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北伐
PHASE-791【攻めは見極めが大事】
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さて――、血の気の多い伯爵は後退したということで、
「このまま撤退させるって事ですよね? 相手もここまで手ひどくやられたから、傭兵団はともかくとしても、兵士たちには厭戦ムードが広がることでしょうね」
先生が狙っているのは相手の士気を大きく低下させるって事なんだろう。
俺の推測はこの状況下だとまず間違いなく最適解。先生も笑みを向けて首を縦に振ってくれると思っていたんだけども――、
「主。それは違います」
「ん?」
「それでもよいでしょうが、この好機にわざわざ敵兵を全て逃すのは愚です。泓水の戦いとは些か違いますが、これを見過ごせば宋の襄公の覆轍を踏むことになります」
「宋襄の仁ってやつかな」
「さようです」
ここでゲッコーさんが、疑問符を浮かべる俺の代わりに答えてくれる。
なんのこっちゃ分からんが、先生がこのまま公爵軍を素直に逃がすということはしないというのはよく分かった。
「孫子の行軍篇にある、水を絶てば必ず水に遠ざかり、客、水を絶ちて来たらば、これを水の内に迎うる勿く、半ば済らしめてこれを撃つは利なり。といやつだな」
「その通りですゲッコー殿」
二人で納得しないでくれるかな。
「とりあえず日本語でお願いします」
「日本語「です」「だぞ」」
と、言葉尻だけは違う二人の発言……。
――――渡河から展開する戦いの時は、必ず川から遠ざかること。留まれば背に川を向けた逃げ道のない状況に陥るから。
敵が渡河し、攻撃を仕掛けてくる時は川中で迎え撃ってはいけない。
川を半ば渡りきったところで攻撃するのが有利なのだそうだ。
いまだ川を移動している時に攻撃を実行すれば、反転して逃げる可能性もある。
敵が半分ほど渡り終えてから攻撃するのがいいという。そうすれば渡河をする軍の内の半分を相手にすればいいだけだし、半分を倒すことで相手は半分の兵を失うという大きな損害が生まれる。
「今回はこの逆ですね。相手は攻めるのではなく逃げていますので。ですがやることは一緒です」
場が凍りつくような酷薄な声。
俺の側に立っているベルですら姿勢を正すほどだ。
時折覗かせる軍略家としての冷徹さには、如何に最強の存在であるベルでも呑まれそうになる時がある。
「少しの間、待ちましょう」
マイクを片手にモニターに目を向ける先生に合わせるように俺たちも凝視する。
コクリコも普段なら強気の攻めという展開だから、自分も馳せ参じると高揚するだろうけど、先生の発する氷のような気配をしっかりと感知しているようで、大人しく俺たちの後ろでモニターを見ていた。
必死に逃げる公爵軍。
それに対して王軍の先頭では、高順氏が指揮する征東騎士団を中心とした騎兵が、スケルトンライダー達と合流。
高順氏は装備を槍から弓へと変更していた。
それに合わせるように、騎士団たちも騎射の準備を済ませる。
矢を番えて後は弦を引くだけという状態で待機。
狙いやすいようにか、馬首は公爵軍側には向かず横っ腹を向けている。
――――何とも長いしじまがモニター前を支配――――。
「――――頃合いでしょう」
と、ソレを破るのは当然、先生。
上空からのドローンが映し出すのは、公爵軍の半数が川を渡り終えたところ。
残りの半分は、川に足をつけている者達もいれば、未だ王土の土の上に立つ者達もいる。
後ろの者達はせっつかせるように前の者を押して何とか進もうとしているところだ。
先ほどの説明のような状況となっている。
先生が言ったように今回は逆という意味もよく分かる。
攻めではなく撤退だが、これから行う事は孫子のなんちゃと同じ。
「では――攻撃願います。オーバー」
マイクにて伝えれば、
『了解。アウト』
の交信から直ぐさま王軍の前線に動きがある。
「追首は恥でもありますが、勝つためには時として必要」
別にスピーカーマイクは繋がっていないけども、台詞に合わせるように王軍が一斉に弓を構え、鏃を空へと向ける。
次には乱れの無い美しい同時曲射。
放物線を描く矢は、川にて足止めをくらっている者達の頭上へと降り注ぐ。
バタバタと倒れる公爵軍の兵士たち。
体から数本の矢を生やして絶命している者もいれば、腕に刺さって悲鳴を上げている者もいるように見える。
いかんせん至るところから悲鳴が上がるから、俺が目にしていた人物の声は聞き取れない。
