異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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北伐

PHASE-708【ユニークスキル】

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 ――――三千に対して百。
 三十倍にもなる相手に対し、高順氏が指揮する騎兵百が要塞外の湿地帯に陣取る敵陣に猛然と突撃を敢行。
 
 軍馬は農耕馬を利用し、湿地を苦もなく走る事が出来るまでに訓練させているという。
 湿地に手間取るワーグに騎乗するオークや、ゴブリンライダー達からすれば軍馬の動きは駿馬に見えたことだろう。
 
 トールハンマーは要塞全体としての名前であり、各所には正式に名前を振っているというのも先生から聞かされる。
 要塞外部の湿地帯はエイトリという名であり、その地にて戦いは始まった。
 先制は要塞から打って出た高順氏たち。
 高順氏が指揮する騎兵達の騎射は面白いように敵へと命中し、射殺していったそうだ。
 あまりの命中精度からそれを要塞壁上で見ていた者達は、エルフの技と見間違えるほどだったという。

 打って出るとは想定していなかったのか、三千からなる蹂躙王ベヘモトの軍は湿地が原因で展開は鈍く、素早く動く騎兵に対し包囲ではなく、拠点からの遠距離攻撃で対応しようとするが、高順氏を先頭に動く騎兵は、一つの生き物のように動き、オーガ、トロールの投石や、矢による射撃を巧みに回避しながら突撃。
 敵騎兵を倒しつつ敵陣に突入すれば、要塞の脅威となる生きた攻城兵器であるオーガやトロールを真っ先に狙い、相対する存在との身長差などお構いなしに自慢の槍で突き殺していったそうだ。
 高速自己回復能力を有する両亜人だが、頭部を的確に突き抜かれての絶命だったという。

 精兵三千が陣取る拠点が食い破られ混乱に陥る。
 なおも苛烈に攻め立てる高順氏と騎馬隊のあまりの強さに恐れ戦き、収拾することも出来ず、混乱から壊走。
 逃げ出す相手に容赦なく追撃をしかけ、次々と敵を討ち取り、侵攻に参加していた蹂躙王ベヘモトの幹部も数人討ち取ったという。
 
 完全に相手が戦意を失ったところで追撃をやめ、五度目の防衛戦は野戦にて勝利したそうだ。

 最終的に蹂躙王ベヘモト軍の損失は七割を超えたという。
 戦利品としてワーグの捕獲にも成功。
 対して高順氏の指揮した騎兵百は負傷者は出たものの死者は無し。
 この完勝はエイトリの奇跡と呼ばれ、話は王都だけでなく近隣の町村にまで広がり、お祭り騒ぎだったという。
 
 またこの完勝がきっかけで、王都には魔王軍と戦って世界を救うという気概ある人々が集まり、もともと増えていた王都の兵数が五千にまでなり。トールハンマーも百五十余名から二千の兵が配備されるまでになったそうだ。
 集まった人々は最初は義勇兵であったが、現在は正規兵として取り立てられているという。

「流石は高順殿。ゴロ太を愛でる人物なだけあって素晴らしき将才」
 話を聞き終わり、感心するベルは鷹揚に頷いて戦いの結果を称賛。
 ゴロ太を愛でる人物なだけあって――って部分はまったく関係ないと思うんだけどね。

 称賛するベルに呼応する王侯貴族の面々。
 何度聞かされても痛快であると嬉々とした表情は、興奮から紅潮に染まっていた。

 だがしかし――――だ。
 確かに高順氏は強いよ。
 でもなんで百という少数の騎兵で死者を出さずに勝てたんだ?
 出なかった事は喜ばしいけども。
 調練を行ったとはいえ、それでも三十倍の相手だぞ。
 熟練の障壁魔法の使い手でもいたのだろうか?
 でも先生の話の中にはそんな内容はなかった。
 ただ敵陣に向かって突撃したという。
 まるでゲーム内のユニークスキル・陥陣え……い。

「……ああ!」

「どうした急に?」
 椅子を蹴倒すような勢いで立ち上がる俺に疑問符のベル。
 なんでもないと伝えて再び座り直す。
 
 ――――なるほどそうか。そういう事か。すっかり忘れていた。
 プレイギアには召喚した人物の武力なんかのステータスだけが表記されていたからそれだけだと思っていたけど、スタータスに表記されていなくても、ベルの炎や、ゲッコーさんが宙空から武器を取り出す能力はゲーム内の技だったり仕様だ。
 言わば固有スキルのようなもの。

【三国志-群雄割拠-】に登場する武将には個々でスキルがある。
 高順氏は関羽や張飛と比べればメジャーではないけども、名のある武将。
 特に高順氏は新作が出るたびにステータスが向上している武将でもある。
 それもあって知名度も上がり、別称でもある陥陣営がユニークスキルになっている人物だ。
 ユニークスキルである【陥陣営】はパッシブスキルで確か――、率いる騎兵の攻撃力と防御力が15パーセントアップするんだったな。
 でもこれは防衛戦や野戦でのこと。

 真の能力は攻城戦の攻め手側だったり、野戦時に敵拠点が存在する時は更に能力付与が発生して、15パーセントから25パーセントにアップする。
 ゲームプレイ中に籠城を選択した時、敵に高順氏がいたことがあって萎えたの思い出した。

 今回、蹂躙王ベヘモトの軍勢は攻城戦をしかけるにあたり、しっかりと拠点を建設しながら侵攻。
 野戦になったものの、少数の高順氏たちに何かあると警戒したことと、素早い動きに翻弄されたことから打って出るということをせず、拠点付近で戦ったのが運の尽きだったわけだ。
 攻撃力、防御力25パーセントアップに加えて、内のギルドメンバーであるドワーフ達が中心となって作ってくれた優秀な装備も加味されて、ギルドメンバーや王都から派遣された兵達の生存率が高くなったわけだ。

 更に高順氏には通常スキルでも【騎兵調練】と【騎兵用兵】がある。
 前者のスキルは短時間の師事であっても騎兵能力を最大値まで上げることが可能だし、後者のスキルは騎兵運用時の移動速度、旋回などの機動性が向上し、混乱した場合の収拾速度も上がる。
 しかも高順氏の騎兵用兵はSランクなんだよな。
 ユニークスキルと凄くかみ合っていて、武将個人としてのステータス以上の力を発揮出来るから、曹操での君主プレイ時、敵としてぶつかった時は本当に嫌だった。

 だからこそ、高順氏を召喚した事は大正解だった。

 スキルのおかげで高順氏が指揮する騎兵は強力な存在になってくれた。
 もっと騎兵戦力を増強できるようになれば、騎兵隊の総指揮を任せよう。
 この世界において最強の騎兵隊が出来上がるだろうな。
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