異世界冒険記『ストレージ・ドミニオン』

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PHASE-1105【少数行動】

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「いつでも我が部隊の精鋭を動かす事は可能です」

「迅速大義である。では――」

「お待ちを」
 ルミナングスさんに下知しようと手をそちらに向けようとする王様だったが、ゲッコーさんがそれを遮る。
 話を許可するとばかりに、ルミナングスさんに向けようとしていた手をゲッコーさんへと向ける。

「大人数で派手に行動すれば相手に悟られるのは必至。加えて強い刺激を与えます」

「我々はエルフですよゲッコー殿」
 蛇さんが隠密行動には問題ないと言うも、対峙する者達もエルフだという事を忘れていますか? と、ゲッコーさんに返されれば押し黙る。
 
 カゲストが戦力強化のために、ダークエルフさん達を呪解しているという可能性もある。
 呪解することでダークエルフさん達は本来の力を取り戻しているかもしれない。
 そこに大々的な派兵を行い戦闘となれば、双方に甚大な死傷者が出るし、何より次期王を人質とされれば一方的にこちらに被害が出ることも考えられる。
 何たってルミナングスさんの麾下の部隊だからな。生真面目な面々が集まっているに決まっている。
 だからこそ、エリスを人質にされれば生真面目な分、余計に手出しが出来ないタイプが多いだろう。

「ではどうするつもりですかな? ゲッコー殿」
 押し黙った蛇さんに代わりルミナングスさんが質問。

「だからこそ我々がいます」
 と、返す。
 まあ、そうなるよね。
 でもってゲッコーさんは言いながら俺の方をしっかりと見てくるもんね。
 だからなのか、玉座の間にそろった皆さんは俺に視線を向けてくるよね。
 そういった衆目を浴びることには慣れたもんですよ。

「その通り!」
 なので快活に返事してあげますよ。

「やる気に満ちてるな」

「氏族の命を奪った罪も考えれば、俺はこの国のために出来る事をやらないといけませんからね」
 ゲッコーさんにそう返す。
 王様たちは俺の行動に対し、仕方のないことと言ってはくれる。
 蛇さんに至っては、反逆とも考えられる行動を起こしたシッタージュ殿にこそ問題があり、それに対応してくださったことにはむしろ感謝するとまで言ってくれる。
 エルフのお偉方による擁護発言はありがたいけども、発言を受けて俺の行動は正しかったんだ――なんて簡単に割り切れるだけの単純さは俺にはない。
 
 ポルパロングとカゲスト――そしてフル・ギル使いが起こそうとする騒乱における初戦の火蓋を切ったのは、成り行き上仕方なかったとはいえ、間違いなく俺とポルパロングだからな。
 俺が始めた戦いと誰かに言われれば、肯定でしか返せない。
 他国で起こした大問題は俺発信……。
 だから俺が対処しないといけない案件である。

「まずは我々が行動させてもらいます。少数にて次期王であり我が二番弟子を救い出します」
 そう発して頭を下げ、俺達は城を後にした――。


 ――――。

「なるほど。私が臨機応変にいつでも動ける準備をしていた間に、とんでもない事態になってしまったようですね」

「なってしまったのだよコクリコ君」
 臨機応変な準備の割には、口周りにはヨダレの垂れた形跡がありますね。
 俺たちが戦っている最中、コイツはポカ~ンと、口を開いて寝ていたようだ。
 実際、留守番目的で待機させていたから、大人しく寝ててくれた方がこっちも有り難かったけどね。

「是非もなし。我々に出来る事は行動あるのみです」
 寝起きで元気な姉御は頼りになりそうである。

「それで、ここにいる我々だけで行動するのだな」

「そうなるな」

「分かった」

「とりあえずベルはミユキをここに置いていったほうがいい」

「むぅ」
 なにそのむくれ顔。可愛いじゃねえか。

「危険だからな」

「だがここが安全とは限るまい」
 誰が敵なのか分からないといった状況になってしまったからな。
 ゲッコーさんがまず俺たちだけで行動したかったってのには、そういった理由もあったのかもな。

 誘惑系の魔法ってゲームとかだとそこまでメジャーな魔法じゃなく、混乱系魔法の影に隠れがちだけど、こと現実で――しかも権力者にそれが使用されると恐ろしい事この上ないというのを痛感させられる。
 この国では習得、使用を禁止にするくらいだしな。
 これは俺の領地だけでなく、王様や他の領主達にもアドバイスしとかないとな。
 ――きっとそういった法律はすでにあるのかもしれないが。
 
 しかし搦め手の魔法ってこういった時、脅威だな。
 フル・ギルにかかっている者が他にもいるかもしれないと考えれば疑心暗鬼に繋がるというもの。
 大多数で行動すれば数が多い分、術中に陥りやすくなるだろう。
 やはり少数での行動がベストだな。

「会頭と蔵元の判断は正解だったの。外の者達――加えて腕っこきが対応した方がいい。内輪での戦いとなれば後々の禍根にもなるってもんだ。外の連中が動く方がまだ禍根も薄れる」
 ただでさえこの国は下の階級の者達には不満が溜まっている。
 派手に火がつけばウーマンヤールだけでなく、テレリ階級の者達も呼応する可能性があると髭をしごきつつのギムロン。
 喋々な語りと共に酒気も漂う。
 こんな状況でも酒臭いのはある意味、頼もしくもある。
 
 俺としては魔王軍のこともあるから、こっちサイドも禍根は残したくないけどね。
 まあ氏族の命を奪っている時点で、それに関しては何も言えないけど……。
 挽回する為にも、ここはこの国のために励まないと! 何より可愛い弟子を救うのは師匠として当たり前だしな。

「後は放たれた矢のように勢いよく飛び出すだけ!」
 とにかく急ぎたいとばかりにシャルナはせっつき、屋敷から外へと出る。
 
「――本当にいいんですか?」
 シャルナの後に続く人物に俺は語りかける。

「はい」
 と、短くも強い目力を俺に向けての返事はリンファさん。

「足は引っ張りません」
 と、ルーシャンナルさんが続く。
 俺達のパーティーには協力者として、リンファさんとルーシャンナルさんが同行。
 リンファさんは自分の失態でエリスを連れ去られたという自責の念から。
 ルーシャンナルさんはこの国に置いてルミナングスさんを除けば、戦闘担当だと一番付き合いが長いことから協力を申し出てくれた。
 二人は本音による協力だけども、国サイドからも参加をさせないと体面を保つことが出来ないという政治的な思惑もあるんだろうね。
 参加は蛇さんの指示でもあったから余計にそう思える。

 城仕えのリンファさんは分からんが、ルーシャンナルさんは土地勘もあるし、戦いにおいてもルミナングスさんの部下の中では三百人隊隊長であるカーミルトさんに次ぐ実力者だという。
 
 正直、北伐に参加してくれたカーミルトさんの実力をちゃんと見たことがないから、ルーシャンナルさんの実力は推し量れないけど、強いというのは佇まいからも伝わってくるので、救出の時には頼らせてもらおう。
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