天を仰いで激痛に顔を歪め、次には大の字となって、体が水深の浅い川へと沈む。というより浸かる……。
「このまま撤退させるって事ですよね? 相手もここまで手ひどくやられたから、傭兵団はともかくとしても、兵士たちには厭戦ムードが広がることでしょうね」
先生が狙っているのは相手の士気を大きく低下させるって事なんだろう。
俺の推測はこの状況下だとまず間違いなく最適解。先生も笑みを向けて首を縦に振ってくれると思っていたんだけども――、
「主。それは違います」
「ん?」
「それでもよいでしょうが、この好機にわざわざ敵兵を全て逃すのは愚です。泓水の戦いとは些か違いますが、これを見過ごせば宋の襄公の覆轍を踏むことになります」
「宋襄の仁ってやつかな」
「さようです」
ここでゲッコーさんが、疑問符を浮かべる俺の代わりに答えてくれる。
なんのこっちゃ分からんが、先生がこのまま公爵軍を素直に逃がすということはしないというのはよく分かった。
「孫子の行軍篇にある、水を絶てば必ず水に遠ざかり、客、水を絶ちて来たらば、これを水の内に迎うる勿く、半ば済らしめてこれを撃つは利なり。といやつだな」
「その通りですゲッコー殿」
二人で納得しないでくれるかな。
「とりあえず日本語でお願いします」
「日本語「です」「だぞ」」
と、言葉尻だけは違う二人の発言……。
――――渡河から展開する戦いの時は、必ず川から遠ざかること。留まれば背に川を向けた逃げ道のない状況に陥るから。
敵が渡河し、攻撃を仕掛けてくる時は川中で迎え撃ってはいけない。
川を半ば渡りきったところで攻撃するのが有利なのだそうだ。
いまだ川を移動している時に攻撃を実行すれば、反転して逃げる可能性もある。
敵が半分ほど渡り終えてから攻撃するのがいいという。そうすれば渡河をする軍の内の半分を相手にすればいいだけだし、半分を倒すことで相手は半分の兵を失うという大きな損害が生まれる。
「今回はこの逆ですね。相手は攻めるのではなく逃げていますので。ですがやることは一緒です」
場が凍りつくような酷薄な声。
俺の側に立っているベルですら姿勢を正すほどだ。
時折覗かせる軍略家としての冷徹さには、如何に最強の存在であるベルでも呑まれそうになる時がある。
「少しの間、待ちましょう」
マイクを片手にモニターに目を向ける先生に合わせるように俺たちも凝視する。
コクリコも普段なら強気の攻めという展開だから、自分も馳せ参じると高揚するだろうけど、先生の発する氷のような気配をしっかりと感知しているようで、大人しく俺たちの後ろでモニターを見ていた。
必死に逃げる公爵軍。
それに対して王軍の先頭では、高順氏が指揮する征東騎士団を中心とした騎兵が、スケルトンライダー達と合流。
高順氏は装備を槍から弓へと変更していた。
それに合わせるように、騎士団たちも騎射の準備を済ませる。
矢を番えて後は弦を引くだけという状態で待機。
狙いやすいようにか、馬首は公爵軍側には向かず横っ腹を向けている。
――――何とも長いしじまがモニター前を支配――――。
「――――頃合いでしょう」
と、ソレを破るのは当然、先生。
上空からのドローンが映し出すのは、公爵軍の半数が川を渡り終えたところ。
残りの半分は、川に足をつけている者達もいれば、未だ王土の土の上に立つ者達もいる。
後ろの者達はせっつかせるように前の者を押して何とか進もうとしているところだ。
先ほどの説明のような状況となっている。
先生が言ったように今回は逆という意味もよく分かる。
攻めではなく撤退だが、これから行う事は孫子のなんちゃと同じ。
「では――攻撃願います。オーバー」
マイクにて伝えれば、
『了解。アウト』
の交信から直ぐさま王軍の前線に動きがある。
「追首は恥でもありますが、勝つためには時として必要」
別にスピーカーマイクは繋がっていないけども、台詞に合わせるように王軍が一斉に弓を構え、鏃を空へと向ける。
次には乱れの無い美しい同時曲射。
放物線を描く矢は、川にて足止めをくらっている者達の頭上へと降り注ぐ。
バタバタと倒れる公爵軍の兵士たち。
体から数本の矢を生やして絶命している者もいれば、腕に刺さって悲鳴を上げている者もいるように見える。
いかんせん至るところから悲鳴が上がるから、俺が目にしていた人物の声は聞き取れない。
天を仰いで激痛に顔を歪め、次には大の字となって、体が水深の浅い川へと沈む。というより浸かる……。
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