異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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北伐

PHASE-782【いや、来ないんかい!】

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「それでトール」
 おっと、急に声のトーンが真剣になったな。
 普段から真剣だけども、今のは声音が鋭い。

「離れていたとはいえ、人の死に直面したが――問題ないか?」
 声音に緊張したけど、心配してくれる優しさだった。とても嬉しいよ。

「離れていたからかな。そこまでこみ上げてくるものはなかったんだよな。戦場に慣れてきてんだろうな。滅入るってのはそこまで感じなかった。気分はよくないけど」

「そうか」

「ベルは?」

「まあ、トールと似たようなものだ。平気とは言えない」
 だよな~。
 S級さん達に撃ち抜かれた面々はそのS級さん達がしっかりと埋葬してくれた。
 俺はただいつものように拝むだけだった。
 本当なら埋葬にも参加して、拝むのが正しいんだろうけどな。

「結局はヘタレなんだよな」

「分かっているだけいい。戦いでは臆病な心も必要だ」

「……それに、さ。S級さんの狙撃に対して……お見事って口に出したんだよな……。それによって確実に命が失われたのに、お見事って発言はどうよ……」
 つい吐露してしまう。
 見事に撃ち抜いた技量に感嘆して、死を後回しにした自分が嫌になったんだよな……。

「それも分かっているなら問題ない。自分の考えに対して振り返ることが出来る事はそれだけで美点だ。それが躊躇に繋がり、自分や周囲に被害が出れば汚点にもつながるが、反面、虐殺などの非道の闇に堕ちることがない。その美点は忘れずにいろ」

「お、おお」
 まさかのお褒めの言葉。
 軟弱とかって発言はなく、美点とまで言ってくれる。
 本当に俺の周囲は、俺が本気でヘコんでいる時に救いの言葉をくれる。

「それに臆病なこと、振り返ることを戦場で思案できるのは大事な事だ。引き際をわきまえるからな。とくに軍を預かる者には必要でもあるものなのだぞ」

「無駄死にさせずに撤退し、再起を図るためって事だな」

「そうだ。だが、相対する首魁はそれが分かっていないのだろうな」

「だろうな」
 きっと次から次へと馬鹿みたいに攻撃を仕掛けてくるかもしれないけども、今晩くらいは静かに過ごさせほしいね。
 心の整理もしないといけないし、それに今後は人間の死に直面することにもなるんだろうし。
 だからこそ、今のこの時間を堪能させてもらいたい。
 ベルと二人っきりになるのは中々にないからな。
 
 これが恋人同士ってなると、言葉だけでなく、寄り添って優しい言葉とかかけてくれるんだろうな。
 恋人がいたことがなから分かりませんけども。
 でも、今の俺にとって凄く幸せな時間だ。
 贅沢を言うなら、軍人としてのベルと会話するんじゃなくて、乙女モードのベルと話したいけどな。

「どうやら荀彧殿たちが、何かを始めたようだな」
 寒さからたき火に避難したと思ったら既に別の行動。
 モスグリーンのテントを建てて、M1130ストライカーと、埋葬作業の最中に頼まれて召喚したアンテナなんかの機材をつなぎ合わせながら、S級さん達と談笑している。
 さながら野戦基地だ。まあ、この拠点も野戦基地みたいなもんだけど。
 この廠は先ほどまでと違って、ハイテクを拠点内に内包した状態になった。

 中世レベルの木壁に囲まれた中で、アンテナとストライカーとテントにいくつもの配線が繋がれた光景はアンバランスだ。
 談笑しているけども、現在この戦いにおける中心地はこの糧秣廠。
 そんな所にいるのが嘘のように楽しげだ。
 強者たちだからこそ、緊張と弛緩のコントロールを可能としているんだろう。

 夜闇に乗じてってことはしないでくれよな。馬鹿息子。
 こっちは闇夜を見通すピリアもあれば、メイドさん達は夜目が利く。加えて暗視ゴーグルオーバーテクノロジーもあるんだからさ。
 しかもそのオーバーテクノロジーを装備するのが隠密にすぐれた面子ばかり。
 暗殺技術にも特化した集団がいる状況下で暗殺なんて意味がないからな。
 なのでゆっくりと今晩は休ませてくれ。


 ――…………本当に休ませてくれるなんてな……。
 いや~馬鹿息子。なんの余裕だ?
 本当だったら大勢で攻めてくるだろうに……。まさかの来ないとは……。
 やはり馬鹿は俺の想像の斜め上を行く。
 もしかして夜は寝るものだと考えるタイプなのだろうか?
 むしろあまりに何もないから、かえってそれが不安になって、こっちは殆ど寝ることが出来なかったぞ……。
 
 木造平屋から出て背を伸ばす。
 朝霧の中で空を見上げれば、うっすらとオレンジ色が混ざった空色。

「こりゃ今日も快晴か」
 寒地とはいえ、日が照れば活動もしやすいだろう。
 ――――あれか? 寒いから夜は外に出ないって考えなのか? だから暖かい時間帯にだけ動くつもりか馬鹿息子。
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