異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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ミルド領・閑話

PHASE-1006【欲】

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 ベルセルクルのキノコ。傭兵団――愚連隊レベルの連中が多用していたモノとして俺は記憶している。

 戦いにおいては食した者を極度の興奮状態へと変貌させ、恐怖耐性や痛覚を鈍らせる事が可能。
 また脳のリミッターも外せるから、火事場の馬鹿力も発揮できる。
 並以下の愚連隊でも面倒な力を振るえるまでになるのは、カリオネルとの戦いの中で経験している。

 また使いこなせる者達の数は少ないけども、キノコから抽出して濃度を高めたエッセンスともなれば、超人的な力を発揮させることが可能だというのも、副団長であるガリオンとの戦いで俺自身がしっかりと経験している。

 狂戦士の名を冠するだけあって、キノコの使用法は戦いがメインなのだろうが、濃度を薄めるなどして上手く活用すれば、精神不安などの病に悩まされている患者の精神を安定させる為の薬としても使用され、戦い以外の場でも活用する方法は多岐にわたるとされている。

 でもやはり、戦いに重きを置く冒険者や兵士。傭兵たちの間で重宝されていたというのが現実で、そっち方面に大きな需要があり、莫大な利益を生み出すだけの力を持っていた。
 またカイメラの連中が栽培していたモノと違って、天然物のベルセルクルのキノコは、自然からのマナに触れている事もあり、栽培品以上の効能を有していたということから、天然物は昔から高価な値がついていたという。
 
 この利益に目が眩んだのがネアシス領領主のロブレス伯爵。
 隣領のクガ領にて天然物のキノコが大量に手に入ると知れば、欲深な人間は考え方が邪に染まり傾いていく。
 しかも自生していた場所も悪かった。
 キノコが自生していた場所は、互いの領地の境界線付近だった。

 ロブレス伯爵がその付近の土地に対してケチを付け始めたという。
 欲深なロブレス伯爵が突如として自分の領地だと言い出したわけだ。
 もちろんそれは通らない。
 爺様に異議申し立てをしたところで、当然、叱責こみで却下される。
 
 思い通りにいかず、おもしろくないロブレス伯爵。
 境界線の少し先には、莫大な金を与えてくれる魔法のキノコがあるわけだ。
 実際にクガ領はこのキノコを得たことで、翌年からは莫大な金を手にすることが出来たという。
 
 だからこそ余計にロブレス伯爵はおもしろくなかったんだろう。
 強欲な伯爵が次に打った手は、キノコの危険性を訴えるというものだった。
 この時代はまだ大陸全体で禁止となっていなかったそうだが、使用中の姿が常軌を逸しているということもあり、危険性も訴えられていたという。

 こういった声を利用して、ロブレス伯爵は危険な代物だということで、このキノコの売買を禁止するための法案を作るべきだと爺様に嘆願したそうだ。
 伯爵は爺様だけでなく、当時の若き王様にも嘆願書をしたためていた。
 自分が利益を得ることが出来ないのは許せない。
 隣の領地でおいしい思いをしている者がいる事が我慢できないという妬みが、この愚かな人物の原動力となっていた。

 歪みきった私怨はどうあれ、ロブレス伯爵の言い分には正しさもあると判断したのか、王様だけでなく爺様も、ベルセルクルのキノコの売買を禁止するように動いたという。
 
 もちろん、いきなり全てを禁止とはしなかった。
 兵に対しては強く禁止と言えるが、兵だけではどうにもならない案件にはクエスト依頼として冒険者などを起用していた事もあり、その冒険者たちから不満の声が上がることで軋轢が生じる事は回避したいからと、段階的に禁止にしていくことになった。
 
 医薬品名目としてのあつかいならば一定の許可も出すとの流れだったが、ここで新たな問題が発生してしまう。

 問題とは、大量の天然物のキノコが自生する土地を有した人物が、ロブレス伯爵と同等の強欲さを持った人物だったということだった。

 自領に金になるキノコを持っていたぶん、ロブレス伯爵以上の強欲な存在に変わり果てたドルカネス伯爵。
 当然ながら使用禁止法案には大反対。
 禁止法に強い反発をみせ、王様や爺様の使者を領内に入れる事を許さなかった。
 
 交渉は全くもって進展せず、ついには最後通牒の交付一歩前までに及び、ドルカネス伯爵は私兵を伴い、刃を爺様たちの方へと向ける選択を実行する前段階まできていたが、この時はまだ自制する力もあり、思いとどまっていた。
 
 だが来たるべき時を想定し、私兵だけでなく、キノコによって得た莫大な富で傭兵たちや、金に目の眩んだごろつきなどの悪党の類いまで雇い入れてしまう。
 結果、ドルカネス伯爵の軍勢は四万を超える勢力に膨れあがった。

 下っ端の捨て駒あつかいだったとはいえ、悪党の類いを入れたことによって、ドルカネス伯爵は自らを追い込んでしまう事になる。

 富を奪われる事を拒む事に執着した伯爵は、そういった連中が無秩序な存在だという事に考えがおよばないほど欲に目が眩んでいた。
 
 ――とうとう最後通牒が交付される運びとなる。
 しかし、訪れた使者を領内へと招き入れることはなかった。
 短絡的なごろつき達は、その場で殺害してしまうという暴挙に出てしまったのである。

 考えが浅はかな連中の愚行を伯爵が知った時には既に手遅れ。
 完全に謀反の人になってしまった。
 
 やってしまったものは仕方がない。
 そもそも、自分の所で取れた素材にケチをつけてきた者達が悪い。
 では誰が一番悪いのか?
 それはこのミルド領を統治する公爵だ。
 不仲であるはずの王と共に禁止法などを作るのが悪いのだ。と、責任転嫁にいたり、捨て鉢な考えへと傾倒し、また四万を超える兵力と富を有していたことで気が大きくなったドルカネス伯爵は、弁解をすることもせず、最悪の選択である宣戦を布告してしまった。
 
 崩壊へと続く道を自ら歩むことになる。
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