異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
963 / 1,861
ミルド領

PHASE-963【クマ好きなのか?】

しおりを挟む
「アンデッドの合成獣まで創りだしたカイメラの目的ってなんでしょうね?」
 軍団を作りたかったのは羊皮紙からも分かるが、その軍団で何がしたかったのやら。
 生者を恨む存在を使役するなんて容易いことじゃない。実験を行うこと自体リスクが大きすぎる。
 現にバイオハザードが起きてるし。
 リンが言うように、ネクロマンシーも使用できない連中がアンデッドを操るのは土台無理なんだよな。

「それは俺達の横に立つ美人さんの扱うアンデッドの利点を思い出せばいいかもな」
 ゲッコーさんの飾らない美人さん発言に気をよくしたのか、蠱惑な笑みから素直な笑みに変わるリン。
 やはり美人とストレートに言われるのは悪い気はしないようだ。
 恥ずかしがらずにサラッと言える耐性を俺も培っていかないといけないね。

 などといった考えを巡らせるのではなく、利点だったな。
 リンが使役するアンデッドの利点は王都の方でも大活躍しているから分かる。

 ここの連中もそれを第一に考えたからアンデッドの合成獣にこだわったんだろう。
 労働力として働かせれば疲れることなく働き、食事も睡眠も必要としない。
 命令さえ出せば二十四時間、文句も言わずに働き続けるのは非常に魅力的だ。
 
 戦いとなれば兵糧いらず。暗闇も見通せるから夜襲を仕掛けたり、迎撃も出来る。
 アンデッドの固有スキルである精神耐性により、強大な敵に対しても恐れることなく立ち向かえるというのも強味。
 臆することなく最前線へと突撃できるという事は、その後に続く者たちにとって戦意高揚に繋がるのもありがたい。

 戦闘、労働と共に優秀。見た目に恐怖さえしなければこれほど頼りになる存在もいないだろうからな。
 実験を成功させて自分たちの為の軍団を作りたかった。といったシンプルな答えが正解かな。

 合成獣を生み出し、次にはアンデッドの合成獣の研究に傾倒していたカイメラ。

「コイツ等は魔王軍同様に警戒しないといけないし、全国に手配書を出さないと。というか魔王軍との繋がりもあるかもしれませんよ」
 魔大陸で初めて遭遇したマンティコアのチコ。
 ランシェルはこちらの大陸から連れてきたと言っていたが、今回の事で創造した者たちの組織名を知ることが出来た。
 魔王軍とカイメラに繋がりがあったからこそ、魔大陸へとマンティコアが運ばれたという可能性が生まれる。
 狂気の組織と魔王軍が結託とか考えるのも嫌になる大問題だ。

「外での実験時、魔王軍によって偶発的に捕獲されたと俺は考えている」
 俺なんかより遙かに知力の高いゲッコーさんがそう言ってくれれば、俺の不安も軽減される。
 繋がりからの譲渡より、捕獲されたという方が手を組んでない分ましだからな。

「そう思う根拠は?」
 でも完全に不安が払拭されない俺は、質問してしまう。

「この場所に施設があるのが答えだ」
 魔王軍と繋がりがあるなら、魔王軍の支配下にある土地や魔大陸なんかで研究をした方が効率がいい。
 魔王軍の軍勢を頼れば、自分たちが欲する生物を捕獲するのだって簡単になる。
 だが現実は人目を憚って隠れて行っている。
 よって繋がっている可能性は低い。
 聞かされて納得。

「繋がりがないだけでも助かりますよ。しかし――」
 新たに手に入れた厚みのある羊皮紙の束を見ていて気になる事がある。

「なぜ熊にこだわっているか――だよな」

「はい。この束にはウェアベアモドキ――コイツ等が言うところの人工ウェアベアの研究にどれだけご熱心だったのかが分かります」

「亜人やモンスターではなく、動物の熊と人間を合成してからアンデッド化。人間の知性を与えたかったのかもしれんが、結果が結果だからな。何がしたいのか分からんな」
 
「分からないのはいい事でしょう。こんな事をする連中と感性が似てるとか嫌ですからね」

「まあな」
 ――亜人やモンスターとなれば捕獲するのが難しいから動物や人間って事も考えられるけども、ギガースワーム・エクソアーマーの合成に使用したヤスデとワームは捕獲するだけの力はもってんだよな。
 ゴブリンだってそうだ。いくら弱いといっても、あれだけの規模を捕獲するのは実力がないと出来ないことだ。
 つまりカイメラにとって、モンスターや亜人を捕獲するのは別段、難しいってわけじゃないということ。

 この小部屋で手に入った羊皮紙の内容から伝わってくるのは、合成獣アンデッドの軍団と熊に対する熱心さだ。
 他の合成獣と違って、ウェアベアモドキの資料の厚さは一線を画すものだった。

「ベルがこれを見たらどう思うことか……」

「まったくだ」
 二人して苦笑い。つられてリンも苦笑い。
 大気を震わす怒りを発するのは間違いない。
 
 あの馬鹿が白い子グマ――つまりはゴロ太を渡せと言ってきた時のベルの怒りに、屈強な精神に立ち戻った王侯貴族から悲鳴が上がったからな……。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...