異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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北伐

PHASE-753【宗教できそう】

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 ゲッコーさんの有りがたいお言葉を受け、覚悟と決意。決断をもって目の前の驚異に挑もう。

「今回不参加のパーティーメンバーの覚悟はどうなのかも聞きたいところだけども。明日にでも聞いてみるか」
 軍議室にはコクリコとシャルナは不参加だった。

 ――――王城から帰る途上はなんとも静かなものだ。
 先生は相変わらず王様達との話し合い。ベルとゲッコーさんは各自の持ち場に戻るということで、一人での帰宅の途だ。
 大通りなのに人通りも少なく、夕陽で伸びる影法師が俺のお供って感じだった。
 藍色に染まり始める空の下。
 覚悟はしても心は空のように薄暗い。が――、それはいい事だと思う。
 晴々とした気持ちで相手に刀なんて振るえない。
 俺は狂ったパニッシャーでもサイコパスでもないからな。
 鬱屈と覚悟を両方住まわせて戦うからこそ、自我を保てるんだろう。
 

 ――――眠れないかと思ったけども、なんだかんだでこの世界になれているのか、しっかりと眠ることが出来た。
 朝になっても外は静かだ。
 バルコニーから見える光景は人通りが少ないもの。
 普段なら、白む空の下をギルドメンバーや野良の冒険者なんかがギルドハウス、馬小屋、宿屋などから出てきてクエストに出かけるんだけど、それがない。
 民家の煙突から上る煙も少ないものだ。

「北門側がその分、賑やかなんだろうな」
 人通りが少ない分。スケルトン達は活発に働いてくれる。
 俺たちが数日離れていただけなのに、西門城壁は強固なものに改修されていた。

 ――。

「よう」

「ああ、おはようございます」
 一階には優しくて芳ばしい香りが充満している。
 新米のギルドメンバーや装備がまだまだな野良の面子が俺に挨拶を返した人物を眺めていた。

「美味そうだな」

「全くもって大したものですよリンは。流石は私の好敵手。まあ、私が勝ってますけど」
 一回勝負しただけだし、オムニガルを倒した事=リンも倒した事になってんだな。
 まあいいけど。

「パンだな」
 ほかほか出来たてのこんがり焼かれたパンだ。
 こんなのが王都で出て来るのは中々ない。
 しかもライ麦の黒パンじゃなくて小麦の白いトースト。
 日本でよく目にするほうのやつ。
 分厚いトーストにとろとろ半熟の目玉と厚切りベーコンが乗っかっていて、ナイフとフォークでコクリコは食べてる。

「反則だな」
 黄身の部分にナイフを入れれば、ソース代わりとばかりに黄身がベーコンの脂と一緒になってこんがりトーストに侵食していく。
 俺だけでなく新米さん達も口を開いていた。
 美少女に相応しくない大口で、大きく切り取ったトーストをバクリと一口で頬ばり、咀嚼――からの嚥下。

「ん~♪ 最高です!」

「本当に反則だな。俺にも!」
 近くにいたコボルトに頼めば直ぐさま厨房に入ってくれる。

「どうしたんだよこのパン」
 嚥下からのミルクを飲むという相性抜群の朝食をとるコクリコは、

「先ほども言ったではないですか。リンですよ」
 ――!

「ああ! なに。大魔法を田園に使用してくれたのか」

「ええ。トール達が北へと行っている間に」

「そうなのか」
 見たかったな~。
 大魔法で麦畑をあっという間に発芽させ、発芽が見る見ると成長し、黄金色の風景へと変わったそうだ。
 収穫も上々。
 王都に上質な小麦が出回ったことで贅沢な白いパンを堪能できる。
 若干だけど値が張るのがネックなんだそうだが、今までと比べて破格で手に入れられるようになったという。

 現状、旅商人たちが訪れることが出来ないから、このサプライズな収穫には多くの人々が喜び、リンに感謝したそうだ。
 
 王様がリンの事を王都中に広めてしまったこともあって、王都の創設者の一人にして、大英雄であるリンを人々は神を見るかのようにして祈りまで捧げたそうだ。
 ――……リンの困惑する表情が容易に想像できる。それを語るコクリコは若干、嫉妬が入った口調だったけど。
 英雄として捏造自伝を出したいからな。妬む気持ちもわからんではない。
 
 にしてもアンデッドに祈りを捧げるか――。リンを神格化させて新興宗教なんか出来たりしてな。

 そういえばストレイマーターが首からぶら下げていた物や、地下施設の礼拝堂には逆五芒星があったな。
 リンの悪のりのデザインなんだろうが、あれを首からぶら下げてリンを祈るなんて事になると、サタニズムな悪魔崇拝のような光景が王都に誕生することになるだろうな。
 まあ悪魔っていうか、ネクロマンサーでアンデッドのアルトラリッチだけど。
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