異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
825 / 1,861
北伐

PHASE-825【結局、白目】

しおりを挟む
「おのれ! ヒュウ」
 戻ってくる縄鏢の勢いを殺さないようにしつつ、且つ自身の首を支点としてロープを首に当てれば、円運動からそのまま鏢が俺へと再び戻ってくる。

「無茶をするね」
 失敗したらグルグルと自分の首を絞める事になっただろうに。
 ならないだけの自信もあるんだろうけどさ。

「でも、もう分かった」
 俺の剣圧で押し返せるだけの膂力って事は、相手の力はそれだけってことだ。

「ブレイズ」
 残火の剣身に炎を纏い、迫ってくる縄鏢を斬る。
 縄ではなく、鏢を斬る。
 残火の切れ味とブレイズの炎で鏢は原形をとどめない。

「よくも!」
 残った縄鏢の軌道は蛇行によるトリッキーなものだが、

「だがらもういいって」
 ズバッっと最後の縄鏢も、斬って燃やして溶かす。

「馬鹿な!?」

「実際、良い腕ではあるんだけどね」
 でも、俺が今まで対峙してきた連中と比べれば、評価は下から数えた方が早い。

「なめるな!」

「後衛のサポート無しでどこまでやれる」
 俺の投げの後に縄鏢が割って入ったことで、俺との距離を取らされた結果、俺の絞め技は回避できたけど、距離が開いた分、連携に関しては穴が空いてしまったからな。
 しかも今の一連の行動で、後衛が得物を消失してしまったしな。そっちの勝ち目は薄くなってんだよな。

「なめるな!」
 同じ言葉を使わなくてよし。
 剣身が見えなくても先ほどみたいに腕を見ればいいだけ。
 もちろんフェイントや魔法ってのも考慮してから対応。

 でもって――、

「出来ればゲットしたい」
 腕の振りは横薙ぎ。
 距離を一気に詰めて至近にて両手持ち状態の前腕を片手で止めてやる。
 自分よりも明らかに貧相な体つきの俺に、動きを簡単に制されたことが驚きだったようだ。
 残火を握ったままの拳を驚く表情の顎に打ち込んでやれば、力なく膝から崩れ落ちる。

「よしよし。この見えない剣は、俺のギルドメンバーの報酬品にさせてもらうよ」
 珍しい武器は冒険者から喜ばれるからな。
 武器としての強さは未知数だから、もしかしたら大したことないかもしれないけど、コレクションとしては重宝されそうだな。
 ネタ武器ってマニアには受けがいいし。

「相棒の武器を返してもらう!」

「得物を失ってまだ戦うつもりか?」

「このアザグンスを侮ってもらっては困る」
 無手で構える。

「モンクか?」

「ショウ!」
 本当に独特だな。
 身を低くしてからの走法は、得物である縄鏢のような蛇行。
 中々に速い。
 ――が、その動きだと湿布にも及ばない。捕捉は容易い。
 このまま迫ってくるなら、頭部に拳をぶち込めばそれで終わらせられる。
 しっかりと軌道を見極め、低い姿勢から迫ってくるアザグンスの顔面に拳を叩き込むタイミングは頭の中でイメージできている。
 後はそれを実行するだけ。

「馬鹿め!」
 口角を吊り上げて手を俺へと伸ばせば、

「ヴェノムショット」
 なる魔法を発動。
 粘度のある紫色の液体が俺へと放たれる。
 イグニースで防いでもいいんだけども――。
 ビチャリと体に付着。
 直ぐさま光となって霧散する。

「くらったな。それをくらえば苦しみによってのたうち回り、むごたらしく死を迎える。だがその前にとどめを刺してやる。俺の慈悲に感謝しろ!」
 得意げに腰から弧を描いたナイフを取り出し、俺へと向かって更に加速。
 モンクではなかったか。

「死――ねぶぅ!?」
 イメージ通りに拳を上方から叩き付けることが出来た。
 人間ってボールなのかな? って思えるくらいにバウンドし、俺から離れていく。
 プルプルと震える腕と膝での四つん這いでなんとか体を支えつつ、俺の方を見て、

「な、なんれぇ……・」
 と、問うてくる。

「悪い。俺、地龍の加護を受けててな。毒攻撃を一切受け付けない完全毒耐性なんだ」
 首にぶら下げた乳白色の曲玉を拇指で引っかけて見せてやる。

「……かっ…………」
 発言を耳にして納得してくれたのか、支えていた体が崩れてうつ伏せになる。
 まあ、自分が使用する魔法が効果を発揮したかしてないかの見極めくらいはしとかないとな。
 光になって霧散するとか完全に無効化されたと思うべきだろ。

 残心からアザグンスに近づき、前髪をどかす。

「ありゃりゃ」 
 折角、前髪で隠れていた目が見られると思ったんだけど、目にすることが出来たのは白目だった。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...