異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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ミルド領

PHASE-994【時折、お世話になってます】

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「本当に、先ほどから訳の分からんことばかりを言う。呆れてしまうな」

「それもよく言われるわよね~」

「追従しなくていいぞ……」
 後方からリンの発言。
 追従ついでに紫色の刃の魔法能力も教えてくれる。 
 ――サンダーエッジ。雷系の魔法。本来は手に顕現させ、刀剣として使用する魔法だという。
 
 征東騎士団団長であるイリーが使用する魔法剣・ライトニングエッジに近いものみたいだけど、あっちは剣と魔法の融合からなる上位クラス。
 サンダーエッジは魔法の刃を発生させるだけなので、魔法剣と比べれば威力は落ちるという。
 魔法剣習得の練度まで到達する必要がない分、手軽に使用できる中位魔法だそうだ。

 手軽とはいえ、斬撃力は非常に高く、斬られれば無事では済まないのは俺自身で経験済み。
 使い手の実力次第では魔法剣となんら遜色のない力だ。

「お宅の場合は鞘から顕現させるんだな。鞘の長さも相まって長柄武器のロンパイアのようだ」

「お前が言うようにロンパイアをイメージしているからな。鞘に仕込まれたタリスマンにより強化された魔法の刃だ。サンダーエッジはそもそも発光が紫なのでな、刀であるまたたきの相棒として、発光色から鞘には紫電と名がつけられている」

「やだ~ネーミングが凄く琴線に触れるぞ。お宅のとこの家宝は俺の琴線にがっつりと触れるぞ」

「随分と余裕だ」

「意識がしっかりとすれば余裕も生まれる単純なお年頃だから」

「そうか――だが、貴様を苦しめることは非常に小気味が良い」
 ドSかよ……。

「貴様を苦しめれば、老体が苦しむようだからな」

「は?」
 マジョリカが向ける視線の先。
 そこは爺様が立っていた方向。
 目の前の強者を意識しつつ瞥見すれば――、

「あ!」
 爺様が崩れ落ちそうになっていた。
 スティーブンスが倒れないように体を支え、伏兵として現れた近衛達が一斉にタワーシールドを全方位に展開。
 プレヴィスさんが周辺に目を向け、一切の敵の接近を許さないように警戒してくれる。

「……俺が原因か」

「そのようだ。前王の弟であり、この大陸を支えた英雄の姿からは想像が出来ないほどに弱々しい。愚息により出来の良いのが二人奪われた経緯もある。老いぼれにとって身近な者の死は最大の恐怖のようだ」
 爺様が膝をつき、苦しんでいる姿がたまらなく嬉しいとばかりに、マジョリカは美貌が残念になるほどに口端を吊り上げて笑みを浮かべる。
 三日月を横に寝かせたような笑みと、濁りある碧眼。
 長い白髪も相まって、不気味さを体全体に纏わせていた。

「爺様! もう心配しなくていいから屋敷で休んでてくださいよ」
 俺が下手こいたことで心労に襲われるなら、これ以上、戦場に立つ必要はない。
 申し訳ないし、血が繋がっていなくても一族と判断したら途端に甘くなる性格となれば、俺と一緒の戦場に立つのは難しい。
 
 気骨ある姿は政務の時だけ発揮してもらえればいい。
 その歳で戦場に立つ必要はない。

「スティーブンス、近衛。現当主が命ずる。爺様を屋敷へとお連れしろ」
 爺様はこの場に残ろうと俺になにか言いたげに目で訴えかけてきたけど、スティーブンスと近衛達の動きは素早く、爺様を運んで屋敷へと戻っていく。
 プレヴィスさんが終始、目を光らせてくれていたから、爺様に対しての追撃の心配はなかった。

「もっと貴様が苦しむ姿を見せたかったのだがな。残念だ」

「性格が悪すぎるぞ」

「あの老いぼれに比べればましだろう。それに性格が捻れた原因もあの老いぼれにある」

「どういった経緯で改易となったかはしっかりと聞かされてはいないけども、お前たち傭兵団がこの領地に厄災を振りまいた理由にはならないからな。しっかりと償いはしてもらう」

