異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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北伐

PHASE-855【ヘラクレスの功業より楽】

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 モドキではあるけど、ヒュドラーと名乗るだけあって――、

「やっぱり再生するんだな」
 斬られた部分が泡立つ。
 オーガやトロールと同じような自己再生や自己回復の類いがしっかりとある。
 違うのは、あいつ等は首を落とせば倒せるけど、このヒュドラーモドキは首を斬ってもそこから再生するってところだな。
 
 うろ覚えだけど、確かギリシャ神話だと首を斬って、そこを火で焼いて再生能力を無効化させるって話だったような。
 焼かなければ、斬り落とした部分から首が二つに増えるというのがヒュドラー驚異の能力の一つ。
 本家は増えるけど、眼前のは――、

「こいつは違うようだな」
 増えることはなく、ただ再生するだけ。
 だとしても、高速での再生能力は素直に凄いと思う。
 斬っても斬っても生えてくるのは面倒だし、毒の血液による血溜まりも出来てくる。
 ヘラクレスは斬った後に、松明の火で首を焼いて再生能力を奪うという行動を冒険の同行者と二人でやっていたけど、俺の場合、斬撃と熱傷によるダメージを同時に見舞うことが出来る。

「そう考えると俺の方がヘラクレスよりスマートにやれるね」

「馬鹿め!」
 侮辱の発言に、これでもかというほどに馬鹿息子が喜んでいる。
 ヒュドラーモドキに刃を入れたことが嬉しいようだ。
 それを無視しつつ、ブレイズを纏った残火にて、まずはヒョロヒョロの首を一つ斬る。
 斬った部分に熱傷によるスリップダメージが入れば、肉の焼ける匂いがする。

 ――……匂いってよりは臭いにしておこうかな。
 悪臭とかはなく芳ばしい香りではあるけども、感情としては臭いを選択したい。

「さてどうだ?」
 ――――。

「よし!」
 まずは直ぐに熱傷を切り口全体に広げる事が可能である細い首を狙えば、思った通り再生はない。

「じゃあ次は――」
 と、次に先頭切って迫ってくるのは中太サイズ。
 迫る牙を頭部ごと左の籠手でかち上げて、両側面から迫る別の頭による攻撃を躱しつつ、中太サイズの顎が上がったところに炎の斬撃を加える。
 ――――これもまた再生を防ぐ事に成功。
 
 こうなると容易い。
 苦し紛れなのか、牽制とばかりに残る七つの首が毒ブレスをまき散らす。
 コロッセオの中央で立ち回っているからいいけど、端っこなんかでされるとたまったもんじゃないね。
 俺を応援してくれるオーディエンスに迷惑だよ。
 
 観客席を見れば、出来る面子がちゃんとプロテクションを展開していた。
 毒ブレスが届く位置ではないけど、念入りの対応の早さには感心だ。

「苦しめエセ勇者!」
 首が再生しなくても苛立ちは見せない。
 それどころかクツクツと笑い、俺の苦しむ様を想像しているのか大層ご満悦。
 首を斬り落として飛び散った血液が俺の足元に流れ血溜まりになっていることと、現状の毒攻撃で俺がむごたらしく命を落とすと思ってんだろうね。

「馬鹿な主によって使役されるのは同情する。本当ならマンティコア達みたいに恐れに支配されて戦いを止めてほしいんだけどな」
 残念なことにそうはならないようだ。
 俺に対して攻撃を止めようとはせず、七つの頭は毒ブレスを吐き出ながら、鋭利な牙を剥き出しにして迫ってくる。
 俺の周囲の空気は、毒の紫色によって霞がかる。

 流石にこれがコロッセオ全体に漂うのはよくないと判断し、動き回ることはせず中央に残って戦うことを選択する。
 
 プロテクションが全体に展開されているわけじゃないからな。
 中央から移動したらいらん被害を出してしまう。
 俺が単身、毒霧の滞留する場所に残っていることから、オーディエンスからは心配の声も上がり、観客席全体からざわつきも生まれる。
 皆の心配をしっかりと耳に入れ、毒霧の中から、

「心配ご無用!」
 皆の不安を払拭するように大音声にて俺の無事を伝えつつ、毒霧の中で残った首を断ち切っていく。
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