異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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ミルド領・閑話

PHASE-1011【やる前から精神にダメージ……】

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「ちょっとぉ、主殿ぉ!?」
 慌てて駆け寄ってくる荀攸さん。
 中々に見れない表情と裏返った声だった。
 離れた場所では爺様が目を丸くしている。

 一部を除いたけども、荀攸さんや爺様はその一部には入らなかったか~。
 まあ仕方ないよね。どういった処遇にするかって荀攸さんと二人で考えて、今日まで答えは出ずじまい。
 というか、俺が決断しなかっただけなんだけども。
 でもって、ここで俺に勝てたら無罪発言ですもんね。
 そりゃ慌てますよね。

 それに比べて一部を除いたというのにカテゴライズされる内のメンバーは、呆れた発言と受け取ったようで苦笑い。
 驚くことはないけど、アホな発言だと判断したようだ。

「急に何を言い出すのですか」
 声を整えてから荀攸さんが問いかけてくる。

「大丈夫ですよ。勝つんで。傭兵団が無罪になるなんてあり得ませんよ」
 余裕を持った発言で心配ないと荀攸さん返してあげる。
 しかも周囲を煽るように、すでに勝利者と言わんばかりに拳を高らかに掲げる俺。

「「「「おおっ!」」」」
 と、片方から声が上がり、

「「「「ああっ!」」」」
 と、片方から声が上がる。
 前者の第1行第5段は歓声によるもの。
 後者の第1行第1段は激高によるもの。
 もちろん前者はこっちサイド。後者は傭兵サイド。

「主殿!」

「こんなにも慌てる荀攸さんは初めて見ますね」

「初めて見せておりますので!」

「貴重ですね。で、どうすんだよ。受けるのか?」
 返しつつ同時にマジョリカにも問えば、

「ちょっとお待ちを!」
 俺とマジョリカの間に入り込む荀攸さん。
 凄く必死である。腰を落として両手を広げての遮り。
 うん。カバディをやらせたくなりますね。
 
 そうやって必死になるのも分かりますよ。トップがアホな発言をしてますからね。
 でもそのトップの俺自身が、しっかりと自分がアホだと認識しているので問題なし。
 
 それに――、

「色々と俺の中で考えた結果なんですよ。考えた結果なんとも甘い答えが出てしまいました」

「あり得ませんよ。こんなこと」

「まったくですね」

「分かっているなら考え直していただきたい」

「いや~この状況でやっぱり今の発言なしって言ったら、格好がつかないでしょ。公爵が嘘つきとか、皆から信用されなくなりますよ」

「ぬう……」

「大丈夫ですって。問題なく勝ちますから。なあカイル」

「その通りですよ」
 いいね~こういう時のイエスマンって。多数決の時に助かるってもんだ。
 俺が余裕発言をする度に、傭兵たちからは罵声が浴びせられるけどね。
 で、こっちサイドのギャラリーも熱が上がっていく。
 視線下方四十五度凝視から再び一触即発なんだけども、先ほどのベルの黙れ発言が脳裏にしっかりと刻まれているのか、双方、声は出しても踏み出す勇気はない模様。
 さっきと比べて声も小さいし。

「マジョリカ。お宅と傭兵団にとって千載一遇の好機だぞ。それとも自慢の愛刀じゃないと本気が出せませんでした~ふえ~ん。って泣きながら言うか?」

「随分となめられたものだな。馬鹿にするのも大概にしろ! マナ有りきなら遅れはとらん」

「よし。お宅を五体投地させて、二勝一敗の勝利者として立たせてもらうわ」

「本当にふざけた小僧だ。木刀とはいえ、こちらは命を奪うつもりだぞ」

「こっちは命を奪うつもりはないよ。手加減できるだけの差ってのがあるからな」

「お前はどうしてそこまで強気に発言が出来るのか……聞いていてこちらが恥ずかしくなってくる」

「論より証拠だ。やってみようぜ」
 言えば、相対する美人は深呼吸を一度おこない、カイルが持つ木刀を掠め取り、

「――いいだろう」
 と、こちらからの申し出を受け入れる。
 マジョリカが戦いを受けると発せば、荀攸さんはカイルによって俺から遠ざけられる。
 心の中でしっかりと荀攸さんに謝罪しつつ、目の前の相手と一定の距離をとる。
 そして俺達の間に立会人であるガリオンが立つ。
 
 ――ほうほう。
 コイツはびっくり。
 木刀であっても居合いによる構えなんだな。
 神速抜刀は鞘に埋め込まれたタリスマンありきだってのに。
 抜刀術というより、マジョリカにとって最も得意とする構えって事なのかもしれないな。
 まっ、どんな構えでもいいけどな。俺が勝利者となるのは揺るがないから。
 ――――凄いね俺。完全にイキリ主人公じゃないか。

「おい副団長。立会人になってんだ。平等に見ろよ」

「分かっている。強者を決める戦いで不平などせん」
 カイルの凄みに対して、視線を逸らすことなくしっかりと睨み返す辺り、ガリオンも強者だよな。

「それで、貴様が勝ったら何が望みだ?」

「俺の言うことを聞いて、しっかりと罪を償え」

「言うことを聞くか。体を提供しろと言われれば、断れないのだろうな」
 ――…………。

「ば、馬鹿じゃねえの! そんなことをい、い、言うわけないだろぅ!」

「そうか。敗者となった場合、素直に受け入れるつもりだったが」

「…………マジで!?」

「トールの鼻の穴が開いてますよ」

「チガウヨ、コクリコ。アト、マイドマイド、シテキシナイヨウニ」

「片言ですよ。アレは勝利した後に助平なことを考えていますね。助平公爵として権力を振るう事で、名を轟かせますよ」

「振るわないです! 轟かせもしません!」
 なので女性陣も毎度毎度、俺を残念な目で見ないように!
 特にベルは俺を侮蔑する目で見ないように……。俺の精神世界アストラルサイドにガンガンとダメージが入ってくるから……。
 
 というか、下のネタになると、なんで俺ってこうも信用されないんだろう……。
 バニーか? 衆目でのバニースーツが未だに尾を引いているのか?
 温泉のぞいたことか? おピンク街か?

 ――……思い当たる節がそこそこあるわ。 
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