異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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ミルド領

PHASE-1002【命名二つ】

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「さて、一勝一敗とするなら次を始めるか? こっちは更にブーステッドも残してるんだぜ」

「……いや、いい。私の負けだ。斬首にでもすればいい」

「確かに今までの行いを考えれば斬首は免れないよな」

「免れるつもりなどない」
 強い目で見てくるね。
 といっても最初の頃のような恨みの宿ったものではないけど。
 でも、強さの中に哀愁も帯びている印象。
 
「うん。優秀だな」
 団長が敗北宣言をすれば、それに合わせて傭兵団も各々が手にする利器の切っ先を地面へと向けたり、鞘に納めて地面へと置いていく。
 投げ捨てるような事はせず、置くという行為には好感が持てた。
 自分たちが命を預ける武具に敬意を払い、普段から大切に扱っているというのが伝わってくる動作だった。
 
 本当に……。カリオネルが取り巻きとしていた連中と同じ傭兵団とは思えんな……。
 副団長だったガリオンは、あの愚連隊のような連中を団長に代わって指示する立ち位置にいたのは嫌だったかもしれない。
 俺が同じ立ち位置なら、面倒くさい連中に指示を出すのとか嫌だもん。

「ハッハー! 勝利です!」
 俺の所なんて、面倒なのが一人いるだけでも大変なんだからな……。
 コクリコ……。戦った相手には少しでもいいから敬意を払え。
 シェザールとの戦いは、コクリコ、シャルナ、マイヤのトリオによる勝利で終わっていた。
 シェザールは力なく地に伏せている。
 そんなシェザールを踏みつけて勝利宣言をしているコクリコに恥ずかしさを感じるぜ……。
 間違いなくベルによる拳骨ルートですな。
 思ってたら直ぐに殴られていた。
 三人とも怪我らしい怪我は負っていない。
 むしろ拳骨のダメージがコクリコにとって一番大きかったかも……。
 コクリコだけなら難しい相手だっただろうが、ハイエルフのシャルナと、ギルドにて俺のパーティーや高順氏を除いた場合、二枚看板といえるマイヤが加われば難しい相手ではなかったようだ。
 
 対して――、

「カイルは良い勝負ってところか」
 同じような体力自慢の相手とのタイマンは互角に近かったようで、決着はついておらず、双方、体の各所から流血。
 肩で息をしての終了となっていた。
 良い戦いをしたからか、向かい合う二人は互いに笑みを湛えていた。

「抵抗もせずにスムーズに事後処理が行えるのはいい事だな」

「最後にいいか?」

「なんだ?」

「あの抜刀はなんだったのだ?」

「お宅の鞘の真似事だよ。俺は弱いからな。基本いいと思ったモノはパクって自分のモノにしていく。パクりであってもパクり元を超えればオリジナルって考えだから」
 殆どがオリジナルを超えられてないけどね……。

「そうか――。まあいい。抜刀で負けた時点で私の敗北だ」
 勝てたのは単純に膂力の差だけどな。
 それがなければどっちに転ぶか分からない一合だった。

「この戦闘で思いついたのなら、名はまだないのだろうな」

「おお、そうだな。考えとかないとな」
 いいところに気付くじゃないか。
 流石は俺の琴線に触れる名前の装備で身を固めているだけはある。
 ――火龍装備からなる技だからな。烈火のように漢字で揃えたいよね。
 爆発するように鞘から残火を抜くわけだから――――。

「こんなのはどうだろうか? 抜刀ばっとうならぬ爆刀ばっとうってのは? 同音の言葉遊びなんだけど。ちなみに目眩ましのは幻焔げんえんで」
 ドヤッと問うてみれば、 

「敗者である私には否定する権限はない」

「なんだそりゃ?」
 お宅が聞いてきたんだろうに。
 感想を欲したのに、否定する権限はないって返しはどうよ。
 
「力こそが全てだ。その力の前に屈した私は力なき者だ」

「徹底した実力主義だな」

「我々の生きてきた世界ではそれが単純明快。分かりやすいから従いやすい」
 単純だから単純な連中は従うんだよな。
 生きるために食べる。
 力でそれを実行するためには、自分たちの実力を権力者に見せつけるか、自分たちが台頭して権力者になるか。
 マジョリカ達は前者を選択したようだ。
 元々が復讐の意味合いもあったからな。カリオネルを利用してからロブレス伯爵を殺害し、爺様にも手をかけようとしていたんだろう。
 
 もしかしたら、利用していたカリオネルも最終的には殺すつもりだったのかもしれないな。

「我が復讐、果たせず……か」
 伏せていた体を動かせば、俺も身構える。

「大人しく投降するのが賢明だぞ」
 捨て鉢で突っ込んでこられるのが一番困る。
 警戒して注視すれば、手が動く。

「結局はそういった選択かよ!」
 一本の骨喰ほねばみがこちらへと向かってくる。
 俺の背後からブンブンと不細工な風切り音を纏って。
 まだ操るまでの体力が戻っていないのは、鋭さのない飛翔音からも分かるというもの。

「抵抗は無駄だ」

「キュ!」
 発せばゴロ丸が応じ、正座姿勢からつと立ち上がり、骨喰から俺を守るようにミスリルからなる大きな手で遮る。
 
 だが――、

「そうではない。成長したと思ったが、その目は節穴だな。馬鹿者」

「まったくだ」
 辛辣を俺に投げつけてくるベルに続いて、アーセナルフレームから降りたゲッコーさんの二人が素早く俺の方へと走ってくる。
 厳密に言えば俺ではなく――、マジョリカに。
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