異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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北伐

PHASE-874【勝ち戦なのに、ここに来て最高難易度て……】

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「しかし、このような冷静で剛胆で酷薄でもある素晴らしき知恵者はそうはいない。陛下もよき人材を側に置くことが出来ております」

「私のことをよく支えてくれて感謝しています。勇者トールの従者は皆が有能です」

「確かに」
 すっと俺の方を見てくる公爵に会釈で返す。
 続いて俺の側に立つパーティーメンバーを瞥見すれば、

「本当に百戦して必敗は必定。カリオネル如きでは勝てんよな」
 如きって。

「息子さんに対して情とかは?」

「甘やかしたところもある。特に上の二人を失った後はな。が、それが愚息の行為だとなれば薄れるというものだ」
 ですよね~。

「その点、勇者殿は真面目なようだな」

「そうですか?」
 ――……なんでコクリコが俺に代わって答えるんだろうね。
 そこは俺が謙遜しながら同じ言葉を使用するつもりだったんだけども。お前が使用すると完全に俺を馬鹿にした言葉としか思えないよ。
 実際にそうなんだろうけどさ。

「周囲の者達の力は、勇者殿以上とお見受けする」

「勿論ですとも!」
 いやだから。コクリコはお呼びじゃない。
 お前にだけは負けているとは思ってないし。

「それでも仕えているのだ。勇者殿の徳の高さというものだろうな」

「「「「それはない」」」」

「おぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい! 先生以外! なんでそこをしっかりと合わせるんですかね! そこは嘘でもいいから肯定しときなさいよ!」

「嘘をつくと、後々に痛い目にあうからな~」
 なにを白々しく言ってんですかねゲッコーさん……。
 俺に対して遠回しに言ってんですかね?
 すげー嫌な予感しかしない。

「ベル、一度だけしかトールの新技を見る事が出来なかったが、あれはどうだった」
 なんでベルに振るの……。
 やっぱりそういうことなの?

「離れた対象に攻撃が可能となれば、それだけ戦い方の手段も増えるので、これから更にトールは成長するかと」
 今後の成長に期待してくれるベルの優しさに嬉しくもあり、部下に対する期待のような感じで寂しくもある。

「試してみたらどうだ。ここはコロッセオだしな。公爵殿に勇者トールとその仲間の強さも見てもらうのもいいだろう」

「それはいい」
 ちょっと公爵。ゲッコーさんの口車に乗らないで。
 これは俺がインスタントでマスリリースを取得した事に対する折檻なんですよ。
 貴男の息子に対してミランドが折檻したのと同様のやつなんすよ。
 しかもその折檻の執行役が、最強の存在なんだよ。

「あ~」
 とても嫌だったのでついつい声が出てしまう。

「なんだその腑抜けた声は」
 擬音をつけるならギンッ! だろう。そんな目でベルに睨まれる。

「あ、いや……。ちょっと疲れて」

「確かに連戦だったからな。二時間ほど休憩を取るといい」
 そうじゃなくて……。ベルとは戦いたくないでござる。
 拙者、戦いたくないでござる!

「私も休息を取りたかったから丁度いい。流石に老体での山越えは疲れるからな」

「横から失礼いたします。よろしければ主賓席に軽食をご用意いたしますが」

「これは素晴らしいメイド達だ」
 コトネさんが気を利かせて公爵と征北騎士団の面々をエスコートすれば、素直についていく爺さん。
 爺さんながら美人を見れば、顔はほころんだものになる。
 その辺は馬鹿息子にもしっかりと遺伝してる。

「にしても……」
 まさかここでベルと戦うとは……。

「まったく! なんでトールばかりが目立つのですか!」

「だったら俺に代わってコクリコが戦っていいぞ」

「それは嫌です」
 目立ちたいのにベルとは戦いたくないとは、我が儘なまな板だ。
 流石にベルとの戦闘は誰もが避けたいよな……。
 でも俺はそれを避けることが出来ないわけだ……。

「楽しみにしている」

「……おう…………」
 俺の成長がどれほどのものなのか。それを見る事が出来るからと、ベルは何とも嬉しそうに笑みを湛えていた。
 可愛いものを見る時のソレではなく。部下がどれだけ出来るようになったかを楽しみにしているというものだ。
 もう……。ここに来て最強の存在と戦うのかよ……。

 今回はちょっとだけど、俺TUEEEEEEEな気持ちになれたのに。
 そこから直下で落とされるのかよ……。
 
 やだも~……。
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