異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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北伐

PHASE-747【無能が統括すると最悪】

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「勇者殿! ご慈悲を!」
 ミランドからの懇願。
 どうにかしてこの場をおさめて俺たちをここより帰すと言えば、それに連動するように鉄扉を守っていた征北騎士団二名と魔術師二名も前に出てくれる。
 
「この方々は会談で来られた王の名代である。手出しはならん」
 間に立つ五人を目にすれば、壁上の兵達には躊躇が生まれるも、

「どけ! ここは我らが管轄よ!」

「傭兵が出しゃばるな!」

「傭兵だろうともカリオネル様は我々に重きを置いているんだよ! 形式張った堅苦しい連中など邪魔なんだよ」

「黙れ! さあ、勇者殿」
 俺たちを守るようにミランド達がズンズンと前に出る。
 それを止めようとする傭兵団と、どうするべきか壁上では隣通しで顔を見合わせる兵達。

「通すな!」

「押し通る!」
 裂帛のミランドが剣を構える傭兵の一人を強引に横へとどかせば、残りの四人も同様に押していく。
 魔術師の二人も傭兵に押し巻けない膂力を持っているから、接近戦であっても傭兵よりも実力があるようだ。
 やはりこの魔術師二人も征北に在籍しているんだろうね。

「この野郎!」
 押された男がミランドに襲いかかろうとするも、そこは別の傭兵が止めていた。
 流石にここで団長補佐の一人と刃傷沙汰となれば、麓にいる征北騎士団が報復に出る可能性があると言って動きを制していた。

「さあどけ!」
 傭兵たちが強く出ることが出来ないと把握したミランドがもう一段階、声に凄みをつけると自然と道が出来上がっていく。

「やるね」

「ここで大事になれば大きな流血に繋がります。まあ既に手遅れなのでしょうが……」

「それは避けたいんだね」

「我々の驚異は魔大陸から来る者達ですから」
 上が馬鹿でもちゃんと今後の事を理解している者達だってこうやっているんだもんな。
 上がちゃんとしてれば、最高のパフォーマンスを発揮出来る騎士団なんだろう。
 現状ではそれが叶わないというのが悲しいよね。

「と」
 道が出来ても油断は出来ない。
 コンクリートで出来た壁の狭間から矢が放たれる。
 ストレンクスンによってしっかりと見えていた。
 狙われたのは俺。

「な!?」
 しっかりと矢をキャッチすれば、驚きの声が狭間から聞こえてくる。
 自分でもいつの間にかこういった芸当が出来るようになっているのに驚くけどね。
 まあ、強弓でもなければ、達人の弓術でもない、一般的な実力の者が放つ程度なら俺でもこのくらいは容易くなったということだな。

「お怪我は」

「大丈夫」
 ミランドは俺を心配した後に狭間の方を睨む。

「無駄な事だぞ! 怒りを買えばこの壁など容易く破壊されるぞ。見ていなかったのか、先ほどの奇跡を」

「いっその事もう一度、見せてはいかがです?」
 焦燥のミランドに続くのは、酷薄な声音の侯爵。
 大皿の鶏肉は既に無い。こんな状況でも平然と食べ尽くすことの出来る胆力は凄い。
 美味を堪能した者の声とは思えない冷ややかさが壁向こうにも届いたのか、小さな悲鳴が聞こえてきた。
 狭間から見えるのは傭兵たちと同じ装備。

 兵士たちはちゃんと統制が取れているようだけど、傭兵たちは分をわきまえていないな。
 ラノベとかだと有能なのが多かったりする傭兵だけど、ここのは質は悪いようだ。
 あの馬鹿息子が取り巻きにするくらいだからな。その時点でたかが知れている。

「これ以上、俺を怒らせないでくれよ。俺たちは帰るだけだ。会談はまともに進むこともなかったという内容と共にな」

「本当に残念です」

「相手が話を聞いてくれないし、そもそも会話になっていないからね」
 ネット上にもいるけど、口論で押され始めると、論点ずらしてキレて誤魔化すようなヤツがいる。
 あの馬鹿息子は典型的なそのタイプなんだよな。
 
 自信家で言っている事を曲げないというか、間違っていないと思い込んでいる。
 そのくせヘタレなんだよな。
 で、具体案は出せないけど自分の言っている事は間違ってないと思っているから、相手の発言には聞く耳を持たず、薄っぺらい主義主張を述べるだけ。
 ネット上ならまだいい。大抵はお互いが熱くなって終わるだけだから。
 だが馬鹿息子は権力者……。
 しかも駄目な権力者……。
 歯止めがきかない権力者……。
 あれは誰の手にも負えないよ…………。
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