異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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新公爵

PHASE-896【認可済】

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 一撃で大男を吹き飛ばす俺という存在に、周囲の客達が一斉に距離を取る。
 俺の登場とお開き発言に不快感を持っていたが、現在の表情は強張ったものとなり、口は開くことなく横一文字。

「カイル」

「心配なく。すでに話を聞いてもらってます」
 うん。暴力は使用してないようだね。
 褐色の男性を購入した人物はカイルと仲良く肩を組んでいる。
 心なしか顔は青ざめてうつむき加減だが、青ざめているのはこの北国の寒さのせいだという事にしておこう。

「おうおう!」
 おお、わらわらと。これまたよくある展開だな。
 商売をしていた後ろの建物からごろつき達の増援。
 今回の連中は脅しじゃないぞとばかりに、棍棒ではなく腰には統一性のない利器をぶら下げていた。
 鞘に入っていない鉈に手斧。一番まともなのは鞘に収まったロングソードだが、柄を見ただけで粗製のものだと分かる。
 
 ――数は七人。商人と最初から侍っていた残りの一人で九人。
 俺一人でも問題ない連中だな。

「おい! こっちは一人やられてんだ。覚悟は出来てんだよな小僧ぉ!」

「はいはい」
 小馬鹿にしたように耳をほじりながら返せば、皆さん揃って抜き身になる。

「殺しゃしねえ! 調教して商売道具にしてやる!」

「はいはい」

「テメー!」
 鉈を大上段で構えたまま俺の拳の間合いまで踏み込んでくる。
 振り下ろすタイミングが残念すぎるので、罰として拳骨一発。
 これまた簡単に吹き飛んでくれる大男。
 この程度の手合いなら、筋力向上ピリアであるインクリーズは未使用でいいな。地力倍加のストレンクスンだけで十分だ。

「野郎!」

「テメーに野郎。言葉のボキャブラリーがないぞ」
 てことでコイツも罰として拳骨。
 手斧持ちも軽々と吹き飛んでくれる。
 側面からの遅い攻撃は最初からいた棍棒使い。
 あまりにも遅いので俺はその場を動かずに前にだけ気を配る。

「ぎゃ!?」
 短い叫び声が横から聞こえ、続いて倒れる音。

「隙だらけ」
 短く発するマイヤ。
 もちろん俺に言ったのではなく、棍棒のごろつきに対しての発言。
 闇を投影したような黒髪を靡かせつつ俺の前に立つ。

「私が対処しますよ」

「皆で対処しよう」

「分かりました」
 他力本願ばかりでは駄目だからね。
 それに殺しゃしねえとか言っておいて、利器を全力で振ってきたので発言は嘘と判断し、罰として拳骨をドンドン見舞っていかないとな。
 
 てなわけで――――、

「はい終わり」

「そ、そんな。用心棒たちが……」

「もっと強いのを選べよ。こんなやつらを雇わないといけないくらいに人材が不足してんのか? 人身売買する前にその人材を自分のとこで雇え」
 最初に売られていた褐色の男性のほうがよっぽど強そうだぞ。
 俺とマイヤだけであっという間だった。
 所詮は町のごろつき。相手にならない。
 あっという間にごろつき達がのされたことで、口を横一文字にしていたオーディエンスがざわつく。

「もう一回言います。お開きです。そして二度とこのような商売は開かれません」
 チラッと見やれば皆さんそそくさとこの場から立ち去ってくれた。カイルが肩を組むおっさん以外。
 俺に親切だったロリペドおっさんは、なんとも残念そうに何度も振り返りながら去っていく。
 視線は完全にマイヤによって保護された少女二人に向けられていた。
 あのおっさん。本物だな……。

「いやしかしどう思います?」
 あえて主語を抜かした発言でゲッコーさんに問えば、

「中々に腐敗が進んでいる」

「ですよね~」
 これだけ大騒ぎにしてやったんだ。
 マイヤと二人で戦う時はワザと大立ち回りしたからな。
 こんな連中ならスマートにワンパンでダウンさせられるのを後半はあえてせずに飛び回ったりしたのに、

「警邏とかしてないのかな? それともお宅等みたいなのが商売しやすいように袖の下でも握らせてんのか?」

「い、いい、いい加減にしろ! 俺たちゃちゃんと許可もらってんだぞ!」
 と、ここで商人が声同様に震える手で、帆布製の肩掛け鞄を弄り羊皮紙を取り出して見せてくる。
 免罪符とばかりの羊皮紙による許可証にはしっかりと印影がある。
 印影は大熊紋だった。公爵旗と同様のデザイン。
 つまりは公爵家が許可しているってことだ。
 
 ですがね――、俺は許可してませんよ。
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