異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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死霊魔術師

PHASE-573【表情が表に出るゾンビは怖くなくていい】

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「さあ、終わりだゾ」

「何がだよ。まだ始まったばかりだろうが!」

「そのうち、お前は苦しみながら死ぬ事になル」
 なにその怖い予言。

「だがそうなる前に――死を与えてやろウ!」
 正面切っての攻撃。
 大仰な動きから繰り出される鉄の爪と左手による拳打と蹴撃のコンボ。
 ヌルヌルとしたトリッキーな動きだが対応は出来ている。

「――――んン!?」
 数度の攻撃を仕掛けてくるうちに、明らかに納得がいかないとばかりに、生気を失った目が訝しいものに変わる。

「おら!」

「ええイ!」
 俺の斬撃を煩わしそうに捌きつつバックステップで距離を取れば、コートの中に左手を入れると、次の動作で四本のスローイングナイフが俺に向かって飛んでくる。
 躱せば壁へと刺さるナイフ。
 刃にはべっとりと緑黄色の液体が塗りたくられていた。
 完璧に毒だな。
 まあ、俺には関係ないけどさ。
 といっても刺さればダメージだけど。

「お返し――!?」
 追撃に出るつもりが再び背中に鈍痛。
 やはりハンマーのような一撃が背中を襲う。
 転がり回る衝撃が体の芯まで届いてくる。

「なんなんだよ……さっきから」
 バックステップで距離を取ったエルム街の親戚は仕掛けてこない。
 距離を取り過ぎたのも原因だろうが、一度経験しているから初撃と違って若干冷静さもあり、先ほどに比べて即応による迎撃の構えを俺が見せたから、追撃を諦めたようだ。

「いてて……」
 いくら火龍装備とはいえ、立て続けの衝撃は流石にダメージが蓄積される。
 全くもってこんなにも言い様にされるなんてな。この俺が。
 ――――この思考、まるで最強系主人公みたいじゃないか。
 俺に手傷を負わせるとは褒めてやる。ってな感じで返してやるべきか。
 ――――うん。それだと最強系主人公じゃなく、その主人公に相対する悪役だな。
 さあ、考えよう。
 バックステップ以降の動きからして、背後からの攻撃はエルム街の親戚じゃないと推測。
 というか、再び立ち上がる俺を見て、ゾンビの表情が曇っている。
 元々が曇ったようなもんだけど。
 なぜ立ち上がれる!? って吹き出しがエルム街の親戚の横に幻視できる。
 ああやって表情が豊かだと、ゾンビっぽくなくて俺としては恐怖に呑まれなくていいけどな。
 あの表情からして、後方からの攻撃は必殺の一撃って事なんだろう。でも俺が二度も立っていることに得心がいかないといったところか。
 少し歩いて俺は建築物の壁に背を向ける。
 これで後方からの攻撃が防げるなら御の字だな。
 強い衝撃ではあるけど、デスベアラーのような強力な壁破壊の膂力と比べれば対したことはない。
 あれと同等なら、一撃目で立てなくて殺されているだろうからな。

「くだらなイ!」
 って苛立ちが混ざる発言の時点で、後方からの攻撃は来ないと考えていいかもな。
 一応は警戒するけど。
 苛立った発言からして、推測通り背後からの攻撃はエルム街の親戚が実行しているのではなく、第三者によるものと考えた方が無難なようだ。
 連係をとっていたのが取れなくなった感じだな。
 近づいてくる翁の気配を感じ取れる事は出来たけど、今現在、後方からの気配は感じることが出来ない。
 隠密特化型か、感知が難しい遠距離からの狙撃ってことだろうか。

「シャァァァア」
 再び攻めてくる鉄の爪の不気味な光。
 斬撃は速く、動きにも無駄がない。
 続けざまに徒手空拳を仕掛けて来て、俺の姿勢を崩したと判断したところで必殺の斬撃。

「無駄!」
 速い斬撃であっても十分に対処は出来る。
 左の籠手で弾いて、残火で斬ると見せかけて、爪でガードしようとする動作を確認したところで、弾いた左手に力を集中させ、

「なぜだ!? なぜ動けル!」
 訳の分からん。だがその驚きを隙とさせてもらう。

「烈火!」
 左拳前方に火球を作り出し、強く足を踏み込みながら拳で狙うのは、腕が上がり、がら空きになった右脇。
 綺麗に入れば、大層に吹っ飛んでくれる。
 でも流石に集中が足りなかった。
 イグニースでラージシールドタイプの炎を顕現させ、そこから圧縮させることで絶大なダメージを与える事が可能な技だからな。
 緊急時の一撃では必殺にはなり得ない。
 ま、吹っ飛ばすくらいは可能だったけど。
 加えてスリップダメージが入るはず。相手はアンデッド。炎に包まれれば大きなダメージを受けるは……ず?

「そちらこそ無駄ダ」

「うそん!?」
 炎を体全体に纏わせたまま立ち上がり、横回転。
 遠心力でコートの裾が広がれば、同時に纏わり付く炎が体から離れていく。
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