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北伐
PHASE-734【誰だって誇張はしたいもの】
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扉付近のニッチには人間サイズの彫像。
「おお……これは」
嘆息まじりの伯爵。その横では侯爵がやれやれとばかりに肩を竦ませる。
彫像のモデルは男。
上半身は裸だ。
鍛え抜かれた筋肉。ナイスカットなシックスパック。
大剣を地に刺して立っている、威風堂々たるデザインからなるスタチューだ。
「まったくもって――」
「素晴らしいであろう」
と、ここでタイミングを見計らったように扉が開かれる。
開かれた位置に立つ者が自信に満ちた声音でこちらへと語りかけてくる。
途端に伯爵の禿頭に血管が浮き出る。
生き物が蠢いているのかとばかりに血管が激しく脈打つ。切れると大変だからリラックスしてもらいたいところ。
お怒りの具合からして、目の前にいるのが愚息ってことなんだろうが、伯爵が邪魔でその愚息をしっかりと見る事が出来ない。
武闘派なだけあって偉丈夫だからな。
ひょいと横から顔を出して窺えば――、
「……随分と誇張されているな」
「ですね……」
横に立つランシェルも同じ感想だったようだ。
彫像のように隆起した腕とは違い、服の上からでも分かるくらいに細い。
美丈夫と呼ぶにはほど遠い存在。
身長だって俺と変わらないくらいだ。
別人かとも思ったけど、顔の部分は似ている。
といっても何となくだけど。
彫像の方は凜々しく目元もしっかりとしている。
実物は垂れ目の緩んだ笑み。
あれでは彫像が手にするような大剣を振ることは出来ないだろうね。
「驚くほど似ているであろう」
俺が見比べていれば問うてくる。
――…………鏡のない生活なのかな? が、問いに対して真っ先に浮かんだ感想。
似ているところを探せと言うのならば、整った顎髭くらいだろうね。
「折角、彫像と本人を一緒に見ているのだ。少しは職人の腕前を褒める内容を口に出してはどうだ? ここまでの彫像を製作する者は稀だぞ」
「ああ、確かに素晴らしいな。大したものだ。これほどに美化された物を作り出すのも至難の業だろうからな」
「まあな。元になった素材がいいからな」
うん、伯爵の発言をちゃんと聞いてた?
「はっ。おもしろいことを言う」
「そうか? 信実を口にしているだけだ」
愚息の発言から鈍感な男だというのが分かる。
伯爵が嫌味を吐き出すもまったく通用していないからと、嘆息を漏らすほどに。
彫像は上半身裸だけど、目の前の愚息の服装はプールポワンなのだが……、昭和のスターばりに派手なスパンコールのような作り。
白銀にキラキラと光る服はまあ目立つ。
狙ってくださいと言わんばかりの服装。
垂れ目の半眼は眠たそうなイメージ。
茶髪の横わけは清潔感があり、唯一、褒められる部分かもしれない。
総合で評すれば、残念なルックスである。
そんな残念ルックスがメイド服のランシェルと目が合えば――、
「ふふん」
「う……」
自分ではイケメンスマイルだと思っているようだけど、ランシェルはまったくもって受け入れなかったようだ。
まあ、男が男に流し目なんかしてもね。
マイヤの方も見てみると、引きつった笑みになっていた。
イケメンスマイルで女の心を射止めることが出来るのは、うちの先生くらいのもんだろうさ。
「こちらは会談に来たのだ。女人たちを眺めてないで話し合おうではないか」
「おお怖い」
伯爵に睨まれているようだが、絶対的な自信家でもあるのか、まったく恐怖を感じていないようだ。
戦いを経験すれば、伯爵から出ている闘気を肌で感じ取れてもいいんだけども、それを感じ取れていないご様子。
自信家というよりは、やはり鈍感と見るべきだな。
「では案内してやろう」
傲慢な態度を崩すことがない愚息が背を向ければ、伯爵は勢いのままに腰に下げたオリハルコン製の鉄鞭を思いっきり後頭部に見舞いそうな気配がビンビンと伝わってくる。
