異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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エルフの国

PHASE-1057【堂々たる姉御】

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「大恩ある方々と次期王の再会は非常にめでたいこと。この後の一席も含め、後世で語られるものとなるでしょう」
 話題を次へと進めるかのように蛇さんがそう言えば、

「カトゼンカ卿の言は正しい」
 と、エルフ王。

「有り難うございます。では、お客人である皆様には宴の場に――」

「ちょっと待っていただきたい」
 ――……うん。
 どうしてここでお前が先頭に立つんだ……コクリコさん。
 小柄な体が俺達の誰よりも前に立つ。
 効果音をつけるならドーンッってのが似合うくらいに威風堂々。
 その姿に言葉を遮られた蛇さんは継ぐことが出来なかった。

「いかがしたウィザードの者よ? 何かあるなら申してみよ」

「発言を許してくださり感謝します王よ。ですがちゃんとロードウィザードと呼称していただきたいですね」

「うむ……それはすまなかった」
 ――……エルフ王が寛大でよかったな。
 場所が場所なら即斬首ルートだっただろう。

「して、偉大なるロードウィザード殿が会話を遮った理由はなにかな?」
 頼むから大きな肉を所望します。なんて事は言うなよ。

「謁見する前、私達はその空いた時間を利用してこの国を見て回りました。無論、この国全体を短い時間で見て回るなど不可能なことですが――」
 ――……大きな肉を所望します。ってのがよっぽど良かった内容のようだな……。
 まあ、俺もそれは言おうとしてた事だけど。
 
 エリスとの久しぶりの再会とやり取りで忘れかけていたのが情けないね。
 それに比べてコクリコはしっかりと意見を述べようとしてるんだから。
 姉御モードはしっかりと維持してる。
 
 ――――姉御モードのコクリコはこの国でのテレリとウーマンヤール。特にウーマンヤールのあつかいには遺憾であると発言。
 場の空気はキンキンに冷えきってしまった。
 ルミナングスさんに至っては、ポルパロングに負けないくらい蒼白な表情。
 胃がエメンタールチーズになっているかもしれない。

 長い時を過ごす者達が抜本的な改革を行わず、変革を恐れるあまり、未だにダークエルフ達を虐げているというのはなんともいただけない。
 森の賢者ではなく愚者と称するべきだとすら言えるのが凄かった……。
 
 これに対して氏族の方々はあまりの言い様に呆気にとられる始末。
 蛇さんだけは冷静に細い目でコクリコを窺ってはいたが、口を挟めないほどにコクリコに気圧されていたのも理解できた。
 正面から受け止めるエルフ王は御簾の奥側で項垂れているのが分かるし、俺達の側にいるエリスも笑顔が消えて同様の姿勢になっていた。

「長命だからということに胡座をかいて現状で満足しているようでは魔王軍どうこうではなく、国の下から崩されますよ。自分たちの同胞によって滅びの道を歩むことになるでしょう。悠久の命を持っていても、国の寿命は有限ですよ」

「「「「お、おお……」」」」
 コクリコを除く俺サイドの全員が呑まれてしまった。
 なんだろうか、先生や荀攸さんを幻視してしまうような胆力ある格好いい発言だったよ。
 コクリコの姉御はしっかりと成長しております。
 魔法成長の歩みはゆっくりでも、思考はしっかりと成長している。
 そして――、俺達の中から誰が最初に行ったかは分からなかったが、自然と拍手がおきた。

「拍手とか馬鹿にしてます?」

「してねえよ。感心してんだよ」

「トールの言うとおりだ。素晴らしかったぞ」
 強者であるベルの感嘆からなる発言を受ければ、コクリコの気分もよくなるというもの。

「全くもって痛いことを言ってくれるものだな。ロードウィザード殿」

「痛みを感じる事が出来るなら幸いですよ。これで無痛ならこの国は死んでますから」
 威風堂々たるコクリコがエルフ王に再び返せば、エルフ王からも拍手が送られる。
 氏族の面々は蛇さんを除いて顔を下へと向けていた。
 凄いよコクリコの姉御。
 本当に姉御モードの時は有能だな。

「やはり勇者殿も同じ思いなのかな?」

「うちのパーティーメンバーがそう言っている時点で同じだと思っていただければいいですね」

「そうか――そうであろうな。その発言は心に留めさせてもらう」
 なんか俺が場を締める発言をした事になったので、コクリコの良いところを全部かっさらってしまったようになってしまった。
 今までは俺が活躍した後によくコクリコが前面へと出て自分の手柄にしていることばかりだったが、故意じゃないがコクリコと同じような事をしてしまった。

 ――――。

「まったく信じられませんよ! 人の活躍を奪うなんて」

「俺が最後に問われたことで俺の発言って感じになったもんな」

「勇者として信じられませんね」

「コクリコがよくやる手法だろ。しかも俺のは邪なものでも故意でもない。向こうが締めの挨拶として俺を選んだんだよ」

「じゃな。上手いやり方だと思うぞ」
 確かにね。
 氏族達をあれ以上刺激しないように、王が俺に話を振り、あの場を締めさせたとも考えられる。

「なにが上手いですか。その酒瓶を叩き割りますよ」

「それは勘弁してくれぃ……」
 だとしても納得がいかないコクリコは八つ当たりとばかりにギムロンの大事なモノを標的にすれば、さしものギムロンも気圧されてしまう。
 
 ――謁見の間を後にして、一席を設けるという奥の間までルミナングスさんとファロンドさんの案内で移動。
 王にエリス。他の氏族は一緒には行動する事はなかった。

「しかし会頭が次期エルフ王の恩人だったなんての」
 割られまいと酒瓶を抱きかかえつつギムロンが話題を変えれば、

「本当にビックリだよ。早く言ってよ」
 と、シャルナも続く。
 キッっと睨んできたのはそういった話を聞いてなかったからって事だったようだ。

「海賊達との戦いの時はまだシャルナはいなかったしな。まさかの再会には俺自身もビックリしてんだよ」
 謁見の間でのやり取りを思い出しつつ会話を広げていく。

「ふぅぅぅ……」
 俺達が和気藹々と話している中で長嘆息をするのは、先頭のルミナングスさん。
 謁見の間でのこちらの応対が相当なストレスになったみたいだ。

「すみませんでした」

「ああ、いえ。外の方がこの国の有り様を素直に述べただけですから。それに、勇者殿にこの国を見て回れば分かると発言したのは私ですから。その感想を素直に述べられたというだけです」
 長嘆息と発言が乖離してんだよな……。
 
 氏族として他の氏族と考え方が違うし、王様寄りの考えを持ちながらも他の氏族との調和も図らないといけない立場だからストレスは凄そうだ。
 
 親父さん、我慢の臨界点を突破いてキレなければいいけど……。
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