異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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北伐

PHASE-828【訛りと赤い三日月】

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「即効性だな」

「来ますよ会頭」
 俺の前に立つドッセン・バーグが迫ってくる連中に対して自分から突っ込んでいく。

「オラ!」
 ――……ひ~。
 躊躇なし。流石だ。
 ゴアだな……。
 頭部も柄も金属で出来たメイスを大きく振り上げて、迫ってくる傭兵一人の顔面をぐしゃりと叩きつぶす。
 ピクピクと痙攣して倒れる相手にはもう興味なしとばかりに、横から迫る相手には左腕に固定したバックラーを裏拳の要領で使用し、これまた顔面を叩きつぶす。
 躍りかかってくる相手に対しても冷静。
 殴りつけたバックラーを正面に向けて攻撃を防ぎ、体勢を崩させてからメイスで頭を叩き割る。

 一人で行動していただけあって、一人でどうやって立ち回れば良いのかというのを熟知している。
 勉強になるけども、見ているだけでは会頭という立場上ダメなので、俺も参戦しようとしたところで、

「こったらところに出たど」

「主戦場から外れとるがや」

「完全に手柄とれねえだな地頭どん」

「うるせぃ」
 あれは王様のとこに馳せ参じた少数からなる豪族さんの勢力じゃないか。訛りですぐに分かったぞ。

「あんれ。ありゃ勇者様だ」

「ほんなこつ」
 ――……なんか節操のない訛りだな。
 日本各地の訛りが混ざってるぞ。

「襲われとりゃせんかい。地頭どん」

「助けりゃ手柄じゃ。どっさりと報酬をもらえるじゃろ」

「おお、ほうじゃの! 勇者殿! アンダリア領はオルコロ村とカトレ村を統治するロンゲル・ポッケオと配下がご助力いたす」

「ありがとうございます」
 アンダリア領ってことは伯爵の領地だな。
 だから一緒に馳せ参じたわけね。

「いくど!」
 伯爵は訛ってないのにこちらの方々は随分と個性がある。
 要塞内に入り込んだことで軍馬から降りて徒になってるけども、その実力はいかに。

「敵がこんな所にも入り込んでやがる!」

「やっちまえ!」
 と、嫌なタイミングで傭兵団にも増援。
 こちらの三倍強ってところか。

「よっしょい!」
 快活良く豪族の人が得物の槍を振り回せば、キメてる連中数人を吹き飛ばす。
 それに続くように配下の皆さんも簡素な作りの槍を振り回せば、同様に相手が吹き飛ぶ。
 ――……え!? 強っ!
 バタバタと傭兵団が吹き飛んでいく。
 ドッセン・バーグも感心する強さ。

「ほいさい」
 訛りは独特だけど、強い。
 二十騎と寡兵での参加だったけど、そんなもん関係ないくらいに強い。
 ぶっちゃけ王兵よりも強い。
 下手したらうちのギルドの新米さん達より強い方々かも。

「地頭どん。こいつらせからしかだけで弱かど」

「まったい、まったい」

「大いに暴れてやれ! 一番手柄は来年の税は全て免除。俺が立て替えちゃる」
 立て替えてやるって台詞にいい人が出てるね。

「ほーっ!」
 と、一人が喜びの声を上げれば、訛りの兵士さん達の攻撃が更に苛烈さを増す。
 薬物で強化したところで全くもって相手になってなかった。

 ――――。

「いやはや、強かったですね会頭」

「ああ、うん……」
 後半、俺もドッセン・バーグもただ見ているだけになってしまったな。
 豪族さん達が駆けつけた後は俺たちほぼ何もしなくてよかった。
 強いよ、クセのある訛り兵の皆さん。
 これならここいらの鎮圧も簡単かもな。
 
「よくもやってくれたな!」
 ――……まだいんのかよ……。
 直ぐさまキノコを口に放り込んでテンションマックスになると猛然とこちらへと襲いかかってくる。
 俺やドッセン・バーグはまだ大丈夫なんだけど、強くはあるけど豪族さんに訛りの兵士さん達は肩で息をし始めている。
 波状攻撃が続けば、味方に犠牲が出てくるな。

