異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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極東

PHASE-411【バトルメイド】

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 伝説の兵士は余裕に紫煙を燻らせるが、眼界では余裕はない。
 馬鹿が生み出した馬鹿魔法が原因で、飛び散る火が窓に備わるカーテンなんかに飛び火して、今にも燃え広がりそうな勢いだ。

「俺たち放火魔の仲間になりますよ」

「ま、敵の根城だ。燃やしても問題ない」
 以前は一振りで砦の門やら櫓を灰燼焦土と化していたベルが言うと、説得力があるね。
 でも、体を乗っ取られているわけだから、侯爵の屋敷は別段、敵の根城ではないような……。

 俺たちのように傍観している者達もいれば、ランシェルちゃん達のように燃え広がる前にと、消火を始める面子もいる。
 これじゃあ、どっちが魔王軍だよ……。
 
 俺がスプリームフォールを使えば一発消火なんだが、そうなるとこの辺一帯が水の中に沈むよな。
 屋敷を大いに壊すわけにもいかんだろうし。

「下らんことはいい。さっさと戦え」
 ヴァンパイアから怒号が飛ぶ。
 あいつはメイドさん達には強い態度だな。

「しかし、火災が――――」

「下らん。魂胆が見え透いている。やれ!」
 コトネさんが意を唱えようとするが、それを遮る。 
 懸命に消火作業に従事することで、このまま戦いを回避しようとする腹積もりなのだろう。と、ヴァンパイアに看破されれば、

「我が胸三寸だぞ」
 冷ややかにヴァンパイアが発すると、メイドさん達はビクリと体を震わせ、消火作業を止めると、再び剣を手にする。

「来るぞ」
 吸い殻を携帯灰皿にしまい。
 ゆっくりと立ち上がるゲッコーさんが麻酔銃をスライド。
 俺の背後にいた面子が立ち上がる。
 遅れて俺も立つ。そのタイミングでメイドさん達が一気に俺たちへと迫る。
 大人数であるが、互いがぶつからない位置を把握しながら、俺たちへと距離を縮めてくる。

「さあ、来るがいい!」
 さっそく、うちの馬鹿代表が誰よりも前に立ち、ワンドを煌めかせ、

「ファイヤーボール」
 と、開始の合図。
 艶やかな黒髪をシニヨンで纏めたコトネさんが、手にするショートソードでファイヤーボールを両断。
 爆発するもそれに物怖じすることなどなく、コトネさんは驀地。
 後方からもメイドさん達がそれに続く。
 まるで飛翔しているかのような素早い歩法。
 
「はぁ!」
 裂帛の気合いと共にコトネさんがコクリコに剣を振り下ろす。
 ガキンとワンドで受けて捌くコクリコ。
 捌くと同時に体を移動させて、コトネさんの剣の正面から離れると、続いて向かってくる相手の剣に対し、片足だけで立ち、ワンドで腹部を突く。
 突かれたメイドさんは、美貌を苦痛で歪めて膝をつく。
 突いた時のコクリコの姿勢は、体で丁の字を描いているようなバレエダンサーのようなしなやかさ。
 
 膝をついた一人を飛び越えるようにメイドさんが斬りかかってくれば、未だ片足立ちのコクリコは、床に付けていない足で迎撃。
 
 跳躍する相手の腹部に押すような蹴撃を見舞えば、反動を利用して後転にて距離を取り、黄色と黒の二色からなるローブをバサッと整えて。揺れる黒色級ドゥブである認識票をピッと引っ張って揺れを止め、ワンドを相手へと向けて威圧。
 不思議とそれで動きが止まるメイドさん達。

「…………お前は成龍か!」
 感心するほどのカンフーアクションだった……。
 金払って見たいレベルだったよ。

「怯むな」
 動きの止まったメイドさん達にコトネさんが発せば、再び動き出す。
 パシュン。
 音が響く、

「く……」
 麻酔銃が腕に当たったメイドさんの動きが鈍くなる。

「大した女性だ。普通なら腕でも直ぐに眠るんだが」
 魔王軍だから、常人とは違うか。
 ゲッコーさんはヘッドショットに切り替える。
 小さく響くサプレッサー音が響けば、今度は一発で倒れる。

「はっ!」

「いい距離の詰め方だ」
 もう一発を撃つところで、俺の側面に立つゲッコーさんの側面からメイドさんが刺突を見舞うも、剣を持った手をゲッコーさんが掴めば、同時にメイドさんが宙を舞う。
 俺がホブを投げ飛ばしたものより、ベルがカイルを投げ飛ばした時よりも速く、音も無く、流れるような動きで投げた。
 床に背中から叩き付けられたメイドさんは意識が飛ぶ。
 でも、頭は打たないように、しっかりと手で支えてあげる男前。それが、ゲッコーさん。

「トール感心している余裕はないぞ」

「だな」
 ベルが寄ってくるメイドさん達の剣をレイピアで捌いて、長い足からなる蹴撃で黙らせていく中、俺への警告。
 俺の横に立つゲッコーさんの位置まで来るって事は、油断すれば包囲される事になる。

 なので――――、

「イグニース」
 炎の盾を展開してから俺が突っ込む。
 側面からの攻撃にはめっぽう弱いが、迫り来るメイドさん達を正面から退けることは出来る。
 イメージは、除雪なら任せとけ! の、ラッセル車や、砕氷船アイスブレイカーだ。

「崩してやったぞ」
 美しく迫ってきたメイドさん達の動きの阻害に成功。
 相手に隙が生じる。その隙を必殺に変えてくれる二人。

 動きの止まったメイドさん達をゲッコーさんが次々と麻酔銃で眠らせていき、ベルも手刀で首をトンッと軽やかに叩いていく。それだけでパタリと床へと倒れていくメイドさん。

「活躍できない……」
 と、ここでシャルナが渋面。
 コクリコに比べると接近戦は不得手のようだ。
 弓を使いたくても、殺傷力があるから使えない。
 魔法を使用したいようだが、俺がメイドさん達に突っ込んでの乱戦状態だから、使えないご様子。
 回廊全体を照らしてくれるファイアフライの魔法使用だけでも、十分に活躍しているけどな。
 
 後方で回復なんかのサポートを任せよう。
 なんたって、ここから俺は怪我をしそうだからな。

 ――――俺の前に立ちふさがるのは――――、ランシェルちゃん。コトネさん。サニアさん。
 紫色の髪がセンターに立ち、左右に黒髪シニヨンと茶髪ポニーテール。
 共通しているのは、手に握られたショートソード。
 
 俺とゲッコーさんの見立てでは、徒手空拳が得意と思われるメイドさん達。
 ある意味、ショートソードで挑んでくれる方が、俺としてはありがたい。
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