余裕。
ランシェルちゃんはやり手だが、現状だと脅威は感じない。
鋭い一撃を持っているが、なんだろうか、間合いの取り方が剣より近かったような気がする。
嫌々戦わされているってのもあるからか、間合いを見誤って詰めすぎたのかもな。
一太刀から伝わってきたのは、俺の命を奪おうとする殺意が感じられなかったということ。
鋭くはあっても殺意が無い時点で、脅威となり得ない。
「続けてくるぞ」
分かってますよゲッコーさん。
そして、いつもの如く観戦モードのスパルタスタイルですね。
振り上げたショートソードを掴む手を返しての、上段からの斬り下ろしは、しっかりと俺の視野でも捉えている。
「悪いけど」
一応の断りを入れてから、
「イグニース」
発せば、籠手にはめ込まれたオレンジ色のタリスマンが輝き、瞬時にして亀甲デザインからなる、スクトゥムサイズの炎の盾が顕現。
ボフッと熱風を周囲に放てば、上段からの一撃を打ち込んでくるランシェルちゃんのメイド服を靡かせる。
ジュンと音を立てた瞬間に、ランシェルちゃんの顔が熱さで苦痛に歪み、バックステップで距離を取る。
熱さからの汗と、熱によるダメージを恐れた冷や汗を流し、手にするショートソードの剣身部分は熱を受けて、わずかの間だったが赤色に変化した。
「流石は勇者というべきか。強力な装備を有している」
「本当はお前の顔面を殴るために使いたいけどな」
籠手を侯爵へと向けてやれば、生意気とばかりに、笑みとは違った意味合いで口角をつり上げてくる。
だがまだまだ余裕のようだ。
「余裕ぶっているのはいいけど、正直ランシェルちゃんでは俺には届かないぞ。コトネさんが参加したとしても、数的有利はこっちが上。しかもこっちにはとんでもないのが二人ひかえているし」
言い終えてから一拍おいて――、
「毎度の事だが、もちろんお前の事じゃない!」
と、後ろを振り返ることなく言ってやる。
当然のように舌打ちが聞こえる。発信源は先ほどの侯爵と違って、後方のコクリコからだ。
とんでもない二人の内の一人が、自分の事だろうと認識すると思っていたから、コクリコが出しゃばってくる前に否定してやった。
隙あらば直ぐに前に出たがる後衛だからな。
1
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道
コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。
主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。
こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。
そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。
修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。
それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。
不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。
記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。
メサメサメサ
メサ メサ
メサ メサ
メサ メサ
メサメサメサメサメサ
メ サ メ サ サ
メ サ メ サ サ サ
メ サ メ サ ササ
他サイトにも掲載しています。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる