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北伐
PHASE-792【赤に染まる川】
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高順氏のスキルが発動していることもあり、騎射の速度は速い。
三射目、四射目と正に矢継ぎ早を体現していた。
矢を受けた者達がバタバタと力なく倒れる。
こちらが完全に追い込んでいる。先生の心配事でもあった背水の陣にはなりそうにない。
伯爵の突出の時と違い、先生は追い込みすぎないように。といった内容の連絡もしない。
マイクは握られたままの状態を維持だ。
さっきといったい何が違うのか?
「なぜ敵方が反転して挑んでこないか疑問があるご様子」
「ああ、はい」
「それは敵方の状況が変わってしまったからです」
何が変わったというのだろう? 逃げていることは一緒なのに。
「相手側の感情は逃げることに専念しております」
「はあ……?」
継がれる発言にも首を傾げてしまう。
なので先生は俺だけでなく、後ろで同様に首を傾げていたコクリコのためにも解説をしてくれた。
――最初に発せられたのは集団心理だった。
糧秣廠に向かって来ていた時と同様の心理だ。
もし川を渡る前に攻撃をしかければ、さっきも説明があったけど、背水の陣を敷いて決死の思いで攻撃に転じる可能性があった。
しかし半分の軍勢が川を徒渉し、対岸までたどり着いている光景を目にすれば、徒渉中の者、これから徒渉する者は自分たちも逃げ果せる事が出来るという考えに至る。
そうなると逃げることだけが頭を支配し、反転して攻撃に打って出るということはしにくくなる。
とにかく逃げたい。自分よりも背後の者達が盾代わりとなり、自分よりも前の人間が逃げるならそれに続く。
火災避難なんかで先頭が進んで行く方が正しいと考えて、誤って本来の避難ルートから外れるというのにも似ている。
先頭がその道を通るならそれが正しい。だからそれに付いていく。本当にそのルートが正しいのかの疑問を持たないままに付いていく。
徒渉する者達は反攻しないでいいのか? という考えには至らず、前が逃げているから逃げるだけという短絡的な考えになり視野が狭くなる。
集団心理における人間の思考が狭まるのを利用した戦い方。
「もし相手方に有能な人材がおり、且つ尊敬されている将だったならば、その者の一言でまた違った動きも出来たかもしれません」
でも、馬鹿息子は具申する者の発言に耳を傾けず、無能な傭兵たちを侍っている状況。
有能な人材を重用するって事はない。
だからこそ……。
「ふぅぅぅぅぅぅ……」
「そう重い息を吐きますな。このような結果を招いたのは敵方の無能さです」
「はい……」
モニターに映る地獄。
反転するといった動きもなく、先生の説明通りに逃げることに徹した結果、徒渉の最中にバタバタと矢により倒れていき、高順氏が弓より槍へと持ち替えて指揮をすれば、騎士団を中心とした騎兵達が後ろ袈裟とばかりに利器を振り下ろし、突いていく。
まったくもって勝負になっていない。
圧倒的な戦い。言い方を変えれば虐殺とも思える光景だった。
何よりも血が多く流れすぎた……。川の水が真っ赤に変わるほどに……。
亜人たちとの戦いで流血は見慣れているけど、これはな……。
いままで目にした中で最も多く、むごたらしい死体の数に精神が限界に近い……。
「さて、中軍がこちらへとまいります。迎え入れましょう」
前線の動きが緩やかになったところで、王様が指揮する中軍が糧秣廠へ――――。
「大勝だな。荀彧殿」
「伯爵はともかくとして、よき指揮でした」
「皆が指示によく従ってくれたからな。バリタン以外は」
「面目ない。つい血が上り」
廠内へと王様たちがやってくれば、メイドさん達が準備していた水を煽るように飲み、砦攻略と糧秣廠掌握、追撃戦の大勝に王侯貴族の面々は笑みを湛えていた。
戦争という命を奪い合う行いには仄暗さがあるはずなんだけど、それ以上に勝ちを得るというのは嬉しいものなんだろうな。
その感覚に未だ慣れない俺は、笑みを浮かべることは一切出来ない。
三射目、四射目と正に矢継ぎ早を体現していた。
矢を受けた者達がバタバタと力なく倒れる。
こちらが完全に追い込んでいる。先生の心配事でもあった背水の陣にはなりそうにない。
伯爵の突出の時と違い、先生は追い込みすぎないように。といった内容の連絡もしない。
マイクは握られたままの状態を維持だ。
さっきといったい何が違うのか?
「なぜ敵方が反転して挑んでこないか疑問があるご様子」
「ああ、はい」
「それは敵方の状況が変わってしまったからです」
何が変わったというのだろう? 逃げていることは一緒なのに。
「相手側の感情は逃げることに専念しております」
「はあ……?」
継がれる発言にも首を傾げてしまう。
なので先生は俺だけでなく、後ろで同様に首を傾げていたコクリコのためにも解説をしてくれた。
――最初に発せられたのは集団心理だった。
糧秣廠に向かって来ていた時と同様の心理だ。
もし川を渡る前に攻撃をしかければ、さっきも説明があったけど、背水の陣を敷いて決死の思いで攻撃に転じる可能性があった。
しかし半分の軍勢が川を徒渉し、対岸までたどり着いている光景を目にすれば、徒渉中の者、これから徒渉する者は自分たちも逃げ果せる事が出来るという考えに至る。
そうなると逃げることだけが頭を支配し、反転して攻撃に打って出るということはしにくくなる。
とにかく逃げたい。自分よりも背後の者達が盾代わりとなり、自分よりも前の人間が逃げるならそれに続く。
火災避難なんかで先頭が進んで行く方が正しいと考えて、誤って本来の避難ルートから外れるというのにも似ている。
先頭がその道を通るならそれが正しい。だからそれに付いていく。本当にそのルートが正しいのかの疑問を持たないままに付いていく。
徒渉する者達は反攻しないでいいのか? という考えには至らず、前が逃げているから逃げるだけという短絡的な考えになり視野が狭くなる。
集団心理における人間の思考が狭まるのを利用した戦い方。
「もし相手方に有能な人材がおり、且つ尊敬されている将だったならば、その者の一言でまた違った動きも出来たかもしれません」
でも、馬鹿息子は具申する者の発言に耳を傾けず、無能な傭兵たちを侍っている状況。
有能な人材を重用するって事はない。
だからこそ……。
「ふぅぅぅぅぅぅ……」
「そう重い息を吐きますな。このような結果を招いたのは敵方の無能さです」
「はい……」
モニターに映る地獄。
反転するといった動きもなく、先生の説明通りに逃げることに徹した結果、徒渉の最中にバタバタと矢により倒れていき、高順氏が弓より槍へと持ち替えて指揮をすれば、騎士団を中心とした騎兵達が後ろ袈裟とばかりに利器を振り下ろし、突いていく。
まったくもって勝負になっていない。
圧倒的な戦い。言い方を変えれば虐殺とも思える光景だった。
何よりも血が多く流れすぎた……。川の水が真っ赤に変わるほどに……。
亜人たちとの戦いで流血は見慣れているけど、これはな……。
いままで目にした中で最も多く、むごたらしい死体の数に精神が限界に近い……。
「さて、中軍がこちらへとまいります。迎え入れましょう」
前線の動きが緩やかになったところで、王様が指揮する中軍が糧秣廠へ――――。
「大勝だな。荀彧殿」
「伯爵はともかくとして、よき指揮でした」
「皆が指示によく従ってくれたからな。バリタン以外は」
「面目ない。つい血が上り」
廠内へと王様たちがやってくれば、メイドさん達が準備していた水を煽るように飲み、砦攻略と糧秣廠掌握、追撃戦の大勝に王侯貴族の面々は笑みを湛えていた。
戦争という命を奪い合う行いには仄暗さがあるはずなんだけど、それ以上に勝ちを得るというのは嬉しいものなんだろうな。
その感覚に未だ慣れない俺は、笑みを浮かべることは一切出来ない。
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