異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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北伐

PHASE-781【不満が出なければよし】

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「ランシェルいるか」

「ここに」
 おう、メイドっていうか忍者だな。
 俺の後ろに音も無く着地するところが格好いい。

「相手側の負傷者は?」

「既に治療は済んでおります」

「それはなにより。協力的だから一定の自由も許してはいるけど、変な気を起こさないように注意はしといてくれ」

「その辺りは抜かりないかと」
 微笑む口元から八重歯をのぞかせる。
 あどけなさの中に婀娜っぽさが含まれた笑み。
 ――……これが女の子なら最高に可愛いんだけども……。男だからね。
 その笑みから理解するのは、サキュバスの能力であるチャームがしっかりと効果を出しているってことだろう。

「現状は仕方ないとしても、洗脳的なのは俺は許可しないからな」

「分かっています。自分たちから協力する程度にしておきます」
 裏を返せば、本気を出せば洗脳に近いくらいのチャームを使用する事が出来るってわけね。
 怖いね~。

「ならいいけど。色欲に負けて襲いかかってきたら――」

「全力でねじ伏せるだけの力を皆様お持ちですから大丈夫です。それに、私の心と体はトール様だけの――――」

「よぉぉし! 頼んだぞ」
 大勢の前で恐ろしい発言をしようとするんじゃないよ。
 無理矢理に遮ったけども、殆どを口にしてたな……。
 でもって、ヒュ~♪ とか口笛をするバラクラバの面子の茶々の入れ方は悪意があるぞ。
 ゲッコーさんが一目で分かっていた時点で、同じようなステータスを持った面々ならランシェルが男だって分かっているくせに。
 まったく!



「ふぅぅぅ~寒いですな」
 北の地ですからね。夜になると気温も更に下がって、外にいれば寒いことでしょう。
 白息を漏らしながら先生が両腕を擦る。
 火龍装備になってからは寒さは無縁になっているから辛さが分からない。

「これはたまりません!」
 流石の王佐の才も寒さは無理とばかり、壁上から飛び降りる勢いでたき火の方へと走り出す。
 そこではS級さん達が暖かいものを口に運んでリラックスしている。
 メイドさん達のお願いによって頑張る人足や兵たちも、見るからに熱々の麦粥を口に運んで幸せそうな顔をしている。

 ここを初めて訪れた時は格差があったけども、現在、一応は囚われの身だからか、たき火を中心として車座になって、同じ食事を楽しんでいた。
 中心となっているたき火の側では、誰よりも大きな木皿でコクリコが食べている。
 自分の名声を高めたいのか、普段から買い溜めしている干し肉を粥の中に大量にぶち込んで振る舞っていた。
 投降した者達からは大層に喜ばれており、感謝の台詞にご満悦。

 チコはおねむなのか、デカい体をヒッポグリフとスピットワイバーンと寄せ合ってうつらうつらとしている。
 デカいのが三頭もくっつけば大きさは家だな。
 見てれば俺も眠くなってくる。
 リラックスしているS級さんとは別の面々が周辺を警戒してくれているし、会頭として休息をとるようにも言われているから、お言葉に甘えて少し寝かせてもらおうかな。

「リンがいた山を思い出すな」
 などと考えていれば、ベルから話しかけられる。

「ん? 寒さって事?」

「それもあるが、星空が見事なことだ」
 見上げるベルの視線を追う。

「――――確かに」
 あそこも寒地だったからな。
 寒くて空気が澄んだ夜空の主役は、大きな月と満天の星空。
 宝石をちりばめたような――って、砂金をまいたようなって表現を以前したな。
 あんまり変わらない表現だな。
 表現のボキャブラリーが欲しいところ。

「まるで宝石をちりばめたようだ」

「お、おう……」

「どうした?」
 うん。まさかベルの表現が俺の思っていたのと同じだったとはね。
 これなら先に口に出して、私もそう思っていた。って、親近感による好感度アップが狙えたかもしれないな。

「ほら」

「ありがと」
 こうやって寒空の下で、ベルからお茶を貰える喜び。
 飲めば胃の腑に温かさが広がる。
 これなら火龍装備をとって飲んだ方がよかったな。
 冷気を感じる事で、この温かさを更に堪能できたことだろう。
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