異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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ミルド領

PHASE-980【逆マトリョーシカ的な】

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「綺麗にそちらの術中に陥ったわけだな。小僧と小娘の戯言だと思っていたが真実だったか。しかし、こんな単純な誘い込みにハマってしまうとは、それだけ心底では焦りがあったんだろう。ともあれ見事だ」
 おっと、六倍にもなるこちらの兵に包囲されながらも慌てることなく、くぐもった声がこちらを称賛。
 称賛は余裕の表れか?

「囲まれているが存外、落ち着き払っている。今までの傭兵団とは完全に別物だな」
 ――……楽しそうで何より。
 まあ、ゲッコーさんはこういった強者を俺にぶつけたいからね。
 ベルも少しは落ち着いてきたようで、前に出ることはせず、俺と同じ位置まで戻ってくる。
 怒りの感情のまま攻め入って全滅させてくれても良かったんだけどね。

「余裕があるのは強者の証! その証を粉々にすることが真の強者である私! では――始めましょうか!」
 ここでコクリコが啖呵を切る。
 貴石を赤く輝かせれば、始まりの合図とばかりにお得意のファイヤーボール。
 コクリコが狙うのは当然、相手のトップ。
 トップを自らの手で倒すことで名声を得たいという欲望がダダ漏れだ。

「プロテクション」
 ダダ漏れの欲望も、シェザールによって防がれる。

「ほう、我が魔法を防ぎますか」

「…………たかが初期の下位魔法で、そこまで強気になれる者は初めて目にする」
 呆れ口調だな。

「が、威力は上々。タネは左手首と右足首につけた装身具か。かなり上質のタリスマンだな」

「当然」
 後方から得意げなリンの声。
 作り手は古の英雄だからな。

「小娘には過ぎた装身具だ」

「言ってくれますね。オスカーとミッターは私以外では使いこなせませんよ」

「ならばその言が誤りである事を証明したいので、この極界のシェザールが頂戴しよう」

「極めてもいない者の大仰な別称は恥ずかしいというのに、大言壮語で更なる恥を上塗りするとは――ね!」
 口賢しいロードなんちゃらが手にするワンドの貴石が、今度は黄色に輝き――、

「ライトニングスネーク!」
 ワンド前方から顕現した縄サイズの中位魔法による電撃が、シェザールへと襲いかかる。

「笑止。ライトニングボア」
 おお! 普通に上位魔法を使用できるんだな。
 コクリコの電撃の蛇は電撃の大蛇に呑み込まれてしまった。
 大蛇はそのままこちらへと向かってくる。

「フハハハハハ――ッ」
 耳に響く哄笑がシェザールから上がる。
 勝利を疑わなかったんだろうが、

「ライトニングサーペント」

「は?」
 その哄笑をピタリと止めたのはもちろんこの方。
 俺の後方から顕現した上位魔法の中でも上――最上位魔法に位置する電撃の巨蛇は、大蛇をあっという間に丸呑みにし、シェザールへと向かっていく。

「フ、フロックエフェクト! プロテクション!」
 大急ぎで自身の周囲に二重の半球を顕現させるシェザール。
 プロテクションは形状でレベルの高さが分かる。
 覚え立てだと畳一畳分のものを一方向に展開。
 上位者となれば大きく強固になり、そして半球などの成形で全体を守ることが出来るまでになる。
 ソレを二重に展開できるのだからシェザールの実力は本物。
 本物ではあるが……、相手になっているのが古の英雄だというのが不幸なところだな。

 半球の魔法障壁にバチバチといった激しい電撃がぶつかれば、半球を包むように雷光が激しく走る。
 巨蛇が大口を開いて呑み込む姿を彷彿させる光景。

「くぉぉぉぉぉぉお!」
 相対する方からは呑み込まれてなるものか! と、必死の咆哮が上がり――、

「はぁ……はぁはぁ……」
 肩で息をする姿を確認。
 障壁の一つは破壊されたが、残りの一枚でかろうじて防ぐ事に成功。

「耐えたな」

「やるじゃない」
 俺が感嘆の声を漏らせば、リンもしっかりと相手を褒める。
 といっても、俺の本気の感嘆とは違って、嘲笑による褒め言葉なんだよな。
 
 本気による魔法ではなかったということだろう。
 だとしてもあれだけの威力を防ぎきったのは実力がある証拠。
 普通にフロックエフェクトも使用できるレベルだしな。
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