異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

FOX4

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トール師になる

PHASE-1082【基本は忘れず忠実に】

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 ――――。

「よしいいぞ。でももっと腰を落として、足の裏から上半身に力を伝えるように。全身を使って振るんだ」

「はい!」
 出来るだけ俗物は回避したいので、立派な師匠であるべく、ククリス村にてサルタナに剣術を教える俺。

「違う」

「すいません」

「振りが腕にだけ頼ったものだ。全体を使うんだ。ハウルーシ君と会わないようにと言われたのはショックだろうが、それを振り払うために振るのは違う。雑念に支配されているぞ」

「おお、一丁前に師らしい事を言ってますね」

「うるさいぞコクリコ。お前もこの間に魔法の一つでも習得したらどうだ」

「フフフ――。私とて成長はしているのですよ」
 なんだ、凄いのを習得したようだな。
 笑みから自信が伝わってくるぞ。

「俺も爆刀に幻焔とオリジナルの技を習得したからな。コクリコもいよいよ上位を覚えたみたいだな。で、なんだ? 派手なのが好きだからな。バーストフレア?」

「……」

 ――……ああ、うん。その顔からして中位だな。

「よし、力も大事だが弛緩も大事だ。しっかりと柄を握りつつ、腕や肩を弛緩させてみるんだ。腕と剣を一つにするような――そうだな――鞭をイメージして振ってみようか」

「はい!」

「でも振り回されるなよ。しっかりと抑制も心がけるように。じゃないと自分の足なんかに木剣が当たったりするぞ。それが真剣なら足がなくなるからな」

「おぃぃぃぃぃぃぃ! 華麗に流しますね。あれですか! 中位だと駄目なんですか! 上位じゃなきゃ駄目なんですか!」
 言い様が白スーツの議員みたいだな……。

「駄目だな」

「バッサリですね!」

「これからは更に激しい戦いになるからな。上位くらい習得しとかないと」
 言ってなんだが俺もだけどな……。大魔法は使えるけど自分の実力での習得じゃないし。

「つぅ……」
 サルタナの振りが悪くなる。
 手のマメが出来てこそ一丁前。
 それが硬くなって丈夫な掌が出来るというもの。
 痛みを感じながらも振ればいいと語る昭和根性論の俺は十七歳。

 偉そうな根性論を口にする俺は、火龍装備で籠手と一体化している手袋をつけているから、手タレ目指せるくらいに綺麗なのは秘密。
 コクリコにも偉そうに言っておいて上位魔法は使用できない。
 最近は火龍装備でマメの心配もない。
 ――……俺もまだまだだな。
 
 ――――。

 村から屋敷へと戻れば、その報告が直ぐに届いたのかエリスが訪問。
 ルミナングスさんは次期王がこうやって尋ねてくるのは喜ばしいことだと言いつつも、胃の部分を擦るあたり重圧によるストレスは感じているご様子。

「マスター・トールに素振りを見てもらいたく参じました」
 堅っ苦しい言い方だ。

「夜になるというのに真面目だね」
 俺の弟子達は本当に熱心である。

「少しは弟子を見習ったらどうだ。手袋の下は綺麗な掌なのだろうからな」
 ベルにはバレバレか……。

「今朝ゲッコー殿から聞いたが、本当にマスター・トールなどと呼ばせているのだな」

「ああ、はい……」
 やっべー、っべーわ。調子に乗っているってのをエッジの効いた睨みで伝えてきてるわ……。
 これは蹴られ――!?

「はぁ!? いっだいの!」
 蹴られるとか思っていた矢先に、思いっきり外側広筋にクリティカルヒットですよ。
 転がりまくるわけだよ。二番弟子の前で無様に涙を浮かべて転がるわけですよ俺氏。
 しかもオネエ言葉のような言い方だったし……。 

「師としての面子もあるからな。いつまでも転がっているのはよくないな」
 スパルタ二人目のゲッコーさんも追撃。
 生まれたての子馬みたいに震える足で立ち上がる。
 すっごく変な深呼吸を繰り返してしまうよ……。なぜかって? とんでもなく痛いからさ……。

「大丈夫ですか? マスター・トール」

「……はうん……」
 我ながら情けない返事である……。

「あ、後……今まで通り師匠に戻そうか」

「あ、はい」
 賢い子である。
 俺とベル、ゲッコーさんとの力関係をしっかりと理解してくれたようだ。

 ――。

「で、どうよ。内のギルドメンバーが作ってくれた得物は」

「手に馴染む素晴らしい木刀です」
 自分で見つけた木で作られれば愛着が湧くから練習にも身が入るってもんだ。
 その辺はサルタナと同じだね。
 ちゃんと柄部分に紐を通して手首に通すというのも理解している。
 木剣ではなく木刀にしたのは、俺が振るう残火の形状に似せたかったからだそうだ。
 可愛い弟子である。

「じゃあ――」

「はい! ――はぁ!」

「おお」
 返事からの裂帛の気合いによる一振りはお見事だった。
 先日コクリコにへたっぴと言われていたのが嘘のようだ。

「天稟だな」
 一振りで理解できたのは、サルタナをすでに超えていた事だろう。
 サルタナも努力をしているが、エリスもしっかりと努力をしている。
 朝にはなかった両手に巻かれた包帯が努力の証拠。
 俺に見てもらいたいという思いで痛みに耐えて振っていた。
 この世界、回復魔法なんかでちゃちゃっと治せるが、それだと手の皮が厚く強くならないから使用しないという選択。
 心構えも上出来。
 
「やるもんだの」
 玄関先で胡座をかき、酒を飲みながら見学するギムロンも褒めれば、照れくさかったのか、長い耳が先端まで赤くなっていた。

「これは油断すればトールも追い抜かれるな」
 と、ベルも褒めている。
 油断していたら本当に追い抜かれてしまうかもしれない。
 マスター・トールどころか、師匠とも呼ばれなくなってしまう。
 それはいかんとですよ。

「よっしゃ!」
 俺もエリスの横に立って素振りに励むことにした。
 手タレを目指している場合ではない。弟子たちを見習わなければ!
 弟子たちにとって、どこに出しても恥ずかしくない師であるために!
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