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北伐

PHASE-733【無駄の詰まった軍事要塞】

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 左右をコンクリート壁に囲まれた通路を進めば、程なくして鉄扉があり、征北騎士団二名と、赤と白の二色からなるローブを纏った魔術師系二名が鉄扉の前にて番兵として立っている。
 普通は上級兵や近衛が、フルプレートで立っているのが扉の前のイメージ。
 なのに公爵領において最高位の騎士団と魔術師が番兵として配置されている光景は違和感しかない。

「王の名代の方々である」
 団長補佐のミランドがそう言えば、四人は俺たちをじっと見て、使者であるロイドルが鷹揚に頷けば、四人は頭を下げて鉄扉より体をどかしてくれる。
 開かれた鉄扉の先は通路となっていた。
 ここでも壁はコンクリートで出来ており、壁には燭台が等間隔で設置されている。
 光源は蝋燭ではなく、青白く輝くタリスマン。
 外の風景を窺い知ることは今のところ出来ない。
 てっきり防御壁を通れば、建築物やテントが並んだ光景だと思ってたんだけど、防御壁と要塞は一体型となっているようだ。
 頑丈な要塞を建てている。
 コンクリートの材料として使用される火山灰がかなりの量で入手できるようだな。
 ツルツルとした壁に触れれば、ますます欲しくなる素材。
 床も同様だ。

 ――――コンクリート床の上を歩き、横合いの通路をいくつか確認しながら真っ直ぐと進み右へと曲がる。
 直ぐに理解したのは、この通路がお偉いさんがいる部屋に繋がっているということ。
 これまでの床は何も敷かれていなかったが、ここからは違う。
 ドヌクトスの別邸。メイドさん達の私室や休憩室のある地下室の通路のように藁が敷かれていた。
 履き物の汚れをここで落としていくといった感じなのだろう。
 更に進めば藁から紫色の絨毯が敷かれた通路へと変わる。
 ここからの壁は燭台だけでなく、壁をヘコませたニッチ部分もあり、そこには調度品などが飾られていた。
 ニッチ部分の光を灯すタリスマンは青白いものではなく、やわらかな暖色系で照らされている。
 まるで美術館だな。まあ、美術館なんて社会科見学以外では無縁の俺ですけど。

「これは中々にいい物だ」
 と、違いの分かる侯爵はニッチに置かれた調度品を見る度に足を止める。
 ここから先は馬鹿息子が待っている。
 なので、マイヤと――ランシェルはここに残って調度品でも見ていればいいと伝える。
 女好きとなると、面倒も起きそうだから会わせたくないとも口にする。
 ランシェルは見た目が女の子だし。

「心配してくださりありがとうございます」

「やはりトール様はお優しいですね」
 前者は典雅な一礼。
 後者は紅潮させて喜びの笑みを見せる。
 別段、俺の大切な存在を他の男にって感じで言ったわけじゃないからな。後者のランシェルよ。
 俺の女には変な目を向けさせないとかそういったものではないので、そこんとこは勘違いしないでね。

「ですが折角ここまで来たので、会ってみようかと」

「私もマイヤ様と同じです」
 王様の名代である二人の前で、従者に対して下心を丸出しにするなんて事はないと思いたいけども……。
 いかんせん馬鹿で定評のある存在だからな。

「それに何かあればトール様が守ってくださ――」

「うん! ランシェルは強いからね。大丈夫だな」
 照れながら言うんじゃない。俺を姫を守るナイトみたいなポジションにしないように。
 お前は男なんだから。
 なので、俺が発言を遮ったからって頬を膨らませるんじゃない。
 なにが嫌かって、その所作を見て可愛いと思ってしまう俺自身が嫌だ!

「緊張感がないな」

「いやいや、余裕なのはいい事です。英雄故の悩みでもありますな」
 俺がランシェルに翻弄されているところをゲッコーさんが悪い笑みと共にツッコミを入れてきて、カラカラと笑う伯爵がそこに参加。
 侯爵は知っているけども、伯爵はランシェルが男って知らないんだな。
 まじで勘弁して……。

「しかしよくもこれだけの希少な調度品を集めたものだ」
 禿頭をさすりつつ侯爵同様にニッチに置かれた品々を眺め、感嘆というより、呆れた声を漏らすバリタン伯爵。
 理由は分かる。
 なぜにこの様な要塞に置かないといけないのだろう。
 軍事的観点から見ても意味がないし、貴重な品となれば、ここが攻め込まれたとき持ち出さないといけない。
 それだけでも撤収に時間を要するだろう。

「これらを置かせたのは?」
 聞かなくても分かるけども、一応ミランドに聞いてみれば、苦笑いと共に馬鹿息子の名前が出てきた。
 想像通りの返答に、この場にいる全員が鼻で笑う。
 
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