異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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新公爵

PHASE-895【暫定公爵なんて自称プロと一緒】

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「う~ん……」
 詳しく教えてくれた気のいいおっさんだと思ったが撤回すべきなのか、ミルド領の現在の風紀が駄目だからこうなっているのか……。
 いい人なんだろう。いい人なんだろうが……変態だった。

「本当にベルがいなくてよかったよ」

「ですが私がいますよ」

「……ですよね~」
 冷ややかな声はマイヤ。
 目つきのきつい美人だけども、今回は柳眉を吊り上げて睨みを利かせているから余計に目つきが怖いものになっている。
 普段は美しさを際立たせている左頬の刀傷だけども、今は目力に合わせて圧を感じさせる。

「仕方ないよな」
 マイヤの怒りにゲッコーさんも同調。
 周囲から聞こえてくる声にも不快さを増させる内容が多いからね。

「今度は女か……」
 と、残念がる人物もいる。
 重労働には役に立たないというぼやきが残念がる理由だ。

「だが二人だ。しかも若い」
 残念がる隣では色欲にまみれた笑みを湛える男が返している。
 色欲にまみれるような年齢ではないと思うんだけどな……。
 完全に犯罪だろう。
 この世界ではセーフなのかな?

 そしてここで商人が口を開く。

「さあ、今度の商品は十二才の姉と七才になる妹です。健康状態は良好です。二人のセットとなりますので、今回はダーナ雫型金貨二枚から競りを始めさせてもらいます」

「よっしゃ! 持ち金全部使ってやる」
 ――……おっさん。
【商品を買うなら自分が現在なにを求めているのかをよく考えてから買うことだよ】
 親切だと思った内容だったが、現在のテンションからおっさんの性癖が分かるというものだ……。
 とんだロリペド野郎じゃねえか……。

「にしても安いな」
 側にいるおっさんの喜ぶ声を耳朶に入れつつ、先ほどの男性同様に価格の安さに驚いてしまう。
 二人の金額は合わせて二万円程度。
 この二万から値が上がっていくんだろうけど、さっきの褐色の男性の値の上がり方からして、価格が大きく上がるというのは考えられない。
 競り上がったとしても雫型金貨十枚くらいかもしれない。
 もしかしたら家畜よりも安いのかもな。

「裏路地の露天での競売だからな。商品としての価値は露天でやる程度の価値って事なんだろうな」
 ゲッコーさんの推測だと本来は別の場所で奴隷の売買はされていて、そこから売れ残った者たちをこういった所で安くで出すのだろうということだった。
 売れ残った商品を飼い続ければ無駄な食費などの出費が発生する。
 それを抑えるための在庫一掃セールの格安マーケットってことか。

「殺処分にも金はかかるからな。もしかしたらそういった趣向を持った者たちもいるかもな」

「ゲッコーさん」

「現実を言っているだけだ」
 淡々と返しているように見えて、実際は怒りが混じってるんだよな。
 これを見て怒りを感じないなら俺の尊敬する人物ではないからな。
 
 さて、となりのロリペドおっさんには悪いけど。
 今度こそ商人へと向かって歩く俺――。
 誰よりも商人の前に立ってから、

「は~いお開きで~す。人身売買は禁止だし、そもそも奴隷制はこの大陸では禁止だよ~」

「なんだ!」

「はい威圧しても駄目ですよ~」
 さっそく商人の取り巻きが腰に備えたバットサイズの棍棒を手に持って俺の前に立って睨んでくる。
 ごろつきの睨みなんてもはや俺にとっては驚異ではない。

「はいどいて」
 でも俺は優しく接してあげる。

「商売の邪魔をするな!」

「だから禁止されてんだよ」

「暫定公爵様であるカリオネル様は許されてんだよ」
 なんだよ暫定公爵って……。
 あの馬鹿息子、自分の事を領内では暫定公爵って言ってたのかな?
 まったくアホな家族を持つと後を継ぐ人間は苦労する。
 ていうか、あいつと家族関係になるとか嫌なんですけど……。
 ――よし! 継承のお披露目式が終わればあいつは公爵家から完全に追放しよう。
 そんな奴は最初からいなかった事にする。
 汚点は抹消。
 リンにずっとこき使われればいい。
 うんうん、これでいこう。

「なにを頷いてんだこのガキ!」

「考え事が決まったからだよ! このごろつき!」
 棍棒を大きく振りかぶって勢威を放つ一人に対し、無慈悲なアッパーをぶち込んでやる。
 巨体が綺麗に宙を舞う。
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