異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

文字の大きさ
1,036 / 1,861
エルフの国

PHASE-1036【エルフの身分制度】

しおりを挟む
「父様は一応、氏族だから」
 態度同様にシャルナの声には不満があった。

「一応とはなんだ。お前もそうだ。ファロンド家は代々、氏族の家系であり、軍事、警備を統括する立場なのだ。お前も少しは――」
 ――……代々ってなんだろう。
 ルミナングスさんは五千年以上を生きているのに、代々とかってあんの?
 その前にも世代がいくつかあるなら凄いというより恐怖だね……。
 
 そんな先達がつくった国を守っていくのが今のエルフさん達の立ち位置。
 やはりと言うべきか、しっかりとした階級社会によってこの国は成立しているそうだ。
 
 歴史ある階級制度。それを維持しているのだから全体に受け入れられているのか、それとも反発すれば力で押さえ込むのか、村八分にするのかは分からんが、いま思い浮かんだ俺の浅い想像は、一通りは起こっているんだろうな。
 人間も同じようなものだし、何よりシャルナの不機嫌さがその答えなんだろう。

 ――――もっと知りたいとルミナングスさんに伝えれば、俺の為ならばと説明をしてくれる。
 
 エルフの身分階級に置いて第一位はエルダールと呼ばれ、王族の階級となる。

 第二位はヴァンヤールと呼ばれ、ルミナングスさんが位置する氏族の者達。
 古より王族を支えてきたのがこの氏族階級であるヴァンヤールだそうだ。
 唯一、王族に対して意見を述べることが許されており、物事を決める時には過半数以上の氏族の声が上がれば、エルフ王の提案が覆されることもあるという。
 ここまでがかみのエルフ――つまりはハイエルフのみが就くことが出来る地位。

 第三位はノルドールと呼ばれ、官僚や軍属として王や氏族の命によって国の内側を守り維持する立場。
 ノルドールはハイエルフやエルフがその役職に就くとされる。
 ルーシャンナルさんなんかがこの地位にいるそうだ。

 第四位はテレリと呼ばれる民。
 エルフやハーフエルフが民としてこの国を支えているそうだ。
 
 説明を受けて思うことは、やはりこういった身分制度は人間もエルフも変わらないといったところだ。
 この世界の人間もそうだし、元々いた世界にもカースト制度ってのがあった。
 種族、世界は違えど考えは同じ。

「ねえ、父様」

「……なんだ?」
 説明をしてくれたルミナングスさんにシャルナが割って入る。
 シャルナは今まで以上に不機嫌な感じだし、ルミナングスさんの表情も暗い。
 シャルナが何を言おうとしているのか分かっているかのようだった。
 
 そんなシャルナが、

「ウーマンヤールが入ってない」

「それは……いま言うことではないぞ」
 明らかに娘の発言に父親は動揺している。

「そういったのが続いているから外に出たいのよ」

「う、ううむ……」
 立場逆転とばかりにシャルナが強気になっている。
 対するルミナングスさんの耳は、元気のないうなだれた笹の葉のようだった。
 
 俺たち人間なんかよりも、遙かに長い時間を生きている種族。
 でもってしっかりとした階級社会となっているなら、何かしらの問題を内包しているってのは想像に難くない。
 俺達としては黙って出されたお茶を飲んで、状況を窺うのが得策だろう。
 余所様の事にあんまり首を突っ込んではいけない。

「トールも勇者で公爵なんだから、なんか言ってあげなよ」
 ええ……。
 状況も分かっていない俺になぜ振るんだよ……。

「よさんか。外の方々に言う事ではない。それよりも戴冠式が近いのだ」

「へ~大事な時期ってそれか。新しい王様はどういった考えを出すんだろうね」

「現王と変わらず調和を大事にしてくださる」

「どうだか。変わらない時点で駄目なんじゃないの。ねえトール」
 なんでここでまた俺に振るんだよシャルナ……。
 逃がしてくれないね。

 ――……。
 でもってなぜか皆して俺を見てくるよね……。

「まあその。あまり反感を買うような事案が発生しない事をミルド領の主として願っております。何よりも戴冠式とはめでたいことですね」
 なんとも当たり障りのない発言で茶を濁してみる。
 まだ来たばかりの国で、内情も知らない人間がでしゃばるのはよくないんでね。
 
 戴冠式もあるようだし、なにより今後の魔王軍との戦いにて協力をお願いしたい立場としては、波風は立てたくないのも事実。
 そんな日和った俺の対応にシャルナはますますご機嫌斜め。

 ――……なんだろうか……。政治屋の方々の苦労をわずかだけども理解した。
 対外政策って如何に良好を保ちつつ、自国の意見をねじ込むかって事なんだろうね。
 その為には相手側の内情に深く突っ込んで不快にさせないというのも大事なんだろうな。
 勇者という立場なら、そんな事を考えずに正義の二文字で行動するんだろうけどさ。
 でも公爵でもあるんだよね……俺。
しおりを挟む
感想 588

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...