異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
790 / 1,861
北伐

PHASE-790【呆れさせるとか凄いですね……】

しおりを挟む
「この勢いなら王土と公爵領の境となるアルサティア川まで懸命になって走り続けることでしょう」
 発する先生は次なる一手を考えるかのように、頤に手を添える。
 疲れを知らないスケルトンライダーと、伯爵の気迫が乗り移ったかのようにペースの落ちない馬はまるで牧羊犬だ。公爵兵たちを北へ北へと追い込んでいく。

 ドローンがそれを追跡し、上空からそれを捉えてくれる。
 川幅は約三百メートルほど。
 水深は浅く、あっても膝くらいまでというのは以前にこの目で確認した。

 公爵軍の先頭がいよいよそのアルサティア川へと差し掛かろうとする。
 兵士たちが目指すのは――ロマゲン橋。
 橋桁は低く、経年劣化が進んだ木造の橋だ。
 といっても万を超える兵達が橋を一気に通れるわけがない。
 兵達の重さで橋だって崩れ落ちるかもしれない。
 懸命に逃げる兵達の取った行動は、先頭は橋を走り出し、続く者達は川へと足をつけていく。
 冬が到来するこの時期。しかも北国。
 雪化粧からなるブルホーン山から流れる川の水は、兵士たちの足を途端に鈍らせる。

「ふむふむ」
 ドローンの映像を見る先生は頷き、マイクを手に取る。

「こちらHQ。スチュワート殿」

『何でしょう?』

「王軍とは合流していますね。オーバー」
 ――言われるように合流したとのことで、スチュワートさん達は現在、王軍の中軍にいるそうだ。
 王様と直接に話せる状況だと先生が知れば、即、追撃を止めるように指示を出す。
 なんで? なんて返事はない。
 王様自身も先生のことを信頼しているということもあり即断即決。
 下の者達の声をしっかりと聞き入れることが出来、且つ信頼の置ける人物となれば決定も早い。
 名君のソレだ。
 直ぐさま鏑矢が二本、中軍から上がる。
 俺たちのところまで甲高い音が聞こえているくらいだから、前線にもしっかりと届いているだろう。
 続くように前線部分からも鏑矢が二本上がる。
 上げるのは移動速度を落とした高順氏が指揮する征東騎士団のところから。
 これで最前線にも届いたことだろう。
 鏑矢二本は攻撃中止の合図だということなのだ、が……、

「やれやれ……」
 先生が頤から額に手を移動させ、気怠そうに頭を左右に振るという動作。

「別称に狂乱を冠するのがよく分かりますね」
 呆れる先生に続く。
 戦場に出れば熱くなって敵しか見えなくなるタイプだな。
 だから敵陣で孤立するんだろう。
 蛮勇だな。マグナートクラスの戦い方としては失格だ。
 有りがたいのは周囲のスケルトンライダーの存在もあって、相手が迎撃態勢に移行しないことだ。

「ですがよろしくない。背水の陣はいただけない」
 目の前が冷たい川。渡る間に攻撃されるなら反撃に出て活路を開こうという思考に切り替わる。
 そうなると意地でも助かりたいという強い思いが芽生え、死兵にも似た力を発揮される。
 発揮した力にてこちらが押し返される可能性がある。それは嫌だと先生。

「こちらトール。側にリンがいるなら、スケルトン達に伯爵を止めるように指示して下さい――ええっと、オーバー」

『了解。アウト』
 短い返事の後、直ぐさまスケルトンライダー達の機動が変わる。
 敵を追うのではなく、伯爵を取り囲むようにして動きを鈍らせ、ついには拘束。

『ええい! 放さぬか! いくらリン様の手の者であろうとも――』
 ジタバタと馬上で暴れるけど、数体のスケルトンライダー達によって無理矢理に後退させられる。
 心なしか、ドローンで捉えたスケルトンライダー達が肩を竦めていたようにも見えた。
 表情は骸骨だから分からないけど、もしかして……、呆れてたのかな?
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...