異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
964 / 1,861
ミルド領

PHASE-964【必ず捕まえる】

しおりを挟む
 ――…………!?

「ってゴロ太ぁ!?」

「まあその答えに行き着くよな」

「ゲッコーさん。ゴロ太を欲したのはカリオネルの馬鹿じゃなくて……」

「このカイメラという組織が欲したんだな」

「――――ほう」

「「「おおぉぉぉ…………」」」
 ゲッコーさん、リンと一緒になって声を漏らす。
 俺達の背後にいつの間にか立っていたベルの圧が原因。
 三人そろって情けない声だった。

 ピシリと大気に大きな亀裂が入るかのような凄いプレッシャー……。
 ヒビの入った目の前の強化ガラスが、ベルの発するプレッシャーで粉々になるんじゃないかとすら思えたよ……。


 ――――。

「組織の詳細を得ることが出来たのは大きかったですね。主殿」

「ですね」
 屋敷へと戻り、自室にある応接室で荀攸さんに結果報告。
 先生は王様達と一緒にセントラルより離れているので、今回は欠席。

「しかしベル殿の怒りは相当でしょうね」

「まあ、ですね……」

「私はゴロ太殿の存在は知りませんが、主殿のその表情からして、ベル殿にとって大事な存在のようで」
 ゴロ太を中心とした世界をつくりそうな程に、ゴロ太のことが大好きだからね~。

 ――――研究施設から出た後、ミルド領で行動するS級さん達をゲッコーさんが招集。
 アビゲイルさんにも協力してもらってネポリスの兵達を動員し、都市内での聞き込みが始まった。

 結果としては、白装束の連中が王軍と馬鹿との決戦前に、王都にいる人語を喋る白い子グマの情報が入っていないか。という内容を酒場や宿屋の店主達に聞き回っていたという報告が何件か上がった。
 
 白装束で顔は見せない、しかも喋る子グマってなんだ? と、へんてこな内容だったから店主達もよく覚えていたそうだ。
 半年ほど前に施設でやらかしてはいたが、その後もカイメラの連中がミルド領に潜伏していたというのは分かった。
 
 公都と魔術学都市に近い町にも調査を広げれば、特務機関の調べで同じような内容の報告が届いた。
 こうなるとミルド領全体で連中がゴロ太に関する情報を得ようとしていたのが窺える。
 でもこれらの報告は、全て王軍と馬鹿との決戦前のもので、決着後カイメラがミルド領に潜伏しているかの痕跡はたどれていない。
 
「それでカリオネル殿は何か知っていましたか?」
 荀攸さん、わざわざ馬鹿に対して殿をつけるって律儀だな。と、思いつつ首を左右に振って返す。

「あの聴取で知らないと言いきれるんですからね。間違いなく何も知らないでしょうね」

「でしょうね」
 ゴロ太がターゲットとなった時点でベルの逆鱗に触れることになるのは必至。
 実際、ネポリスから戻って直ぐに屋敷の地下へと足を向かわせたベルは、殺気を放ちながら馬鹿にまくし立てたからな。
 
 周囲がおののく程の迫力なんだから、ヘタレなアンデッド馬鹿はアンデッドなのに失神しかけたもんだ。
 でもそれも許されない。
 失神しようものならベルが炎で消し炭にすると脅しをかけてたほどだ……。

 常に監視をしてくれているデュラハンとなったミランドと、悪戯半分で同行したリンがベルの圧に当てられて、そそくさと退室したのは先日のこと。

 その間にゲッコーさんはS級さんだけでなく、俺名義でミルド領内の諸侯に号令を出し、兵を動員させ、羊皮紙に記されていたキノコの回収に動いてくれた。

「ベルセルクルのキノコ……よもや公都でも栽培されていたとは……」
 短期間で横文字をスラスラと言えるようになっているところは、流石は先生と同じ荀氏なだけはある。
 
 荀攸さんが嘆息を漏らすのも仕方がないが、馬鹿が爺様に取って代わって権勢を振るっていた時点で、この広い公都内で栽培をしていたのは当然といえば当然。

 だがそんな肝心な栽培所の場所ですら、馬鹿はおだてられていただけで知ろうともしなかったんだからな。
 栽培所を抑える事が出来たのも、地下施設で見つけた羊皮紙があってのもの。

「栽培所を抑える事が出来たのは羊皮紙に書かれた記述が真実だということ。この身が震えてしまいます」
 栽培所が真実なら、その他の記述も紛う方なき真実。
 狂気の実験を目にしなかった荀攸さんだけど、狂気の一端に触れることは出来たと不快感と共に発した。 

「公都と近隣の栽培所を抑える事は出来ましたし、各地でも今後、抑えていくことになるでしょうけど、現状カイメラの所在を掴めていないのが悔しいですね」

「こちらが地下施設を見つける事は出来ないと高を括っていれば、その驕りから尻尾を掴むという事も可能でしたでしょうが、中々に用心深い連中のようで」
 堂々と表には出ず、派手に動く馬鹿や傭兵団に目を向けさせてその裏で動く。
 影に潜む連中としての常套手段ではあるだろうが、こちらがそれに対応できていなかったのは腹立たしい。
 
 地下であんな実験をしていたんだからな。ミルド領からもし逃げ果せてたとしても、各領地と協力して絶対に捕らえてやる。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...