異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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ダンジョン何階まで潜れる?

PHASE-688【アライアンス】

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 今のベルは俺の事を信頼してくれている。最初の頃はまったく信頼されていなかったし、俺に戦う覚悟がなかったことから衝突もした。
 自分は出来るだけ戦わず、ベルやゲッコーさんにだけ頼ろうとした心の弱さが衝突の問題だったんだけど。
 この異世界で戦いに身を投じて、この世界のために行動するようになってからはちゃんと俺の事を見てもらえている。
 流血なんて慣れるもんじゃないし慣れてもいけないけど、仲間と世界のために覚悟だけはして今後も活動しないとな。
 侯爵の派兵により戦いは次の段階、守勢から攻勢に出るという展開になるだろう。
 対魔王軍との戦いもしっかりと念頭に置いて行動する。
 その為にも、

「これからもよしなに」

「おうさ! 困った事があったら言ってくれ。クエスト報酬次第では魔王軍とも戦ってやるぞ」
 禿頭がキラリと輝けば、冒険者として、報酬という欲により目も同様に輝く。

「ならば報酬次第では敵にもなりえると?」

「そ、そりゃねえよ美人様。冗談だって」
 ベルの質問にロイ氏が丸太のような両腕を前に突き出して、待ってくれのアピール。

「俺たちは傭兵じゃねえ。金さえもらえば昨日の友が今日の敵って事にはならねえ。そこは筋を通すし、そもそも冒険者は自由の中で悪と戦うってのが粋なんだ。悪に靡いたらそれは冒険者じゃなく、ただのごろんぼだよ」
 二の句を継ぐ声は若干だけど上擦っていた。
 衆目を集める美人だが、近くにて炯眼を向けられれば、重圧に呑まれるのはしかたがないことだろう。

「ギルド間においての同盟がなった日だ。なんともめでたい!」
 上擦った声を整え、ロイ氏の大音声にギルドメンバーも大音声で返してくる。
 手にしたビアマグを高らかに掲げて。

「初めてのアライアンスもなった事ですし、大いに楽しみましょう!」
 続く大音声の主は共同出資者のコクリコ。
 テーブルの上に立つというはしたない姿だが、シークランナーの方々からは受けが良かった。
 喝采の中でジョッキに入ったエードをがぶ飲みする姿は、悪酔いした酔っ払いのようであった。
 大勢の前でも自分を出せるようになったな。
 まあ、直ぐさまベルによって拳骨を見舞われるわけだけども。
 騒がしくも楽しい夜会だった。

 ――――。

「で、なんで来なかったんだよ」

「騒がしいのは嫌」
 翌日、侯爵の別邸の大広間でくつろぐリンとイルマイユ。
 騒がしいのが嫌とは言うけども、イルマイユの事を考えてのことかも知れないな。
 そんなイルマイユはコトネさん達によってコーディネートされた服で身を包む。
 女の子らしいドレス系ではなく、今後の事を考えているようで動きやすさに重きを置いている。
 青色のショートパンツに白のローブ。
 コクリコの2Pニピーカラーみたいな感じ。
 これに加えて膝上までを隠すレザーブーツ。

「旅をするって感じだな」

「王都まではこれで行くわよ」
 ――……俺はリンに接近し耳元で語る。

「これドラゴンに戻って、再び擬人化するとどうなるの?」

「同じ服装を準備させているから問題ないわね」
 やっぱりそうなるのか。
 ドラゴンと擬人化を繰り返すような事はさせないようにしないとな。

「まだそんなに日は経ってないけど、イルマイユはここの人達には慣れたか?」

「大丈夫。ここの人達は人間じゃないから」
 ですよね。
 人間よりも魔族であるサキュバスの方が気を許せるってのは仕方がない。
 昔の欲に溺れた人間達は、もしかしたら現在の魔王軍よりも心根が腐ってたかもしれないな。

「あの……それでですね」
 だからこそ言い出すのになんか申し訳なさもあったりする。
 手揉みしながら口を開く俺はへっぽこ小役人の如し。

「エリクシールでしょ」
 サラッと返してくるリンと、わずかだけども体をビクリと震わせるイルマイユ。
 後者の姿を見ると更に罪悪感を覚えてしまうので、

「無理ならいいんだぞ。もう結構な物も手に入れたし。リンの戯れで」

「戯れって失礼ね。浪漫よ」
 その浪漫のためにシークランナーの皆さんは新米を残して皆してダンジョン攻略に出たそうだ。
 昨晩の夜会でしこたま飲んだけど元気なもんだ。
 ダンジョンに残された物は少ないけども、素材としてダイヒレンも生息しているし、お目当ての湖底に沈めているオリハルコンの塊の事を知れば躍起にもなる。
 ミスリルを超える希少鉱物であるオリハルコンは、やはり冒険者にとっては浪漫だからね。

「エリクシールは必要になる物なんだから持っておくべきよ。ねえ」
 と、リンの問いかけにイルマイユはオドオドとしていたけども――、意を決したように、

「人間は嫌いだし、これからも嫌い。でもトール達は信頼する」
 俺たちの事を信頼するって発言が出来るだけでも、この子にとっては大きな一歩なんだろうな。

「ありがとう」
 って、素直に口から出てきた。
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