異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
724 / 1,861
北伐

PHASE-724【一ノ谷やアルプス越えみたいな感じ】

しおりを挟む
 俺とマイヤはビジョンを使用し、目を細めて遠くを見るイメージにて眺める。
 横ではゲッコーさんとS級さん達が双眼鏡を使用。
 ゲッコー殿たちが使用する遠眼鏡はどれほどの物なのかと質問する伯爵に、物は試しとS級さんの一人が手渡し、覗き込めば、目の前に糧秣廠の人間がいる! と驚いていた。
 
 俺たちが伏臥の姿勢でいるこの間。先生とミッターさんが怖いであろう使者の方は、静かに馬車の中で待つ。
 
 ――マイヤが言うように瘴気方向には兵は展開されていないけども、中々の兵が糧秣廠周囲を守っている。
 これに加えてブルホーン山の要塞と麓にも兵を展開しているんだよな。
 ざっと見ただけでも糧秣廠周囲には三、四百ほどの兵を展開している。
 糧秣廠内にもかなりの兵数が待機しているんだろうね。
 まだ大々的に動くわけじゃないのに、あれだけの規模を動員できるのか。
 これが本格的に動くとなれば、要塞と麓から一気に兵がライム渓谷へと向かって動き出すんだろうな。
 何たって四万の軍勢なんだからな。
 現在、糧秣廠に駐留する兵数は千五百ほどの規模だとゲッコーさんは推測。

「うん。兵達だけでなく人足もいるようだ」
 鎧を装備していない、色あせた布の服を着た男達が馬車から荷下ろしをしている。
 麻袋を抱えて内側に運んでいた。
 糧秣廠に馬車を入れて荷下ろしをすればと思ったけど、中から別の馬車が出てきたので、糧秣廠の内側は混雑しているようだ。

「指揮能力はよろしくないようだ」

「なぜです?」
 荷下ろしを見ただけでゲッコーさんがそう評価すれば、ミュラーさんに他のS級さん達も同調していた。
 俺の質問に対する答えは、俺が思っていた感想そのものだった。
 荷下ろしの段取りの悪さが指揮官の采配の無さを物語っている。

「かなり酷使されているようだな」
 人足たちの顔色は悪い。
 栄養も行き届いていないようで、王都の成人男性に比べて肉付きがよくない。

「労力に対して対価は見合っていないようです」

「だね」
 小高い場所にて毎日のようにマイヤは監視をしているそうで、人足たちの事が気がかりなようだ。

「これは糧秣廠を落とすとなれば、すんなりといけそうですな」

「そのようですね。伯爵」
 戦う気満々の大貴族二人は悪そうに口角をつり上げていた。
 戦いとなり糧秣廠を攻め、人足たちに今以上の好待遇を約束すれば、喜んで協力してくれると考えているようだ――――。

「さてどうしましょうか」
 ペチンと頭を叩くのは癖なのかな?
 上げていた口角を定位置に戻し、バリタン伯爵がこれからどうするかを問うてくる。
 話し合いということだからライム渓谷を馬車で抜けてってのが普通なんだろうけども、

「どうせなら相手をおののかせるようなインパクトのある事を実行したいですね」

「何か名案があるようですね。ゲッコー殿」
 伯爵は期待から再び口角を上げる。
 それに応えるようにゲッコーさんは伏臥の姿勢のまま食指を伸ばして動かす。
 この地点から真っ直ぐに糧秣廠へと動いていた。
 瘴気のある地点もお構いなしだった。

「なるほど。こちらは瘴気をものともしないと思わせるのはいいですね。瘴気の中を移動してくるとなれば、心胆は大いに凍えるでしょう」
 と、侯爵はガスマスクを経験しているから飲み込みが早かった。

「長時間の結界維持が可能な魔道師がいるとも思わせることが可能になれば、それだけで相手はこちらを大きな存在だと勝手に思い込んでくれるかもしれませんな」
 バリタン伯爵が続く。
 大きい存在と勝手に思ってくれて、疑心暗鬼に取り憑かれれば尚良しと悪い笑み。

「私も気がかりな事があるので、ご同行してもよろしいでしょうか?」
 やっぱり人足の方々が心配なようだ。

「いいけど、愚息は女好きらしいから途中までね」

「ご心配してくださりありがとうございます」
 マイヤは美人だからね。
 相手が俺が思っている以上のお馬鹿さんなら、美人を目にして話が進まなくなるって事はありえるからな。
 しかも交渉のためにその女を差し出せとか言うこともあり得るからね。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...