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北伐

PHASE-759【号して】

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「さて、使者殿の再就職先も決まった事であるし、各々も整えておいてくれ」

「「「「はっ!」」」」
 王様が玉座より立って号令すれば、家臣団が大音声にて短い返答。
 いよいよ軍を動かすその時が来たわけだ。

「あれ? そう言えば高順氏は?」

「しばらくすれば到着するでしょう」
 俺たちがブルホーン山から帰ってくることと、北伐の出陣に対して準備をする日程を逆算して、本日、高順氏が王都に単身でやって来てくれるそうだ。
 こうなるとトールハンマーは、二千の王兵と残ったギルドメンバーでの守りだけとなるから不安も残る。
 でも心配ご無用と先生。
 流石に魔王軍も何度も打ち負かされているから最近は動きも消極的
 加えてギルドからも将としての才能を持つ者を見出して在駐させているという。
 
 高順氏のスキルである陥陣営はなくとも、騎兵調練などで鍛えられた者達の実力が低下するって事はないから、高順氏がいなくても、同数程度なら要塞から打って出ても圧倒できるだろうし、要塞の堅牢さに頼るのもいい。
 俺たちが北へと行っている間にもし何か起こっても、対応は十分に出来るだけの力はあるようだ。

「しかし、今になってカリオネルという御仁が野心に目覚めたのには、何かしらの力を得たからと見るべきか――」
 元々、覇権を狙ってもいたようだけど、こんなにも大胆に行動を起こすとなると、何からの必勝の策があるのだと考えるベル。
 ゴロ太の件もあったけど、今は落ち着いている。

「確かにね」
 俺が返せば、王様達も皆して一様に頷く。

「ロイドルはなんか知らないの?」

「カリオネル様の使者として領地を東奔西走しておりまして、常にお側にいたわけではないのですが――」

「訳知り顔だね」

「ええ、はい」
 馬鹿息子の無理難題をミルド領の貴族や豪族たちに指示を出す為に奔走している中で、中心都市ラングリスから北西に位置する魔術学都市であるネポリスより巨大な箱がいくつもラングリスに送られてきたそうだ。
 間接的に聞いた話という事もあり、数はしっかりとは把握していなかったそうだけど、五箱前後が馬鹿息子の私邸に運ばれたという。
 巨大というだけあって、頑丈な木箱はちょっとした小屋ほどあったそうで、鎖でグルグル巻きにされていたそうだ。

「……十中八九、猛獣の類いが入っていそうだな」

「それは分かりかねますが、それ以降、カリオネル様は強気になられたように思われます」

「むふむふ。となると、その箱の中身が彼にとっての必勝の秘策だということでしょうね」
 俺たちの間に入ってくる先生。

「その辺の情報は入っていないんですか?」

「現状の実力では残念ながら。S級の方から一人でもお借りできれば直ぐに解決もするでしょうが」

「なるほど」
 馬鹿息子が嫡男になった経緯を知っているのは、しっかりと中枢に間者を送り込んでいることに成功しているからって事が、今の会話から窺い知れたよ。
 俺の知らない間に先生がドンドンと情報網を広げていっているよ。
 怖いよ王佐の才……。

「ですがその問題も解決しますので調べは不要でしょう」

「というと、既に間者が?」

「いえ、どうせこれから見る事になりますから」

「なるほど……」
 出陣は明日の朝と決まる。
 馬鹿息子率いるのは四万を超える軍。
 対してこちらの兵数は王兵五千の内、二千。その内の半分は既に先遣隊としてライム渓谷の砦で守備に当たってくれている。
 二千はトールハンマー。千は王都の守備。

 そして俺たちが北から帰ってきた時には既に合流していた征東騎士団を中心とした侯爵の兵が五千。
 伯爵と合流して参加してくれた貴族豪族の兵に、北門と木壁の間でテントを張っていた貴族豪族の兵を合わせて四千。
 合計で一万千程。
 ここに途中で合流すると考えられる者達を含めれば、一万三千に届けばいいくらいだという。
 先生は号して一万五千と兵数を誤魔化すけど、少しでも多く見せるのも大事だからな。
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