異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
654 / 1,861
ダンジョン何階まで潜れる?

PHASE-654【アイテムボックス(仮)】

しおりを挟む
 ――――試してみるか。
 腕組みを止めてプレイギアを手にする。
 この通路の広さならコイツがいいだろう。

「M151A2マット」
 発せばいつもの如く俺の眼前が輝く。
 通路の暗がりも白光の世界に変えるほどの強い輝き。
 光の終息と共に現れるのは、軍用の小型汎用車両。
 ドアはなく、フレームが目立つ車体。
 ルーフは帆布みたいなモスグリーンのものだけ。乗車している最中に横殴りの雨に見舞われたら、びしょ濡れ間違いなし。

「いつものと違って一回り小さいですね。頼りなさそうです」

「今までのが頼りになりすぎたんだよ」
 時代もハンヴィーより前に車両だしな。
 小型な事もあり輸送が簡単で素早い展開が可能な事から、現在でも使用されてたりするらしいけど。
 でも、コクリコの言うようにこれでドンパチしてるところには行きたくないよな。
 まあ、それはいいとして、

「実験を始める」

「はあ」

「コクリコ君。我々が倒したスケルトンの骨を一本」
 言えば、なんの躊躇もなく人骨を手にするところは逞しい。
 俺が同じことを言われればちょっとは躊躇するけどな。
 実際に受け取る時に躊躇してしまった。
 受け取った腕部と思われる骨をマットの助手席に置く。
 その時、目に入ったのは、

「なんだこれ。マニュアルじゃん」
 やだ困る。俺、異世界免許はオートマ限定なんですけど。
 これ運転できないな。まあいいか。この実験が成功したら、ドヌクトスに帰る時にJLTVかトラックにお宝を移せばいいだけだし。
 さて――、

「戻れ」
 プレイギアに戻るマット。
 で――、

「出てこいさっきのM151A2マット」
 輝きから出て来るのはさっきのマットなのか。それとも別のマットか。オブジェクトの車両は数も多いから、ランダムで出て来るという可能性もある。
 一応はさっきのって言ってはいるけど――。
 強い期待から、光にも負けずにその先を凝視。
 車体の影が現れたところで俺は駆け寄る。
 
 ――――うむ!

「コクリコ君。成功だよ!」

「何が成功なのかは分かりませんが、おめでとうございます」
 分からないコクリコに助手席からスケルトンの骨を手にして見せてやる。

「…………!? おお!」
 理解したのか笑顔を湛える。
 その早い理解は大したもんだ。

「何を興奮しているのかしら?」
 付き合いの短いリンはよく分かっていない。

「俺が召喚した車両に骨を入れて戻す。そして再度召喚。骨は健在。つまりはこのマット君に、手に入れたお宝を積み込んでから戻せば、帰りの回収作業をしなくていいし、重たい物を持って歩かなくてすむわけだ」

「ああなるほど。便利ね」

「おうよ! マット君を車両として使用せずに、アイテム回収ボックスとして使用するわけだ」
 マニュアルの時点で、俺はマット君を車両として扱えることは出来ないけどな。
 これは本当に便利機能だ。
 オートセーブ機能であるゲームだから心配はないとは思っていたけど、ちゃんと骨が残っているという状態でセーブされていてよかった。
 俺たちは車両型のアイテムボックスをゲットした。
 
 ――――この階層で手に入れたアイテムは、全てマット君に入れてプレイギアに戻した。
 念のため再度、召喚を実行し、しっかりと車内にアイテムが入っているのも確認した。
 次の階層でもこうやってアイテムを回収しよう。全てが終われば上の階層のアイテムも同様に回収だ。
 これは本当にありがたい。重労働の心配がないからな。
 そう思うと、自然と足取りも軽くなる。
 
「さあ先に進もうぜ」
 

 ――――進むこと地下十一階。
 ここまでくるとやはりそこそこの敵が出現する。
 フロアミミックも当たり前に出没するし、気持ちの悪い金切り音のような叫び声で、俺たちの戦意と集中力を奪ってくる一体のクライゾンビとも会敵。
 遠距離から俺のライノとコクリコのファイヤーボールで対処は簡単だったけど、やはり人型のゾンビは怖い……。
 暗がりにうめき声を上げながら迫ってくる姿は映画みたいだったからな――――。



「キャァァァァァァァァァ――!!」

「耳が壊れる!」
 再び会敵するクライゾンビ。今度は供回りとばかりにスケルトンが数体いる。
 動きはゾンビらしく遅いんだけども、この叫びが嫌いだ。
 狭い通路で音が反響するから余計に集中力の妨げになる。
 この叫びでピリアやネイコスのマナ発動が遅れる。
 その間に、

「スケルトン接近」
 普通のスケルトン。
 手には棍棒やボロボロの剣を持っている。
 叫びに意識を奪われ、接近を許してしまう。
 連係がとれたアンデッド達だ。

「なめんな!」
 ライノから一発。
 上手い具合にヘッドショットが決まれば、FN-57の時と違い、一発でスケルトンをダウンさせられる。
 本当なら今のでクライゾンビを仕留めたかったが、スケルトンが射線を妨げる。
 だから、金切り声を聞かされ続けてしまっている。
 初対面は一体だったからよかったものの、前衛がいるだけで鬱陶しい叫び声がずっと続くわけだ。
 叫び声にコクリコも耳を塞ぎ、魔法発動が困難になっている。

「コクリコ来てるぞ」
 俺が前衛とはいえ、今回は二人パーティー。
 後衛といっても数歩後ろにいるだけだから、スケルトンが俺を通過すれば直ぐにコクリコまで届く。
 叫びにより意識を妨げる戦法は、さながら巨龍のバインドボイスのようであった。
 そのせいでコクリコに接近を許してしまう。

「くそ!」
 心配は無用だろうけども、後衛に接近されることはいただけない。
 叫び声に耐え、接近を許すことなく全てを俺一人で倒せるくらいじゃないといけない。
 しかも接近を許した相手はスケルトン。
 雑魚中の雑魚。
 だからこそ悔しさが口から漏れてしまう。
 現状の実力に、慚愧に堪えない。

しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...