異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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北伐

PHASE-856【馬鹿は引き際を知らないから馬鹿なんだよな……】

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 ヒュドラーモドキの強さは圧倒的再生能力と、この毒による攻撃なんだろう。
 ガリオンの方が強敵だと思ったけども、もしヒュドラーモドキとの対戦が俺ではなく、そのガリオンだったと想定すれば、ガリオンにとってヒュドラーモドキは難しい相手だったかもしれない。
 再生する力に長期戦となればジリ貧になるだろう。

 バーストフレアをマジックカーブで使用出来るけど、首の部分に熱傷によるスリップダメージという条件となると、爆裂系の魔法では効果も薄いだろうから再生を許してしまう可能性が高い。
 オーラアーマーだって一度の戦闘をこなせる時間といっても平均的な戦闘時間だろうしな。
 普通に戦うとこのヒュドラーモドキはガリオンよりも難敵であったのかもしれない。
 まあ火龍装備の俺は、ヒュドラーモドキ相手に絶対的有利に立てるわけだが。
 
 でもってヒュドラーモドキ最大の武器であろう九つの口から吐かれる毒に、血液に含まれた猛毒も、地龍の角の一欠片からなる曲玉による効果により、完全耐性を有しているから、毒霧なんて色のついたただの空気でしかない。
 全てにおいてヒュドラーモドキの長所を沈黙させる装備を有している俺。

「すぅぅぅぅ――はぁぁぁぁぁ――」
 馬鹿息子を挑発するように、そして皆を安心させるように毒霧の中で深呼吸をしてやった。

「はあぁぁぁぁぁぁあ!?」

「「「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!!」」」」
 上半身を乗り出してこちらを見ている顔はお馬鹿そのもので、とても良いリアクション。
 オーディエンスは俺のその行動と無事な姿に拳を高らかに掲げての大歓声。

「シャァァァァァァァア!!」
 お馬鹿よりも大きなリアクションを取ったのは眼前のヒュドラーモドキ。
 首の再生を不可能にし、毒も通用しない相手に恐れを抱いたようだ。

「やめるか?」
 問うてみても、

「シュゥゥゥゥゥゥ」
 二つに分かれた舌と牙を見せ、鎌首を上げての戦闘態勢は崩さない。
 やはりマンティコアたちのようにはいかないか……。

「本当に――同情するよ」
 あんな馬鹿にいいように扱われるんだからな。
 せめて――、

「解放してやる」
 アクセルから巨体の懐まで入り込み、逆巻く炎の刀身による斬撃を繰り返す。
 そして――、

「これでおしまい」
 最後に残ったもっとも太い首に刃を入れてばっさりと斬り落とす。
 大きな音と共に首が地面へと落ち、斬られた部分からは毒を含んだ血液が噴き出ることはなく、熱傷により切り口部分はしっかりと焼けている。

「そんな……」

「どうだ馬鹿息子。おまえがエセ呼ばわりする勇者の力は」
 切っ先を馬鹿に向ければビクリと体を震わせて後退り。
 それに合わせるようにオーディエンスからは大喝采と勇者コール。
 コクリコがなんとも恨めしそうな目で俺を見ていた。
 悪いな。ここは俺の独擅場だ。格好つけさせてもらう。

「自慢の幻獣モドキは後でこちらがきちんと弔うから、お前はさっさと降伏しろ」

「なんなんだ! お前は何なんだ!」

「だから、お前の言うところのエセ勇者だよ」

「なぜヒュドラーの毒が通用しない! どんな屈強な戦士も即死の毒だぞ。多くの命を奪ってきたのを見ているんだぞ」

「……へ~」
 馬鹿の発言に、観客席のオーディエンスは冷ややかな視線を馬鹿に向ける。
 奪ったってことは、この馬鹿の性格からして、このヒュドラーモドキの戦闘力を調べるために人体実験的なことをしたというところだろう。
 皆が不快感を抱くのも仕方がないというものだ。

「お前の馬鹿さには徹頭徹尾うんざりだけども、それでも降参を勧める俺は本当に優しいよな」
 それでも抵抗するなら、お前の周囲には既にステルスキルの達人たちと、接近戦を得意とするバトルメイド達が待機してる。
 俺が号令を出せばメイドさん達は動くだろうし、S級さん達も呼応するだろう。

「まだだ! まだ終わりではないっ!!」

「まだいんのかよ……」

「連戦に次ぐ連戦。もはや戦う体力もあるまい。さあ次を用意しろ!」
 体力はバリバリあるけど、厭戦なのは確かだな。
 こんな馬鹿に付き合わされる者達や生物が不憫でならない。
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