異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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死霊魔術師

PHASE-583【動くパターンですわ】

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「――――さて、何とも殺風景だな」
 上のジオフロントに比べれば、感動の薄いただの一つの部屋。
 でもしっかりとした広間ではある。
 俺たちが来ることが分かっているかのように、室内全体は明るく照らされていた。
 灯りとなるのは天井にぶら下がったシャンデリア。
 タリスマンで白光色に輝くシャンデリアだ。侯爵の所にあったのと同じ原理の物だろう。
 螺旋階段から直結された広間は、床全体に茶系の絨毯が敷かれていて、広い空間の中央にはぽつんとテーブルと椅子が置いてある。
 アンティークなデザインは年代物だけども劣化はなく、いい保存状態の物だというのが見ただけで分かる。
 で、この室内で目立つ存在が――、壁際に鎮座している鎧だ。
 西洋鎧のフルプレート。
 西洋風の広間だからあっても違和感はないんだけども……。
 姿勢がね……。
 普通は立たされて飾られている物だろうが、白銀のフルプレートは片膝を突いている姿勢だ。
 バケツ型のグレートヘルムに、白銀を目立たせる真紅のシュールコーを羽織っている。
 装飾が立派な抜き身の大剣を床に突き刺して体を支えているようにも見える。
 タイトルをつけるなら【激闘後】ってところか。鎧には傷とかは無いけど、姿勢だけならそんな風に見える。
 
 だがそんな事よりも――――だ。

「あれさ、絶対に動くよね」

「まあ動いてこそだろう」

「動きますね」

「うん。動くよ」

「そうなのか? 立派な鎧だとしか思わんが」
 俺に続くメンバーの中でベルだけが合うことがなかった。
 気配感知能力は凄いけども、こういったお約束を察することは出来ないようだ。
 強者故の鈍感さ。動いたところで別にってことだろう。

「先手必勝ですかね」

「それも選択としてはありだろう」
 と、ゲッコーさんも賛同。
 これ見よがしにSG552のチャージングハンドルを引く。
 今から仕掛けるよとばかりに。
 やはりというべきか、その所作によって白銀の鎧がギギギ――と、軋む音を立てながらやおら立ち上がる。
 ブゥンとグレートヘルムの奥から紫色の光が二つ灯れば、光が俺たちの方を向く。
 緑光じゃないところからするに、あの中にはスケルトンが入っているという可能性は低くなった。

「動くぞ!」
 言って直ぐに5.56㎜を迫ってくる白銀の鎧に数発着弾させる。

「おお、見事だ」
 弾丸を物ともせず、フルプレートとは思えないほどの軽快な移動速度で接近し、攻撃を加えたゲッコーさんに向かって煌びやかな大剣を上段から振るう。
 脇がしっかりとしまった、お手本のような見事な斬撃。
 感心するゲッコーさん。両手に持つSG552が、中央から真っ二つ。
 スケルトンマガジンから弾丸が派手に飛び散る。

「やるじゃないか」
 続く下段からの斬り上げに対して、いつものように背後へと素早く回り込み関節を極める――――と思っていたけど、ゲッコーさんは途中でそれを止めてバックステップで距離を取った。
 
 動きで悟る。

「関節の無い相手ですか」

「ああ、こいつは意味がない」
 ゆらりと紫色の残光を描きながら俺たちへと視線を向ける白銀鎧。
 構えてから次に狙いを定めたのは――、俺。
 疾駆からの大上段からの一振り。

「イグニース」
 炎の盾で攻撃を防ぎ、そのままシールドバッシュで吹き飛ばせば、空中で体を一回転。重量を感じさせない華麗な着地。
 真紅のシュールコーを纏っての動きは見事で格好いい。
 俺も自分のマントをあんな感じで格好良く靡かせてみたいもんだ。
 直ぐさま立ち上がれば、腰を深く落とした姿勢で相対する。
 ターゲットを俺に固定したようで、大剣の切っ先が向けられる。
 
 あの独特な構え。

「――介者かいしゃ剣術か」

「どの様な剣術だ」
 真っ先に興味を持ったのはベルだ。
 腰を落として、弱点となる鎧の隙間をなるべく露出させないようにする剣術。
 たしか戦国時代の鎧武者同士の戦い方だったはず。
 道場に置いてあった本でちらっと読んだ程度だから自信はないけど。

「なるほど。合理的だが消極的だ」
 致命傷になる部位に刃が入らないようにするものだからな。実力が拮抗しているなら長期戦になる。
 それが狙いでもあるらしいけど。
 長引かせてスタミナ切れに追い込んだり、蓄積したダメージで隙が生じたところを甲冑組手なんかで組み敷いてから、首を斬り落とすって剣術だったよな。
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