「こらどうすんべ」

「流石に数が多かど地頭どん。勇者様」

「では――我らも助力しよう」
 背後から突如として現れたように思えたのは、人ならざる者だからかな。

「ひぃぃぃスケルトン!?」

「落ち着け、ありゃ味方でねえか」
 現れたのはエルダースケルトン達。
 リンが本腰入れたようだな。
 流線型のメタリックグレーな鎧は独特な光沢を発している。盾も鞘も同様。
 魔法付与の施された装備で全体を包み、左肩から体半分を覆うような漆黒のペリースはやはり格好いい。
 そして初めて見る存在――。
 エルダースケルトンの部隊を指揮するように中央に立っている存在は、煌めく金色の流線型からなる兜と鎧。
 鮮やかな真紅のマントを羽織るのは間違いなくスケルトンなのだが、あまりにも目立つその風貌は、薄暗いイメージのあるアンデッドからかけ離れたまぶしい存在。

「もしかしてお宅がスケルトンルインってポジション」

「である」
 おお。スケルトンもエルダークラスから普通に会話が出来るけど、最上位となれば短い一言でも威厳をしっかりと感じ取れる。

「勇者殿。我が主が呼んでいる」

「そうなの」

「うむ。大方、勇者殿は迷っているのだろうと言ってな。我々が捜索をしていた」

「いや違うし! ここで傭兵団の幹部倒してるし! 俺、そいつら倒す為にここまで来たし! 全然迷ってないし!」

「語り口からして言い訳にも聞こえるが、幹部らしき者達を倒しているのも事実のようであるからその言葉を信じよう」
 倒れている面々を確認して納得してくれるスケルトンルイン。次には眼窩に灯る緑光にて俺をじっと見てくると、

「なんといっても――――勇者の発言だからな。真実なのだろう」

「…………すいません。迷ったところで出くわしただけです」
 勇者の発言って台詞で追い込まないでいただきたい……。

「素直でよろしい。では行こう。半分ほど残り友軍を掩護しつつ敵を倒せ」

「了解した」
 三十体ほどいるエルダースケルトンの半分が動く。
 その動きは素早く、ハイになっている連中に一足飛びで接近すれば、アンデッド故なのか、無慈悲な斬撃で命を奪っていく。
 次から次へと斬獲される光景に、訛りの兵士たちは呆然とするけども、豪族のロンゲル氏が号令を出せば背筋を伸ばして動き出す。
 
 ドッセン・バーグは言わずもがな。長年、戦闘に身を投じているだけあって、エルダー達と一緒になって傭兵団を屠っていく。
 問題なしと判断したスケルトンルインが真紅のマントをバサリと大きく靡かせて歩き出す。
 倒れた者達に両手を合わせてからそれについていく。
 俺の周囲をエルダースケルトン達が防御陣で守ってくれるサービスつきで。

 ――――。

 要塞通路を進んで行く中でエルダーの一体が足を止めれば、

「前方より敵。数は七」

「他愛なし。我が討滅する」
 と、スケルトンルインがエルダースケルトンに応え、金色の鞘から抜剣し、一体で前へと出る。
 ただでさえヘタレな傭兵団。それが見るからに強そうな装備のアンデッドに出くわせば絶望しかない。
 故に戦う前から逃げ腰だが一応は構えている。

「構えずに素直に逃げればよかったものをさすれば助かった命だったのにな」
 生者を忌み嫌うアンデッドらしからぬ発言をしつつ、スケルトンルインの手にする剣身が赤黒く輝きだす。

「ふん」
 と、気迫と共に横一文字を書けば、剣身に纏っていた赤黒い光が三日月状になって放たれる。
 この動作が四度。

「ぎゃ!」「ぎゃん!?」などと苦痛の声と共に、七人いた傭兵団が四振りの遠距離攻撃にて絶命。
 死因はバッサリと斬られたことによるもの。
 放たれた斬撃は鋭いもので、鎧もばっさりと断ち切られていた。
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