「仲間の助力が無ければ死んでいたであろう者が、よくも大口をたたけるものだ」

「頼れる仲間がいるから多少の無茶も出来るし、更に先へと足を踏み入れる覚悟も出来るってもんだ」

「私の間合いに踏み入れば、行き着く先はあの世だな」

「それも乗り越えるんだよ。悪いけどアンタには俺のロイター板になってもらうからな。アンタ自身も乗り越えさせてもらう!」
 経験値アップのためにこっちはこの戦いでオミットしているところだってあるんだ。
 本当は口に出して繋げたかったけども、それを発せば途端に負け犬のような言い訳になるからぐっと堪えた。
 死にかけた立場がそれを発せば、格好悪いことこの上ないからな。

「本当に――訳の分からんことばかりを口にする。妄想癖なところは目を瞑ってやるが、乗り越えるなどという不可能を口にする虚言癖は見逃せん。虚言を二度と発せぬように、次は確実に首を斬り落としてやる」

「妄想でも虚言でもない。有言実行って言葉を知らないのか? 次は確実に攻略させてもらう」
 ――……と大言壮語をしたものの。
 刹那のマジョリカ。
 二つ名通りの神速の太刀に、飛天の流派の如き隙の生じぬ二段構えな魔法の刃からなるロンパイアの脅威。

 もちろん攻めの手段はそれだけじゃないだろう。
 副団長のガリオンや、今コクリコ達やカイルが戦っている団長補佐の二人を従えてるだけの実力から考えれば、まだまだ隠し球のネイコスやピリアを持っていると判断して対応した方がいい。
 
 なんたってこっちは一回死んでるようなもんだからな。慎重に立ち回らないと。
 回復があるから助かったとはいえ、誰もいない一対一の戦いだったら間違いなく俺は殺されていた。
 残機や死に戻りなんてのは俺にはないからな。
 蘇生魔法があったとしても、命は一つとして行動しないと、慢心によって死が訪れてしまう。

「どうした? 斬られた恐怖から足が進まなくなったか」

「んなわけあるかよ!」
 威勢よく返すけど、さっきからの威勢は虚勢。
 俺を殺しかけた人物を目の前にして、そいつに足を進めろというのは難しかったりするもんだ。
 でも進めないと解決しないのが戦場だというのも、今までの戦いで培ってきている。
 
 大きく深呼吸をして、

「んだらぁ! やったらぁ!」

「何ともやけくそな気概だな」
 余裕の笑みを歪めてやるぜ!
 その思いで一気にマジョリカへと迫る。
 今までは向こうが先手だったが、今度はこっちが先手を取らせてもらう。
 ああやって居合いの構えでこちらからの行動を迎え撃とうとする姿勢は初めて目にするな。
 ここにきて初めて見せてくる姿勢と対峙するってのは本来はよろしくないが、それは相手にも言える。
 今回は向こうに受けに回ってもらおう。
 受けに回った結果、俺は死にかけたんだし。今度は攻めに転じてそこから光明を見出す。
 
 新しい行動で色々と相手の思考を掻き乱してやる。
 
 雑嚢に左手を突っ込んで取り出すのは、困った時に頼らせてもらっている――、

「モロトフ」
 コルク栓を瓶口部から引っこ抜けば、瓶の中でガソリンが染みついた紙が姿を現す。
 その栓を逆にしてから再び瓶口部に栓をして、

「ティンダー」
 左食指の指先から小さな火を灯せば、相対する方は呆れた笑みを湛えていた。
 初期の中でも最も初期だから他愛ないと思ったか。
 戦いの中でどうやって利用するのか? 瓶の中身はなんなのか? それらに関心を寄せなかったのはよろしくないな。
 こっちとしては有り難いし、しっかりとその隙に付け入らせてもらう!

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