横に立つ侯爵が肩に手を当てていないと、本当にやりかねない。
大した名代だよ……。
「おお……これは」
嘆息まじりの伯爵。その横では侯爵がやれやれとばかりに肩を竦ませる。
彫像のモデルは男。
上半身は裸だ。
鍛え抜かれた筋肉。ナイスカットなシックスパック。
大剣を地に刺して立っている、威風堂々たるデザインからなるスタチューだ。
「まったくもって――」
「素晴らしいであろう」
と、ここでタイミングを見計らったように扉が開かれる。
開かれた位置に立つ者が自信に満ちた声音でこちらへと語りかけてくる。
途端に伯爵の禿頭に血管が浮き出る。
生き物が蠢いているのかとばかりに血管が激しく脈打つ。切れると大変だからリラックスしてもらいたいところ。
お怒りの具合からして、目の前にいるのが愚息ってことなんだろうが、伯爵が邪魔でその愚息をしっかりと見る事が出来ない。
武闘派なだけあって偉丈夫だからな。
ひょいと横から顔を出して窺えば――、
「……随分と誇張されているな」
「ですね……」
横に立つランシェルも同じ感想だったようだ。
彫像のように隆起した腕とは違い、服の上からでも分かるくらいに細い。
美丈夫と呼ぶにはほど遠い存在。
身長だって俺と変わらないくらいだ。
別人かとも思ったけど、顔の部分は似ている。
といっても何となくだけど。
彫像の方は凜々しく目元もしっかりとしている。
実物は垂れ目の緩んだ笑み。
あれでは彫像が手にするような大剣を振ることは出来ないだろうね。
「驚くほど似ているであろう」
俺が見比べていれば問うてくる。
――…………鏡のない生活なのかな? が、問いに対して真っ先に浮かんだ感想。
似ているところを探せと言うのならば、整った顎髭くらいだろうね。
「折角、彫像と本人を一緒に見ているのだ。少しは職人の腕前を褒める内容を口に出してはどうだ? ここまでの彫像を製作する者は稀だぞ」
「ああ、確かに素晴らしいな。大したものだ。これほどに美化された物を作り出すのも至難の業だろうからな」
「まあな。元になった素材がいいからな」
うん、伯爵の発言をちゃんと聞いてた?
「はっ。おもしろいことを言う」
「そうか? 信実を口にしているだけだ」
愚息の発言から鈍感な男だというのが分かる。
伯爵が嫌味を吐き出すもまったく通用していないからと、嘆息を漏らすほどに。
彫像は上半身裸だけど、目の前の愚息の服装はプールポワンなのだが……、昭和のスターばりに派手なスパンコールのような作り。
白銀にキラキラと光る服はまあ目立つ。
狙ってくださいと言わんばかりの服装。
垂れ目の半眼は眠たそうなイメージ。
茶髪の横わけは清潔感があり、唯一、褒められる部分かもしれない。
総合で評すれば、残念なルックスである。
そんな残念ルックスがメイド服のランシェルと目が合えば――、
「ふふん」
「う……」
自分ではイケメンスマイルだと思っているようだけど、ランシェルはまったくもって受け入れなかったようだ。
まあ、男が男に流し目なんかしてもね。
マイヤの方も見てみると、引きつった笑みになっていた。
イケメンスマイルで女の心を射止めることが出来るのは、うちの先生くらいのもんだろうさ。
「こちらは会談に来たのだ。女人たちを眺めてないで話し合おうではないか」
「おお怖い」
伯爵に睨まれているようだが、絶対的な自信家でもあるのか、まったく恐怖を感じていないようだ。
戦いを経験すれば、伯爵から出ている闘気を肌で感じ取れてもいいんだけども、それを感じ取れていないご様子。
自信家というよりは、やはり鈍感と見るべきだな。
「では案内してやろう」
傲慢な態度を崩すことがない愚息が背を向ければ、伯爵は勢いのままに腰に下げたオリハルコン製の鉄鞭を思いっきり後頭部に見舞いそうな気配がビンビンと伝わってくる。
横に立つ侯爵が肩に手を当てていないと、本当にやりかねない。
大した名代だよ……。
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