異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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死霊魔術師

PHASE-589【バランスボールサイズ……】

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「話がしたいなら私の足元まで来てみなさい」
 つまりは目の前の軍勢を突破してこいということか。

「この距離でもちゃんと会話できてるよね!」
 大声だけど、さっきから十分にやり取りしてるじゃん。戦いなんてせずにこのまま会話でいきたいね。

「聞こえな~い。会話できてな~い」

「聞こえてんじゃねえか!」
 本当に挑発が好きなアンデッドだ。
 いくら美人だからってあんなにも人をおちょくるヤツを俺は許さない。
 これは折檻――――、

「ファイヤーボール!」

「よくやった!」
 挨拶大好きコクリコさん。
 普段だったら怒っているが、向こうがやる気になっているし、しかも挑発してくるからな。
 今回は褒めますよ。
 ベルもグッと拳を作ってのガッツポーズ。やはり挑発を受けてかなりお怒りだったご様子。

「あら可愛いボールね」
 展開された軍勢はピクリとも動かない。
 主を守るといった動作すらとろうとしない。
 アルトラリッチが口端を上げて笑みを湛えれば、それだけでコクリコのファイヤーボールがかき消される。
 ゼノやオムニガルが簡単にかき消してたからな。そんなゼノを低位のアンデッドあつかいしているわけだし、ゼノや配下のオムニガルができる事は当然できるわけだ。
 軍勢が動く必要がないわけである。

「貴女も私と同じような道を歩めば、魔力の深淵を覗くことも可能になるわよ。そしたらこんな可愛らしいボールじゃないものを使用出来るようになるのだけれけど」

「はっ! 天才は生きている間にこなせるから天才なのですよ。そしてその天才とは私のこと!」
 格好いいことを言いましたよ。
 目の前でお得意な魔法を造作もなくかき消されたばかりなのにね。
 そのメンタル素敵だよコクリコ。
 焦燥感を糧にして、いまお前は輝いているぞ!

「あらそうなの。残念。じゃあ、その天才の芽を摘んでしまうかもしれないわね。ちなみにこれが私の――――ファイヤーボール」

 ――…………。

 ――……!?

「ちょっと待て!」
 アルトラリッチが座った姿勢で手を突き出せば、顕現する火球。
 だが、コクリコのソフトボールサイズでも、シャルナのサッカーボールサイズでもないファイヤーボールが顕現。
 それは本当にファイヤーボールなの? と、問いたい。
 俺たちが目にするのは体幹のインナーマッスルを鍛えるのにもってこいのバランスボールサイズ。

「最早ファイヤーボールじゃないだろう。別の上位魔法とかじゃないのかあれ」
 伝説の兵士も驚きだ。
 言うように完全に別物にしか見えない。
 太陽のように火球から凶悪に迸るプロミネンス状の炎。
 球体の外周にも炎の環がいくつも現れて回転。
 ノービス魔法のはずなのに、圧倒的な威力である。と、見る者に刻み込んでくる。
 使い手が凄ければ低位魔法であっても、中位や上位に位置するって聞いたけど、いま正に目の前でそれを体験させてくれている。

「それ」
 手元に留めていたファイヤーボールが俺たちへと放たれる。
 ゴウゴウと凶悪な音を発しながら高速で迫ってくる。

「イグニース!」

「プロテクション」
 俺とほぼ同時にシャルナも魔法障壁を展開。
 俺の半球状のイグニースの中に、半球状の障壁を作り出してくれる。
 ――ドゴォォォォォォォン! と、体の芯までしっかりと伝わってくる衝撃。
 あまりの威力にクリスタルの床も揺れる。

「おう……」
 何とか防いだことには防いだが、俺のイグニースでは完全に防ぎきれなかった。
 シャルナのプロテクションによって何とか防げたといった感じだ。
 半球状のイグニースだと全体を守る分、薄いな。前面集中型が正解だった。

「あれ強いぞ。今まで出会った中だと、火龍を除けばダントツじゃないか」

「ええ、間違いなく圧倒的強者です」
 チート二人が声を揃えて感嘆。
 地龍がこの場にいなくて良かったというのが最初の感想だった。
 地龍戦の時はリズベッドとランシェルがいたからね。
 もしここにリズベッドがいてくれたら、あのファイヤーボールも心配はいらなかったんだろうけど。
 何たって地龍の攻撃をしっかりと防いでくれる障壁を容易く出せるからな。
 地龍の攻撃を防げるなら、アルトラリッチの魔法だって問題なく防げるよ。
 心の中だけでも地龍をフォローする俺。
 
 まあ実際、リズベッドがいてくれれば心に大きなゆとりが出来たのも事実だろう。
 だが、いまこの場にいない存在をねだったところで意味はない。
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