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死霊魔術師

PHASE-569【地下都市】

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 魔法の言葉で開くとしても――だ、その言葉を知らないとなれば、俺たちが取る行動は実力行使という選択肢になるのかな。

「面倒くさいですね。C-4 を使用すればいいでしょう」
 俺の思っていることをはっきりと口にしてくれるコクリコ。
 でもな。

「これ以上、相手を刺激してどうする」

「何を言っているんです。廃城とはいえここは侯爵の所有物。不法滞在をしている者に慈悲など不要。挨拶に来ているのにスケルトンを差し向ける辺り、かなりの性格破綻者ですよ」
 ド正論なので俺はコクリコに言い返せない。
 たしかに無断で使用しているんだもんな。
 本当に説得力があったよ。流石は俺たちと出会う前は賊なんかの塒に不法滞在していただけある。
 不法滞在のプロの言葉は重みが違う。

「馬鹿にしてます?」

「――――してないよ」

「間が開いた返しと、目が気に入らない!」

「分かったから少し離れようか」
 既にゲッコーさんはC-4 の設置を終えていた。
 大きく床を破損させないように調整しつつ、離れたところで――――起爆。
 発破の匠の如く周囲を傷つけることのない素晴らしい爆破だった。
 爆破した穴を覗き込めば、下に見える階段も目立った損傷はない。

「よし行こうか」
 ライトで照らされる下へと続く階段。
 かなり長い下り階段のようで、軍用ライトでも下の階層を捉えることは出来ない。
 ゲッコーさんが各自に渡したフラッシュライトだけで照らされる空間。主にコクリコのために照らしてやる。
 壁には明かりを灯す燭台などのようなオブジェは一切無い。
 下っていく階段では、俺たちの足音だけが不気味に反響する。

「この階段は上の城とは別物だな」

「そうですね。石の材質が違います」
 壁を触るゲッコーさんにベルも同意を示す。
 材質だけではない。
 この階段だけは上の階層と違って真新しいものだ。
 ツルツルした白色の石材に経年劣化は見られない。

「コンクリートに近いというか、そのものだな」
 触って材質を調べるゲッコーさん。
 確か古代ローマの時代からコンクリートは使われていたよな。
 最近の技術って思ってしまうけど、昔からある技術なんだよな、コンクリートって。
 コンクリートの壁とか憧れる。俺も一人暮らしを始めたら、コンクリート打ちっ放しの部屋に住みたいな。

「丁寧な造りですね」

「ああ、作り手はこだわりを持つタイプだな」
 チート二人が感心。
 二人を真似て壁に触れてみれば、ツルツルした手触りが手袋越しにも伝わってくる。
 階段も同じ材質だから滑らないように注意せねば。
 
 ――――螺旋状の階段を下り終えれば、目の前には鉄扉が一つ現れる。
 用心をしつつゲッコーさんと二人して押し開けば、明るさに目を閉じてしまう。
 やおら開いた眼界に、地下の光景が飛び込んで来る。
 そこは地下であって地下ではなかった。

「すげ~……ジオフロントだ」
 白亜の建築物が立ち並ぶ地下都市が広がる世界。
 とてもじゃないけどアンデッドがいるとは思えない空間だな。
 リズベッドが囚われていた部屋に似ていて、天井や壁に埋め込まれた巨大なクリスタルが光を放って全体を照らしている。
 要塞の時とは違って、ここのは蛍光灯のような明るさ。俺が住んでいた世界の生活で使用する白光色の灯りに似ており、目に入る光景の隅々まで見る事が出来ると思えるほどに明るかった。
 地下なのに昼間のようだ。
 というか、なんでこんなに建築物がいるんだ? 不死が暇をもてあまして、趣味を極めた結果なのかな?

「カタカタカタ――」

「またかよ……」
 建築物からゆっくりとした歩法でスケルトン達が出て来る。
 友好的じゃないというのは、手にした得物でよく分かる。
 住人たちは、自ら武器を手にして家を守っていくスタイルのようだ。警備サービス会社が成り立たない世界だな。この地下世界は。

「これ戦うのかな?」
 建築物があるとはいえ、回廊に比べれば広い。大きく立ち回れるのは有りがたいけど、とりあえずは、

「こんにちは!」
 元気に挨拶。
 ――……まあ、分かってましたよ。さっきと同様のことをしても意味がないってのはね。
 違いがあるとするならば、

「キシャァァァァァァァ!」

「ほう!」
 カタカタと上顎と下顎で奏でるものではなく、気の違ったヤツのシャウトが建築物の屋上から聞こえてきた。

「よく来たナ。生者の闖入者たちヨ」

「………………エルム街」

「? エルムガイ? そんな名ではなイ」
 意思疎通は出来るみたいだけど、明らかにゾンビだな。
 三十年以上前のホラー映画に出てきそうな、凶悪な人間タイプの怪物が出てきた。
 あいつはゾンビではないけど。
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